伝世舎のブログ

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日々是好日

『遺し、伝える』ことが伝世舎の理念です。


分析後、作品の状態によっては保存へのコンサルティング。


必要なものには現状を維持したまま次の時代に遺すために修復を。




伝世舎 


TEL  03-6666-1200


受付時間:10:00~18:00


http://www.denseisya.com/


 芸工展とは、東京・谷中地区を活性化させる取り組みのひとつとして平成5年に始まった地域のイベントです。谷中・根津・千駄木・日暮里・上野桜木・池之端界隈で「まちじゅうが展覧会場」と銘打って、地域に暮らす人々が様々な企画展示・イベント等を行います。谷中界隈を散策しながら、皆さん思い思いに楽しんでおられます。
 (芸工展URL:http://www.geikoten.net)

 今年で30回目を迎える芸工展。これを記念して2018年に10回目の節目で終了した「修復のお仕事展」を、今年だけ1回限りで開催します。
 今回は「シン・修復のお仕事展」として文化財修復のお仕事を、伝わりやすいポスター展示にすることで、博物館や学校での教育普及に活用できないか? という試みです。
 2020年に急逝された、お仕事展仲間の考古学者・原祐一さんの回顧展も併せて開催します。
 またこの機会に、普段は月に1度しか公開しない旧・平櫛田中邸アトリエをご覧頂ければ嬉しいです。

 谷中界隈散策がてら、是非お立ち寄りください。


会   期:2022年10月9日(日)~16日(日)
会   場:旧平櫛田中(ひらくしでんちゅう)邸アトリエ※
        〒110-0002 台東区上野桜木2-20-3
開催時間:11:00~17:00(最終日は16:00まで)

※旧平櫛田中邸アトリエ
 日本近代を代表する彫刻家である平櫛田中は、谷中・上野桜木に70年にわたって暮らし、数多くの作品を世に送り出しました。
 上野桜木の平櫛田中アトリエは大正8年、横山大観、下村観山ら日本美術院の画家たちの支援により建てられました。日中安定した光を得るため、北側に天窓を備えた近代的アトリエ建築の先駆けです。
 普段未公開のアトリエをご覧になれるいい機会ですので、皆様お越し頂ければ幸いです。

 会場は少し分かりにくい場所にあります。以下の記事に根津駅、鶯谷駅からの写真入りルートを紹介していますので、参考になさって下さい。

平櫛田中邸アトリエの道のり(根津駅から)
http://ameblo.jp/denseisya/entry-11361245963.html
平櫛田中邸アトリエの道のり その2(鶯谷駅から)
http://ameblo.jp/denseisya/entry-11368416676.html
※2012年のデータですので、日付は微妙に違っていますがご容赦ください。

大子町ワークショップ「ひょひ台をつくろう!」に参加してきました

 

 なんと1年7か月ぶりにブログ更新です。これもすべてコロナ禍のせい、と言い訳をしておきます。

 12月4日(土)、茨城県久慈郡大子町にある大子町立中央公民館で開催された、大子町地域おこし協力隊主催のワークショップ「ひょひ台をつくろう!」に参加してきました。

 「ひょひ台」と言われても、何のことか分かりませんよね。まずはそこから説明します。

 大子町は良質な楮(コウゾ)の産地で、那須楮として流通してきました。最近は「大子那須楮」としてブランド化しています。

 和紙は楮、三椏(ミツマタ)、雁皮(ガンピ)が三大原料と言われています。特に楮は最も多くの紙に使われているものです。

 大子那須楮はユネスコの無形文化遺産に登録されている本美濃紙や、重要無形文化財保持者(人間国宝)の岩野市兵衛さんが漉く越前奉書紙の原料です。

 大子那須楮に関しては、NPO法人 文化財保存支援機構のセミナーで大子町を訪れたこともあります。詳しくは以下をご参照ください。

「NPO JCPのブログ」

https://ameblo.jp/jcpnpo/entry-12443790457.html

https://ameblo.jp/jcpnpo/entry-12443792783.html

 

 大子那須楮は製品としては黒皮、甘皮(緑皮)を取り去って、白皮で納めるのが特徴です。

 この皮を取る時に「表皮(ひょひ)取り台」「表皮台」という、大子町独特の道具を使って作業をします。これは大子町でしか見られない道具で、座る部分と作業をする部分が一体になっている、非常に効率のいいものとなっています。

 

これが表皮取り台。各自、自分がやりやすい形に作ります(2017年撮影)。

 

斜めの部分を使って楮の皮をはいでいきます(2017年撮影)。

 

 11月のある日このワークショップの情報を見つけ、自分の手で表皮取り台を作れるなんて、とすぐに応募した次第です。最小開催人数をクリアしたようで、無事開催が決定しました。

 

 前日に大子に行き、当日9時前に会場へ。以前お世話になった大子那須楮保存会会長の齋藤さんがいらしたのでご挨拶。ベテランの方と3人で教えて頂けるとのこと。

 すでにわらの束が用意されていて、これを使って作っていきます。

 

束ねた藁。事前に湿らせ、木槌や砧で叩いて柔らかくしておきます。

 

 束ねた藁の太い切断面をそろえて縛ります。かなりしっかり縛らないと形が崩れてしまうので、力を使います。

 

15~20cmのところをきつく縛ります。

 

 縛ったところから藁を折り返すように畳んでいきます。この時に藁を引っ張ると作業面が凹んでしまいます。

 

一度にやらずに、少しずつ折っていきます。なるべく固くまとめるのがコツです。

 

 半分以上折り込んだら、織り込んだ部分全体を3カ所きつく縛ります。これは後で縛り直せますが、最初からしっかり作っておくほうが後々やりやすいです。

 

藁を折り返した部分。木槌などで固めたほうがいいようです。

 

3カ所を紐で縛ります。結び目は下になる位置にします。

 

 台の先の方を斜めに切ります。作業するところなので、なるべくまっすぐきれいになるようにします。

 

斜めに切っていきます。

 

切ったところです。これはお手本、中々このようにはなりません。

 

 余った後ろの部分を5束の三つ編みにして、座るところを作れば完成です。

 

 完成した表皮取り台。思ったより大きく、全長約90cmほどあります。使わないときは紐で吊るしておけます。さっそく飾ってみました。

 

壁にかけてみました。インテリアとしても使える?

 

 以前から「作るのは簡単」とは聞いていましたが、実際に素人でも1時間あれば作れそうです(出来は別として)。

 今まで、「表皮取り台」の作り方をまとめたものが見当たらなかったので、実際に作り、記録できたのは幸いな事でした。

長い時間をかけて今の形になったと思われますが、今までは大子町でしか使われていませんでした。聞くところによると、越前でも使い始めたとのこと。この機能的な道具がもっと活用出来たらいいな、と思いました。

 

 今回、こういった機会を作ってくれた、大子町地域おこし協力隊の石川さんに感謝申し上げます。

 ところで、フルサイズの表皮取り台は、材料が無くて作れませんが、今度ミニチュア版を作ってみようかなと思っているところです。

 まずは新型コロナウイルスによる被害をうけた方々にお見舞い申し上げます。おかげさまにて伝世舎では、家での作業が中心のため、特に問題無く過ごしております。今後も不要不急の外出は控え、粛々と作業を続けて参ります。

 さて、昨年のことですが、掛軸装「福神」の修復を依頼されました。
 作品は昭和の掛軸で紙本印刷です。唐摺りの紙表具で仕立てられ、裏面に墨、マジックインク、水彩ペンで署名が書かれています。
 この掛軸は講のときに掛けられ、ずっと大切にされてきたようです。
 作品の状態ですが、掛軸全体が経年の塵埃により汚れていました。
 さらに、きつい横折れや皺が多数あり、本紙には亀裂が生じていました。
 掛軸の下方には大きな破れがあり、裏からセロハンテープが貼ってありました。すでにテープの接着剤は茶色く変色していました。このような損傷により掛軸を掛けることなどの取り扱いが危険な状態でした。
 今回は本格的な修復を行うことになりました。掛軸を解体して処置を施し、修復前と同様な掛軸装に仕立て直しをします。今後の作品の取り扱い、保存が安全にできる安定した状態にします。
 所蔵者にとって表面、裏面(特に署名)ともに大切な物であるために、それをそのまま残す必要がありました。そのために、紙表具、軸先(じくさき)等も再使用することになりました。
 そこで問題となることは、普段の本格修復では裏打ち紙を新たに打ち換えるのですが、今回は署名のある総裏打ちの紙を新調せずに戻さなくてはならないことです。そこで、総裏打ちの紙を本紙と同様の処置をすることになりました。


 
修復前画面全体。作品全体(画面、紙表具)に汚れ、皺や強い折れ、破れなどの劣化損傷が酷かった。 



修復前裏面全体。裏面に墨、マジックインク、水彩インクで署名があった。
総裏紙に汚れ、皺や強い折れ、破れがあり、劣化損傷が酷かった。右下の破れ箇所に裏からセロハンテープで貼ってあった。テープの接着剤が茶色く変色している。


処 置
 具体的な処置は以下の通りです。
 ・掛軸から軸棒と八双を外した。
 ・表面の付着物を除去した。
 ・セロハンテープを除去した。



修復中。セロハンテープを除去した。

解 体 
・唐摺りの紙表具に剥落止めをして、色材を定着させた。
 接着剤:膠水溶液(牛皮和膠 天野山文化遺産研究所)
・本紙、紙表具、総裏紙を分離した。


修復中。本紙と紙表具を分離した。

 


修復中。総裏紙を分離した。

 


修復中。本紙、紙表具、裏打ち紙を分離した。

表面の処置 
・本紙の旧裏打紙を剥がして、新たに肌裏打ちを行った。紙表具に関しても同様な処置を行った。
 肌裏打ち紙:薄美濃紙(うすみのし)〈鈴木竹久製作 大子那須楮(だいごなすこうぞ)手漉き和紙〉
 接着剤:生麩糊(しょうふのり)〈小麦澱粉糊〉



修復中。本紙の旧裏打紙を剥がした。

 


修復中。本紙に肌裏打ちを行った。

・本紙と紙表具に増裏(ましうら)打ちを行った。

 増裏打ち紙:美栖紙(みすし)〈上窪良一製作 手漉き胡粉入り楮紙〉
 接着剤;古糊(ふるのり)〈生麩糊を5年以上寝かせた糊。掛軸を柔らかく仕上げるために使用する〉
 ・本紙と紙表具を接合して、掛軸の形にした。

・画面側(本紙と紙表具)の強い横折れや亀裂箇所に、折れ伏せを行った。細い帯状の紙を貼って折れの緩和をした。

 

修復中。本紙の強い横折れや亀裂箇所に、折れ伏せ入れを行って緩和をした。


裏面の処置
 ・総裏紙の茶色いテープ痕を軽減した。
 溶剤:アセトン


修復中部分。テープ痕の除去前。

 

修復中部分。テープ痕の除去中。変色部分が緩和されてきた。

 ・総裏紙の旧裏打紙を剥がして、新たに裏打ちを行った。
 裏打ち紙:矢車染め(やしゃぞめ)宇陀紙(うだし)〈福西弘行製作 手 漉き白土入り楮紙)
  接着剤;古糊

修復中。本紙の旧裏打紙を剥がした。

 


修復中。総裏紙に裏打ちを行った

仕上げ
 ・画面側(本紙と紙表具)と総裏紙を再接着した。
  接着剤:古糊


修復中。画面側と総裏側を再接着した。

 ・仮張りに張り込んで乾燥を行った。数回、仮張りから剥がしたり、張り込んだりを繰り返し、掛軸としての具合の調整を行った。
・本紙や紙表具の欠失箇所に色味調整を行って、目立たなくした。
 ・ 掛軸の形に仕立てた。


修復中。掛軸の形に仕立てた。

 ・    掛軸を新調した太巻き芯に巻いて楮紙に包んだ。


修復後。太巻き芯を新調した。

修復前後部分

修復前画面部分。本紙の強い横折れ箇所から亀裂が生じていた。

 


修復後画面部分。横折れが緩和した。


修復前裏面部分。破れ箇所にセロハンテープが貼ってあった。テープが茶色に変色していた。

 


修復後裏面部分。テープを除去し、茶色の接着痕を軽減した。



修復後全体
修復後表面全体。強い横折れや破れが補強されて、安全に取り扱うことができるようになった。

 


修復後裏面全体。強い横折れや破れが補強されて、安全に取り扱うことができるようになった。茶色く変色したテープ痕も軽減された。

 作品は本格的修復を行ったことで、横折れが解消され、破れも補強されて、安全に取り扱いができる状態になりました。
 掛軸両面(画面、裏面)が大変重要なため、画面側と裏面側に分離して、それぞれに処置を行い、再接着して仕立て直しました。紙表具、八双、軸棒、軸先を調整して再使用しました。
 破れを留めていたセロハンテープは除去して、茶色く変色したテープの接着剤は溶剤で軽減しました。
 今回、太巻き芯を新調しました。桐材は会津産の枯らしたものを使用しています。掛軸を太巻き芯に巻くことによって、横折れなどの損傷劣化の負担が軽減できます。
 
 今回の事例のように、部分修復、本格的な修復ともに様々な修復方法があります。ご希望がありましたら、相談いただければそれに添った方法をとらせていただきます。遠慮なく遠慮なく伝世舎にご連絡ください。
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