雑文と音楽 -26ページ目

雑文と音楽

思いつきの散文や好きな音楽を

 

 

 優斗にとっての長い夏休みが終わると2学期が始まった。

 あれから、級友たちとは一度も会っていない。教室に入れば、これまでとまったく変わらない顔ぶれに安心感を覚えた優斗だった。

 変わらないと言えば、あの杉沢の態度も変わっていない。北海道旅行では、桑野に対する傍若無人ぶりは桑野から報告を受けた仲間たちは皆知っている。それなのに、“村八分”にするわけでもなく、これまでと同じように接していた。当の桑野さえも何事もなかったような態度をしていて、優斗にはそれが理解できず、歯がゆいとさえ感じていた。

 優斗自身も皆に合わせるようにはしていたが、どこか釈然としないものを感じていた。もっとも、杉沢は始めから好きになれないタイプだったのでこれまでも優斗から積極的に話しかけることはほとんどなかったし、杉沢からも話しかけてくることはまずなかった。

 

 2学期は、そうやって表向きは何事もなく、これまでと同じように過ぎていくかに思えたが、そのうちとんでもない噂が優斗の耳の飛び込んできたのである。

 噂というのは、杉沢が北村杏子と付きあっているらしいということであった。噂を聞いた優斗の心はなぜか急にざわつき始めた。あの北村がよりによってあの杉沢と付きあうなんて俄かには信じられなかった。

 学校では二人ともそんな素振りは微塵も見せないし、一緒に帰るところを見たものもいなかった。それとも意識的にそうしているのだろうか、実は学校以外のところで会っていたりしているのだろうか。噂を聞いてからというもの、優斗は、二人の挙動が気になってしかたなかった。

 きっと、“ガセネタ”だろうと自分に言い聞かせてはみたが、稀に二人が何か話しているところでも見つけると穏やかではいられなかった。

 それって、なぜ? あるとき、そんな自分の気持ちに疑問を持った。自分はなぜこんなにやきもきしているのだろうか。

 ただの噂話だけかもしれないのになぜこんなに心がざわついているのだろう。

まさか、杉沢に嫉妬している?そんなわけない。杉沢と北村がどうなろうと自分には関係ないはずだ。なのに、なぜ・・。

北村には一年の時から好意は持っていた。ただ、それ以上の深い気持ちは持っていなかった。でも、この落ち着かない気持ちは何だ?

いつの間にか、北村に対して好意以上の感情を持っていたのかと優斗自身が驚いていた。

 

「最近、どうしたの?」

 あるとき、大林加奈子が唐突に訊いてきた。

「え? なにが?」

「何だか元気ないというか、落ち着きがないというか、斎木君らしくないからさ」

 他人からわかるほど表面に出ていたのだろうか、少しも自覚していなかった。

「え?そう?変わりないけどな・・」

「それなら、いいけど・・何かあったのかなと思って・・」

 優斗は大林が自分のことを心配してくれていたことが意外に感じた。それよりも、丁度よかった、一旦躊躇はしたもののいい機会だと思い、北村のことを訊いてみることにした。

「北村ってさ、杉沢と付きあってるの?」

「ええ?何よ、いきなり! それはないでしょお!」

 加奈子は、素っ頓狂な声を上げた。

「なあに、それ?」

「いや、そんな噂訊いたからさ」

「ありえないよ、杏子があんな奴と」

 大林から「あんな奴」という表現が出るとは思わなかった。大林も杉沢のことを快く思っていなかったのだ。

「あいつ、どうせまた自分で噂立てたんじゃないの?」

「ええ、そんな恥ずかしいことする?」

「一年の時も同じクラスの女の子が犠牲になったらしいよ」

「そうなの? なんでそんなことするんだろうね?」

 自分で噂を立てておいて、それを既成事実にでもしようとしているのだろうか。そうだとしたら、姑息なやつだ。

「知らないよ。知りたくもない。杏子に限って絶対ありえないよ。第一、お互いに内緒で彼氏は作らないって約束してるんだから・・」

「そうなんだ。仲良いんだね」

 優斗は少し笑った。

「それで、北村にはこの噂は届いているのかな?」

「知らないでしょ。知ってたら、今頃大変よ」

「そうかあ」それなら良かったという言葉は呑み込んだ。

「斎木君だって、一年の時から一緒なんだから見ていてわかるでしょ?杏子があんな奴と・・」

「まあ、あり得ないとは思っていたけどね」

 わかったと言って、もうこの話題を切り上げようとすると、急に大林が態度を変えて悪戯っぽい顔をしてきた。

「え?ひょっとして、気になった?」

「いや、そんなことないけど・・」

「ああ、赤くなってるう!」

「やめろよ」

 優斗は、自分が赤面していることに気づかれたらまずいと思っていたところに囃し立てられたものだから益々赤くなってしまった。

「それにしても、みんなどうしてあんな奴と仲良くしてるの?」

 今度は、大林の方が話題を変えてきた。

「仲良くしたいわけじゃないけれどみんなあいつを敬遠しないし、一緒にいて俺だけあいつを無視するわけにもいかないしね。俺もあまり好きじゃないんだけどね。」

「そうなんだ。めんどくさいね、男って・・」

「まあ、いろいろあるのよ」

 優斗は、北村の話題から逸れてよかったと思った。

 北村のことに関する大林の言葉は信じるに足ると思えた。優斗は安心する一方で、杉沢が愚かで情けなく、段々、哀れにさえ見えてきたのだった。

 

 

 

 

 

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 最近もスティーブ・クロッパーや山内テツなど、好きなアーティスト、かつて活躍していたミュージシャンの訃報が入ってくる。その度に寂しい気分になる今日この頃である。

 

 さて、本日取り上げるアルバムは、山内テツが参加していた頃のFREEの『HEARTBREAKER』(1973年)である。

 

 

 

 

 山内テツについては、過去に「山内テツ&グッド・タイムス・ロール・バンド」として取り上げたことがあった。

 山内テツは、アンディ・フレイザーの後任として再結成後のフリーに加入。このアルバム1枚を残してバンドは再度事実上の解散。その後、フェイセズに加入する。当時の日本人がこんなビッグなバンドに加入するなんて、同じ日本人として誇りに思えたものだった。

 

 バンドFREEについては、過去に「ポール・ロジャース」について書いた記事で触れているが、単独で取り上げるのは初めてである。なんてことは、どうでもよいが、このアルバムもなかなか良くて好きな作品である。

 

 FREE独特のドライブ感が減って、少しキャッチーな感じにはなっているものの、やはりポール・ロジャースのボーカルが生き生きしていてノリもいい。

 山内テツは、アルバム冒頭の「Wishing Well」その他の曲作りにも参加しているらしい。