今週は、日本も交渉参加することになった、TPPを取り上げます。
TPPの次回会合が、マレーシアで、
7月15日から11日間の日程で開かれることになった。
初参加となる日本は、最後の2日間のみの参加となった。
アメリカの、参加承認手続きが間に合わないためである。
この11日間で大きく進展すると思われ、
それまで、何の情報も得られない日本は、
ますます、自国の主張をしにくい状況になる。
TPPは、EPA(経済連携協定)の多国間の枠組みで、
貿易だけでなく、サービスのほか、ほぼすべての経済活動が、
原則同一ルールの下によって、行われていく。
経済活動は、原則、民間の自由だ。
とはいえ、利害がぶつかりトラブルも起きる。
そのために、法律などで一定のルールを設けている。
典型例が、会社法や商法だ。
他にも、消費者に関するものや、
危険物取扱に関するものもある。
(上げればきりがない。)
そもそも、今騒がれている貿易に関しては、
もともと我が国は、貿易の自由度が高く、
メリットとデメリットの観点で言えば
メリットの方が明らかに高い、と言われている。
農家などへの損害は、他国もやっているように、
所得補償などが考えられる。
もっとも、サクランボのように、競争原理が働き、
「佐藤錦」のような国際ブランドが誕生するまでになり、
市場が拡大した例がある。
個々の農家も、JAの主張とは裏腹に、
歓迎する声も少なくない。
では、一体何が遅れの代償なのか。
TPPの交渉項目に、「制度的事項」というものがある。
言葉だけでは、???という方も多いだろう。
正確な言い方ではない、とお断りをしたうえで、
荒っぽく言えば、先に書いた
「法律などの一定のルール」である。
国によって、その制度が違うので、
ある国の会社が、別の国の制度によって、
参入を阻まれたり、目的が達せられなかった場合は、
紛争を解決する機関に訴えて、勝てば、
その「別の国」の制度を変えることができてしまう。
1つの例が、「医療保険制度」である。
TPPは外国との協定という意味では、条約の範疇になる。
国家の法令が条約に劣後してしまうことになってしまう。
ただ、ほとんどのEPAでは、
その解決機関があり、それ自体は、何ら問題ではない。
問題は、その機関がどのように設置されるかである。
先ほど例に出した医療保険で考えてみる。
我が国では、国民皆保険制度となっており、
日本国籍や日本在住の外国人は、
原則として、政府、自治体または
健康保険組合など公的に認められた団体が運営する、
何らかの保険制度に、全員が入ることになっている。
アメリカの保険会社は、前々から、
公的機関が市場を独占するのはおかしいと主張している。
公的保険を超えた自費負担については自由なのだから、
その主張自体、独占という意味ではおかしいのだが、
全員加入という点を突いて、訴える可能性がある。
もし、その紛争解決機関が、アメリカに有利な人員構成なら、
結果は、推して知るべしであろう。
蛇足になるが、オバマ政権で国民皆保険を導入しようとしたら、
猛反対する勢力が一定規模で存在し、阻止されていることも、
報道されている通りである。
普段からみんなで助け合おうという日本の風土、
普段は競争で、決着がついたときだけ手を差し伸べるアメリカ、
制度を超えた、価値観の問題も、制度的事項に含まれてしまう。
そんな恐れが、実は、貿易よりはるかに大きいのだ。
ではなぜ、今回、参加することになったのか。
マスメディアでは、朝日新聞がわずかに触れた程度だが、
日米安保の担保、という意味合いがある。
残念ながら、アメリカでの日本の存在感は低下しており、
今は、中国とどうするか、というのが、外交の最大関心事である。
しかし、非民主国家という相いれない価値観や、
西太平洋での覇権という、アメリカを脅かす行動に出ていることから、
どうしても、日本と一定の関係を保たねばならない。
日本も、日米安保を解消して(憲法の問題は脇において)
独自の軍事力を持つとすれば、今の倍以上の支出が必要になり、
事実上、不可能である。
日米共に、日米安保は必要不可欠なのだ。
アメリカは、そこを突いて、TPPに参加するよう促してきたのだ。
事実、中国は、日本がTPPに参加する、と表明した途端、
それまで慎重だった日中韓FTAの交渉参加を進展させる意思を示した。
アメリカにとっては、中国けん制もでき、一石二鳥になった。
アメリカの狙いは、まだまだ大きい日本市場を、
アメリカと同じにしてしまおうということなのである。
制度的事項、とは、その最たるものなのである。
7月にならないと、制度的事項の全容は見えてこない。
解決機関の多数がアメリカで占められていれば、
決定的な遅れの代償となってしまうであろう。
もはや、日本に巻き返しの手は限られている。
後は、7月の交渉参加を待つしかない。
今週もお読みいただき、ありがとうございました。
皆さんは、どう感じられましたか。