フォーク・ソング同好会には、部室が与えられていない。練習場所も視聴覚室が空いている日は使えるが大勢がそこで一緒に練習するわけにはいかず、結局、各々の空いている教室を使わせてもらっている。
優斗は、グループを組まずに一人で弾き語りするスタイルである。そのため、教室でやるか家で練習するかどちらでも構わないのである。定例コンサートの前にもなると、毎日、ギターを持って帰ったりするのが面倒なため、教室に置きっぱなしであった。
放課後、誰も居ない教室で練習していると、ふと沼田が入ってきた。
「よう!やってるね」
「ああ、もうすぐ定例会なんでね」
優斗は、抱えていたギターを降ろしながら「まだ、帰ってなかったの?」と訊く。
「おれは帰宅部だからね」と言ったあとに「放送部で遊んでた」と自嘲気味に笑った。
「それより、今歌ってたのはなんて曲?」
「ああ、あれ?“三番目に大事なもの”って曲だよ」
「へえ、もう一回やって」
「ええ?ここで?」
「いいじゃん、どうせ人前でやるんだろ?慣れていた方がいいぜ」と言って、今度は普通に笑った。
仕方なく、優斗はギターをまた抱え直して歌い出したのだが、こんな明るい教室内で、しかも肥った男一人を前にして弾き語るというシチュエーションがどうにも気恥ずかしい。
それでも、歌っているうちに段々熱が入ってきて、真剣になって行った。
歌い終ると、沼田は「いいねえ~」と言いながら拍手をする。「いいよ!」さらに褒める。「いい曲じゃん」「俺、この曲好きだな」と賛辞が止まらない。優斗は褒められてまた気恥ずかしくなった。
「応援に行くよ。仲間引き連れてよ」
そう約束してくれたが仲間を引き連れてと言う言葉が少し気になった。あいつらもくるのか?漠然とした不安が脳裏をよぎった。
「次が最後の曲です」
もう1曲歌えば優斗の出番は会わる。最後の曲は“三番目に大事なもの”に決めていた。
曲名を紹介すると、ヒューッと指笛を吹く沼田。周りの生徒は少し迷惑そうだ。
そう言えば、“やつら”が見当たらない。
前日のことである。沼田が“仲間”に声をかけると、吉本は行けたらいくよと曖昧な返事だ。高山や桑野は優斗の歌には興味がなさそうだった。杉沢に至っては「素人の歌なんか聴きたくねえよ」と取り付く島もない。
つれない仲間たちである。そのかわり、橋口だけは来てくれた。昨年と変わって、隣で沼田がはしゃいでいるが、それに負けじと大きな拍手と声援を送ってくれている。
おぼろげに大林加奈子と北村杏子の二人の姿も見えた。今回も来てくれたんだな。優斗にとっては、それも嬉しかった。一年振りの“雄姿”が彼女たちの目にどのように映っているのか気になるところだ。
優斗が歌い出すとまたもや「イエーイ」と沼田の声が飛ぶ。
暗がりに沼田や橋口、そして大林と北村の顔が今でははっきりと見えていた。
「軽度難聴ですね。検査する度に変動するのは突発性じゃありません」
耳に異変を感じセカンド・オピニオンで訪れた大学付属の耳鼻咽喉科
「脳のMRIの結果は異状ありませんが、もう固まってしまっているのでこれ以上治療の施しようがないですね」
「じゃ、もう諦めろと言うことですね」
「ま、そうなります。今後、3か月おきに経過を見て行った方がいいでしょう」
「年齢的なものですか?」(過去にも何回か同じような症状があり、かなり前からいくつかの耳鼻科で加齢によると言われてきたので)
「いや、そういうものではないです」
「ああ、そうですか」
加齢じゃないと言われてなぜか安心してしまい、じゃ原因は何?と訊くの忘れてモヤモヤしている今日この頃である。
さて、本日取り上げるアルバムは、BUDDY GUYの『Ain’t Done With The Blues』(2025年)である。
御年89歳、正にレジェンドである。
7月にリリースした21作目(くらい)のスタジオ・アルバムである。
いやいや、まだまだ元気元気。笑いが出るほど元気である。
最初はやはり寄る年波には勝てないかと思いきや、聴いているうちにどんどん引き込まれていく力強さは健在だ。
前作『The Blues Don't Lie』(2022年)と同様にバック・バンドのドラマーであるTom Hambridgeがプロデュースとほとんどの曲作りにも参加している。バディの人生を語るような内容が多い。
本作もクリストーン・イングラム、ジョー・ウォルシュ、ジョー・ボナマッサ、ピーター・フランプトン、チャック・リーベルなど豪華なゲスト・ミュージシャンが客演している。
スロー・ブルースもビートの効いたロック調の曲でも何をやってもバディ・ガイだ。聴いているとこちらも元気になる作品である。
※ジョー・ウォルシュ参加
※ポーター・フランプトン
