今回は、中国が突如設定した防空識別圏について書きます。
中国が、尖閣諸島を含む東シナ海に、
突然「防空識別圏を設定した」と発表した。
本来、防空識別圏の定義は、防空識別圏ごとに違い、
日本の場合は、近隣諸国と海洋を挟んでいる空域に領空内に入る前に、
許可を得ないで領空に入る疑いのある飛行物体を入らせないようにするために、
スクランブル発進をかけるとしている空域である。
(厳密には正確な書き方ではないがそのような意味ととらえて差し支えない。)
ちなみに、海洋の向こうに近隣諸国ではなく、
日本の別の地域がある小笠原諸島には、設定されていない。
中国の場合も、表向きはその定義に当てはまるが、
実際は、尖閣諸島の実効支配を狙ったいることは明らかである。
中国としては、尖閣諸島を実効支配するには、
米国のプレゼンス(存在感)を薄めれば、
相対的に中国自身のプレゼンスが高まり、
実効支配に布石を打てる、と考えていたからだ。
なぜなら、かねてから米国は、尖閣諸島について、言葉のベースでは
「尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用対象範囲内である」とする一方、
「領土権の主張の争いには関与しない」としていた。
「実効支配しているのが日本だから日本の施政下」なら、
中国が奪い取れば、米国も中国の領土権を認めない、とは言わない、
と考えていたのだろう。
しかし領有権についてまで踏み込まなかったのは中国に配慮してだけの話で、
「安保の適用範囲内」ということで、事実上日本の領土だと、
言外に認めていると言ってもよいだろう。
ところが日本では、クリントン政権での日本冷遇策の傷を引きずり、
ブッシュ政権、オバマ政権ではっきり適用範囲内と言ったにもかかわらず、
「米国は日本の味方ではないのか。」という猜疑心がくすぶっていた。
オバマ政権が、鳩山政権での普天間移設問題での迷走に対する不信感や、
安倍政権の右傾化に対する警戒感を持っていることで、それを増幅させていた。
中国もそれを鵜呑みにして、実効支配に向けて
今回の防空識別圏設定に踏み切ったと思われるが、
米国の反応は、中国の予想と正反対だった。
設定翌日には、核兵器を搭載できるB52爆撃機を、
長時間にわたって、中国が設定した防空識別圏を飛行したことで、
米国の怒りが、日本が驚くくらい如何にすさまじかったかを物語っている。
その一方ですぐに、来週バイデン副大統領を中国に送る、という、
硬軟両様のしたたかな作戦にも出ている。
中国側も、自身の大誤算にショックを受けたのか、
金曜日になってやっと「米国ににスクランブルをかけていた。」
と発表できた程度ある。(実際スクランブルはあったかどうか定かではない。)
米国としては、中国が強気に出すぎてくれたおかげで
自分たちの本音の主張を行動で誇示することができた。
怒りの大きさと同時に、誇示できたことをほくそ笑んでいるだろう。
日本も「米国はやっぱり味方だった」ことを中国に見せつけられ、
安堵感と同時に内心では笑っているだろう。
国際社会が、概ね中国に批判的だというのも、後押ししている。
日米が内心でほくそ笑む中、同じ同盟国の韓国もそうかと思いきや、
全然違う反応を見せている。
韓国は、朴政権になって、韓国自身の国益を傷つける、
意味のない反日言動を繰り返し、中国とも一定の歩調を、
合わせようとしてきた。
朝鮮半島の統一には、中国の協力も欠かせず、
米国だけでなく中国とも一定の関係を保つ必要があるからだ。
しかし、韓国が領土と主張し、中国が「岩であって領土ではない」
と主張している離於島(中国名:蘇岩礁)上空に、
今回設定された防空識別圏が入っていたことで一気に緊張が走った。
日本からすれば「それみたことか」と、これまたほくそ笑む事態だが、
米国はさらに一歩前に出て、かねてから韓国に促していて韓国は渋っていた
TPP・環太平洋パートナーシップ協定への加入を改めて強く促し、
金曜日になって、韓国が加入を表明した。
韓国にとっては、TPP参加国の多くと個別に既にEPA・経済連携協定を、
締結または交渉しており、忌み嫌うかつ一番警戒する競争相手である
日本が加盟しているTPPには、本音では加入したくなかった。
しかも、交渉が大詰めを迎えて、韓国にとっては、
不利な条件があっても、ほぼ覆せない状況になっているからだ。
しかしTPPの本質は、安全保障面での中国包囲網である。
経済連携は1つの側面でしかない。
それを主導する米国は、韓国が入ることで、
その包囲網がより強固なものになるものとして、
中国の防空識別圏設定を逆利用し、韓国の説得に成功した。
韓国に「中国は味方ではなかった。」と思い知り、かつ
「このままでは米国に守ってくれなくなるかも。」という、
焦燥感が出て来たのは間違いないだろう。
中韓の分断は、日本にとっては、それこそ、
内心のほくそ笑みどころか「高笑い」である。
そして何より中国にとって、韓国TPP加盟も大誤算である。
米国にとっては、高笑いである。
さらに、どう見ても中国にとって撤回した方が良いに決まっているのに、
国内世論を鑑みれば、撤回などできない。これまた大誤算である。
今回、一番損をしたのは間違いなく中国である。
得意満面に行動に出ただけに、反動の落ち込みは激しいだろう。
今回、目が覚めた(かもしれない)のは韓国であろう、
損するTPPに入らざるを得なかったのだから。
ただ、自らを貶める反日は変わらないだろう。
そして今回、表向き激しい反応をする一方、
思惑どおりになったのは日米である。
なぜなら、防空識別圏は、設定した、と言葉で言い張ったところで、
実際にそれを管理できる施設や技術がなければ全く意味がない。
B52が飛んでも中国が発見できなかったことが、
何を意味しているかを物語っている。
日本政府が、日本航空・全日空に、中国の防空識別圏を飛ぶことを
「事前に中国に通告する必要なし。」といったのが、何よりの証左だ。
「心配しなくても、全然平気。」ということである。
それを露呈してしまったことも中国にとっては大誤算で、
日米にとっては高笑いだけでなく安堵感も得られたことになる。
そして、北西太平洋における米国の軍事的プレゼンスが、
一層高まったことは間違いない。
今週もお読みいただきありがとうございました。
皆さんは、日本が高笑いだと思われますか。