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伝世舎のブログ

日々是好日

第19回 芸工展2011


「修復のお仕事展Ⅱ ~伝えるもの・想い~」



(Produced by あくさいず)開催します。


 芸工展とは、東京・谷中地区を活性化させる取り組みのひとつとして平成5年に始まった地域のイベントです。谷中・根津・千駄木・日暮里・上野桜木・池之端界隈で「まちじゅうが展覧会場」と銘打って、地域に暮らす人々が様々な企画展示・イベント等を行います。ガイドマップを片手に谷中界隈を散策しながら、皆さん思い思いに楽しんでおられます。
(芸工展URL: 
http://www.geikoten.net


 この芸工展で昨年一昨年と、伝世舎の主催として「修復のお仕事展 ~伝えるもの・想い~」を開催しました。あまり一般的には知られていない「修復」の仕事を、知ってもらえればと思い、様々な分野の方々の参加を得て展示を行いました。
 今年も昨年に続き、「修復のお仕事展Ⅲ」として、昨年までの反省点も踏まえ開催することになりました。今回は10の分野で構成し、より充実した内容になると思っています。


 また、今回は「水戸徳川家ゆかりの地を巡る」と題して、史蹟見学のワークショップを行います。日時は10 月9日(土)、10 日(日)、15 日(土)。時間は13:00~15:30の予定で雨天開催です。
集合場所は東京メトロ千代田線 1番出口(千駄木側)
見学コース
東京大学浅野地区(弥生二丁目遺跡、武田先端知ビル、向岡記碑、弥生式土器発掘ゆかりの地碑など)―谷中墓地(徳川慶喜墓)―寛永寺―ギャラリー(彰義隊大砲砲弾)
ぜひ、ご参加ください。


 皆まだ若く、分野も別々ですが、「次に世代に作品を残す」ためにがんばっている人たちです。その仕事の一端をご覧ください

 谷中界隈散策がてら、是非お立ち寄りください。


会 期:2010年10月9日(日)~17日(日)
会 場:〒110-0002 台東区上野桜木1-11-9

     ※今年は今までと場所が変わりました。
開催時間:11:00~18:00(最終日は17:00まで)


参加者:
油絵修復 武田恵理・中右恵理子
建造物保存活用 もば建築文化研究所(中村文美・梅田太一)
西洋絵画模写 土師 広
染織品修復 山崎真紀子
東洋書画修復 伝世舎(三浦功美子・嶋根隆一)
保存修復支援 NPO法人 文化財保存支援機構(八木三香、松本洋子)
保存修復品製造販売 ㈱パレット(長谷川雅啓)
仏像彫刻修復・制作 ㈱東京文化財センター(柿田喜則)
埋蔵文化財公開・活用 東京大学埋蔵文化財調査室(原祐一)
埋蔵文化財修復 武蔵野文化財修復研究所(石原道知)


伝世舎のブログ-表

伝世舎のブログ-裏

 さて、本紙が綺麗になったところで、最後の仕上げです。今回は額を新調しますので、骨から作りました。意外と地道な作業の連続です。


7.額装の仕立て

 骨を新調しました。

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新調した骨。


 パネルの下張り加工をします。

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骨縛りから始めてパネルを作っていく。

 新調した縁裂(へりきれ)と小筋裂(こすじきれ)を調整します。
 まず、新調した裂に肌裏打ちを行いました。
  ・肌裏打ち紙;薄美濃紙(長谷川聡製作 手漉き楮紙)
  ・接着剤;生麩糊(小麦澱粉糊)


 本紙の裏面にから小筋の裂を付けます。


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縁裂萌黄地斜子無地を本紙の周りに付けた。


 縁裂を付けた本紙を下張りパネルに張り込みます。
  ・接着剤;生麩糊(小麦澱粉糊)

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パネルへの張り込み作業。


 裏面に裏貼り紙を貼りこみましだ。
  ・裏貼り紙;藍紙(藍染め楮紙)
  ・接着剤;生麩糊(小麦澱粉糊)


8.額の仕上げ

 新調した吊り金具を装着しました。
 縁木に新調した紫外線カットアクリル板を入れ、パネルを装着して仕上げました。


9.修復後の写真撮影、報告書の作成


 修復後の写真を撮影し、報告書を作成します。


10.収納

 ・中性紙布貼りケースを新調して、収納しました。


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修復後全体(表面)

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修復後全体(表面)


所 見:

 作品全体の修復を行ったことで、本紙の汚れや染みは軽減され、画面全体がすっきりとなり、鑑賞しやすくなりました。
 本紙の茶褐色の変色においては、漂白などの処置は行いませんでした。精製水の洗浄によるクリーニングで汚れの軽減する処置だけに留めました。無理な漂白など処置を行いますと脆弱化している作品にかなりの負担が掛かり、より劣化を促進させる危険性があります。
 修復前の作品は、グレージングがなかったことで、外気に直接晒され、塵埃による汚れと劣化が酷い状態でした。今回の額装に新調で紫外線カットアクリル板を装着したことで、大気や光による影響は抑えることができました。
 全体がすっきりとしたことで、それまで分からなかった水の流れを描いた線が認識できるようになり、謎の物体も「水面に映った月」であることが確認できました。


○ 修復前
種 類:扁額装/絹本著色 
寸 法:(修復前) 額寸法 縦:460㎜×横:1263㎜
            画面寸法 縦:355㎜×横:985㎜
装 丁:扁額装
パネル:骨組子に下張り加工
縁木(ふち): 黒色塗装
         パネルと縁木は釘による装着
グレージング:なし
縁(へり):砂子蒔き紙
覆輪(ふくりん):紫地紙(本紙周辺を縁取りしている紙)
裏貼り(裏面):灰茶地紙


○ 修復後
種 類:扁額装/絹本著色 
寸 法:(修復後) 額寸法 縦:508㎜×横:1330㎜
            本紙寸法 縦:355㎜×横:988㎜
装 丁:扁額装
パネル:杉材骨組子 留め具サルコ付き 下張り加工(8層)(新調)
縁木(ふち): 艶消し黒本漆塗り (新調)
         パネルと縁木は留め具のサルコによる装着
グレージング: 3㎜UVカットアクリル板
縁裂(へりきれ): 浅葱地斜子無地(新調)
小筋裂(こすじきれ): 白茶地龍紋本金襴(新調)
裏貼り(裏面): 藍紙(藍染め楮紙)
下張り層(骨組子に下張り8層の工程を行った)
骨縛り、胴貼り、蓑掛け(3層)、蓑縛り、袋貼り(下袋、上袋)2層
骨縛り、蓑掛け、蓑縛り、袋貼り;八女楮紙(溝田義秋製作 手漉き楮紙)
胴貼り;泥(タルク)入り楮紙(大勝敬文製作 手漉き楮紙)
 
 以上で、和額装の修復事例紹介は終了です。
 和額装の一番の特徴は、何と言っても骨に数層の紙を貼った(下張り)パネル構造にあります。しっかりとした下貼りであれば、温湿度の変化によって生じる紙の伸縮に柔軟に対応します。日本の気候に適した装丁だと思います。
 最近の額はベニヤパネルが多いのですが、注意が必要です。ベニヤ材や接着剤からガスを発生して、劣化や変色の原因となります。特にベニヤパネルに直接触れている場合は劣化が促進されます。ベニヤパネルを使用するときは、簡易的にでも袋貼りなどをして作品が直接触れないように気をつけるようにしてください。
 費用面での負担は確かにありますが、今後次世代までの年月を思いますと、やはりそれなりの装丁法をお薦めします。

 さて、別件のため一回飛んでしまいましたが、2の続きを進めたいと思います。

 それでは具体的な処置について話しを進めましょう。


1. 修復前の写真撮影、および状態調査
 ここでしっかり調査をしないと、ちゃんとした修復方針が立てられません。


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修復前の状態調査。


2. 額装からの本紙の分離

 作品を額装から外します。
 本紙を傷つけないように丁寧に作業します。


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額装から本紙部分の分離。


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分離した本紙(奥)と額装(手前)。


3.本紙表面の処置


 画面にドライクリーニングを行い、表面の汚れを除去しました。
 その後、虫糞などの付着物を除去しました。
そして墨字部分と朱印に剥落止めとして、約2%膠水溶液(膠:板膠)を塗布しました。


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付着物の除去作業。


4.クリーニング


 本紙全体にウェットクリーニングを行いました。
 本紙を精製水で湿らせた吸い取り紙で挟み、クリーニングを行いました。吸い取り紙に汚れを吸着させて、全体の水染みなどの汚れや斑点を軽減します。吸い取り紙を取り替えて、同様に数回にわたりクリーニングを行いました。

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吸い取り紙に汚れを吸着させる。


5.旧裏打ち紙の除去


 旧裏打ち紙を剥がします。


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旧裏打ち紙の除去作業。


6.本紙の裏打ち


 本紙に肌裏打ち(画像)と増裏打ち(画像)を行いました。
 ・肌裏打ち紙;矢車染め薄美濃紙(長谷川聡製作 手漉き楮紙)
 ・増裏打ち;八女楮紙(溝田義秋製作 手漉き楮紙)
 ・接着剤;生麩糊(小麦澱粉糊)


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裏打ち作業。


 これで本紙の作業は終了です。この後ゆっくり乾燥させて、額の仕立てに入ります。


 次回は仕立ての行程です。