伝世舎のブログ

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日々是好日

『遺し、伝える』ことが伝世舎の理念です。


分析後、作品の状態によっては保存へのコンサルティング。


必要なものには現状を維持したまま次の時代に遺すために修復を。




伝世舎 


TEL  03-6666-1200


受付時間:10:00~18:00


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 まずは新型コロナウイルスによる被害をうけた方々にお見舞い申し上げます。おかげさまにて伝世舎では、家での作業が中心のため、特に問題無く過ごしております。今後も不要不急の外出は控え、粛々と作業を続けて参ります。

 さて、昨年のことですが、掛軸装「福神」の修復を依頼されました。
 作品は昭和の掛軸で紙本印刷です。唐摺りの紙表具で仕立てられ、裏面に墨、マジックインク、水彩ペンで署名が書かれています。
 この掛軸は講のときに掛けられ、ずっと大切にされてきたようです。
 作品の状態ですが、掛軸全体が経年の塵埃により汚れていました。
 さらに、きつい横折れや皺が多数あり、本紙には亀裂が生じていました。
 掛軸の下方には大きな破れがあり、裏からセロハンテープが貼ってありました。すでにテープの接着剤は茶色く変色していました。このような損傷により掛軸を掛けることなどの取り扱いが危険な状態でした。
 今回は本格的な修復を行うことになりました。掛軸を解体して処置を施し、修復前と同様な掛軸装に仕立て直しをします。今後の作品の取り扱い、保存が安全にできる安定した状態にします。
 所蔵者にとって表面、裏面(特に署名)ともに大切な物であるために、それをそのまま残す必要がありました。そのために、紙表具、軸先(じくさき)等も再使用することになりました。
 そこで問題となることは、普段の本格修復では裏打ち紙を新たに打ち換えるのですが、今回は署名のある総裏打ちの紙を新調せずに戻さなくてはならないことです。そこで、総裏打ちの紙を本紙と同様の処置をすることになりました。


 
修復前画面全体。作品全体(画面、紙表具)に汚れ、皺や強い折れ、破れなどの劣化損傷が酷かった。 



修復前裏面全体。裏面に墨、マジックインク、水彩インクで署名があった。
総裏紙に汚れ、皺や強い折れ、破れがあり、劣化損傷が酷かった。右下の破れ箇所に裏からセロハンテープで貼ってあった。テープの接着剤が茶色く変色している。


処 置
 具体的な処置は以下の通りです。
 ・掛軸から軸棒と八双を外した。
 ・表面の付着物を除去した。
 ・セロハンテープを除去した。



修復中。セロハンテープを除去した。

解 体 
・唐摺りの紙表具に剥落止めをして、色材を定着させた。
 接着剤:膠水溶液(牛皮和膠 天野山文化遺産研究所)
・本紙、紙表具、総裏紙を分離した。


修復中。本紙と紙表具を分離した。

 


修復中。総裏紙を分離した。

 


修復中。本紙、紙表具、裏打ち紙を分離した。

表面の処置 
・本紙の旧裏打紙を剥がして、新たに肌裏打ちを行った。紙表具に関しても同様な処置を行った。
 肌裏打ち紙:薄美濃紙(うすみのし)〈鈴木竹久製作 大子那須楮(だいごなすこうぞ)手漉き和紙〉
 接着剤:生麩糊(しょうふのり)〈小麦澱粉糊〉



修復中。本紙の旧裏打紙を剥がした。

 


修復中。本紙に肌裏打ちを行った。

・本紙と紙表具に増裏(ましうら)打ちを行った。

 増裏打ち紙:美栖紙(みすし)〈上窪良一製作 手漉き胡粉入り楮紙〉
 接着剤;古糊(ふるのり)〈生麩糊を5年以上寝かせた糊。掛軸を柔らかく仕上げるために使用する〉
 ・本紙と紙表具を接合して、掛軸の形にした。

・画面側(本紙と紙表具)の強い横折れや亀裂箇所に、折れ伏せを行った。細い帯状の紙を貼って折れの緩和をした。

 

修復中。本紙の強い横折れや亀裂箇所に、折れ伏せ入れを行って緩和をした。


裏面の処置
 ・総裏紙の茶色いテープ痕を軽減した。
 溶剤:アセトン


修復中部分。テープ痕の除去前。

 

修復中部分。テープ痕の除去中。変色部分が緩和されてきた。

 ・総裏紙の旧裏打紙を剥がして、新たに裏打ちを行った。
 裏打ち紙:矢車染め(やしゃぞめ)宇陀紙(うだし)〈福西弘行製作 手 漉き白土入り楮紙)
  接着剤;古糊

修復中。本紙の旧裏打紙を剥がした。

 


修復中。総裏紙に裏打ちを行った

仕上げ
 ・画面側(本紙と紙表具)と総裏紙を再接着した。
  接着剤:古糊


修復中。画面側と総裏側を再接着した。

 ・仮張りに張り込んで乾燥を行った。数回、仮張りから剥がしたり、張り込んだりを繰り返し、掛軸としての具合の調整を行った。
・本紙や紙表具の欠失箇所に色味調整を行って、目立たなくした。
 ・ 掛軸の形に仕立てた。


修復中。掛軸の形に仕立てた。

 ・    掛軸を新調した太巻き芯に巻いて楮紙に包んだ。


修復後。太巻き芯を新調した。

修復前後部分

修復前画面部分。本紙の強い横折れ箇所から亀裂が生じていた。

 


修復後画面部分。横折れが緩和した。


修復前裏面部分。破れ箇所にセロハンテープが貼ってあった。テープが茶色に変色していた。

 


修復後裏面部分。テープを除去し、茶色の接着痕を軽減した。



修復後全体
修復後表面全体。強い横折れや破れが補強されて、安全に取り扱うことができるようになった。

 


修復後裏面全体。強い横折れや破れが補強されて、安全に取り扱うことができるようになった。茶色く変色したテープ痕も軽減された。

 作品は本格的修復を行ったことで、横折れが解消され、破れも補強されて、安全に取り扱いができる状態になりました。
 掛軸両面(画面、裏面)が大変重要なため、画面側と裏面側に分離して、それぞれに処置を行い、再接着して仕立て直しました。紙表具、八双、軸棒、軸先を調整して再使用しました。
 破れを留めていたセロハンテープは除去して、茶色く変色したテープの接着剤は溶剤で軽減しました。
 今回、太巻き芯を新調しました。桐材は会津産の枯らしたものを使用しています。掛軸を太巻き芯に巻くことによって、横折れなどの損傷劣化の負担が軽減できます。
 
 今回の事例のように、部分修復、本格的な修復ともに様々な修復方法があります。ご希望がありましたら、相談いただければそれに添った方法をとらせていただきます。遠慮なく遠慮なく伝世舎にご連絡ください。
 URL:http//www.denseisya.com
 e-mail:info@denseisya.com

2018年の「修復のお仕事展」で展示させていただいた「櫻木神社例大祭碑 拓本」ですが、その内容をブログで公開すると書いたのが昨年10月の「櫻木神社例大祭に行ってきました」でした。

 その時に「速やかに」と宣言した割に一向にアップせず、大変失礼を致しました。

満を持して? 「櫻木神社大祭碑 拓本」部分修復事例を報告致します。

 ちょっと長いですがお付き合い頂ければ嬉しいです。

 

掛軸は掛けられない状態だった!

 

 掛軸は段ボール箱に入ったまま、長い期間仕舞われていました。劣化損傷により掛けること、取り扱うことができない状態でした。菊坂町会にとって歴史的・資料的に重要な掛軸という事で公開と保存したいとの要望でした。

 

種 類:掛軸装(紙表具)/紙本拓本 1幅

寸 法:表具寸法  縦 2154㎜×横 1082㎜

 

修復方針:

 展示、安全な取り扱い、保存に向けての部分的な処置を行う。

*               作品に負担が掛からない範囲での処置をする。

*               材料(紙や接着剤など)は、修復や表装において伝統的で、作品に悪影響及ぼさないものを使用する。

*               新たに中性紙ボード保存箱に収納する。

 

修復前表面全体。経年の塵埃の汚れ、強い折れ、破れ、裏打ち紙の浮き上がりなどの損傷が生じていた。

 

修復後表面全体。損傷箇所の処置を行ったことで、展示と取り扱いが可能になった。

 

修復前表面部分。大きな破れ、強い横折れ、紙表具の一部分に欠失などの損傷があった。

 

修復前裏面部分。大きな破れ、強い横折れ、裏打ち紙の浮き上がり、紙表具の一部分に欠失などの損傷があった。

 

修復後表面部分。破れや横折れの補強、欠失部分の繕いを行った。

 

修復後裏面部分。破れや横折れの補強、裏打ち紙の接着、欠失部分の繕いを行った。

 

修復前表面部分。強い横折れ、裏打ち紙の浮き上がり、紙表具に細かい破れや皺、欠失などの損傷があった。

 

修復後表面部分。破れや横折れの補強、裏打ち紙の接着、欠失部分の繕いを行った。

 

修復前表面部分。強い横折れ、裏打ち紙の浮き上がり、紙表具に細かい破れや皺、欠失などの損傷があった。

 

修復後表面部分。破れや横折れの補強、裏打ち紙の接着、欠失部分の繕いを行った。

 

修復前表面部分。強い横折れがあった。

 

修復後表面部分。強い横折れを補強して緩和した。

 

 

「櫻木神社大祭碑 拓本」修復行程

 

処  置:

1.修復前の写真撮影、状態調査

2.作品の処置

  ・ドライクリーニング。表面に付いている汚れを軽減した。

  ・掛軸から軸棒、紐、八双を外した。

  ・軸先に付着したカビ痕を除去して殺菌した。

  ・ウエットクリーニング。湿らせた吸い取り紙に汚れを吸着させて軽減した。

  ・糊離れにより浮き上がっていた裏打ち紙を剥がした。

  ・八双袋と軸袋を剥がした。袋を新調した。

  ・破れや脆弱化した箇所箇所に補強をした。

  ・欠失箇所に、似寄りの紙で繕いをした。

  ・剥がした裏打ち紙に接着剤を塗布して再接着した。

  ・きつい横折れがある箇所に、細い帯状の紙を貼って補強(折れ伏せ入れ)を行い緩和した。

  ・プレスして掛軸を平らに伸ばした。

  ・掛軸に仕立て直した。

3.修復後の写真撮影、報告書の作成

 

修復中:

修復中表面部分。ドライクリーニングを行って、表面の汚れを軽減した。

 

修復中。ウエットクリーニングを行った。湿らせた吸い取り紙に掛軸を挟み、汚れを吸収させて軽減した。

 

修復中。浮き上がっていた裏打ち紙を剥がし、糊を付けて再度接着して浮き上がり箇所を直した。

 

修復中。破れや脆弱化した箇所を補強した。

 

修復中。きつい横折れに折れ伏せ入れ紙を貼って、補強を行い緩和した。

 

修復中。再使用の軸棒と新調した八双、紐を付けて掛軸に仕立て直した。

 

修復後。新調したアーカイバルボード台差し箱(中性紙ボード)に収納した。

 

補強紙:八女楮紙(溝田義秋製作 手漉き八女楮紙)/薄美濃紙(長谷川聡製作 那須楮手漉き和紙)

折れ伏せ入れ紙:八女楮紙(溝田義秋製作 手漉き八女楮紙) 

接着剤:生麩糊(しょうふのり)(小麦澱粉糊 工房で煮るので保存剤は使用していない)

 

掛軸を安心して掛けられるようになった!

 

 掛軸は取り扱うのも危険でした。損傷箇所の処置を行ったことで、展示と取り扱いが可能になりました。

 袋(八双と軸棒をくるんで装着する紙)の紙、八双、紐は新調して、以前よりも強度は増しましたが、経年による紙表具の脆弱化は、修復前と同様ですので、今後も注意が必要はあります。

 

※修復のお仕事展への展示及びブログの掲載を快く許可していただいた、菊坂町会様には厚く御礼申し上げます。

 前回お知らせしましたが、10月3日から開催している「東洋文庫の北斎展」でコラボレーション展示をさせて頂いています。

 11月27日からは前半の油画と染織の修復に変わって、東洋書画と写真の修復の展示に変わりました。皆様ぜひご覧ください。

 

 そして、11月30日(土)にワークショップ「変わり屏風を作ろう!」を開催しました。

日本の伝統的な調度品である、屏風(びょうぶ)。

屛風の番(つがい)は金具ではなく、「紙」できています。今回はその仕組みを使って、縦と横に開くと絵が変わる、変わり屏風を作りました。

縦に開くとクリスマス用に、橫に開くと正月用にと工夫したものになっています。

 

変わり屏風完成写真。縦にも横にも開きます。

 

 始めに屏風の構造についてお話ししてから、作業に取り掛かります。とは言っても完成品の形は分かっても、工程途中では何をやっているのかは分からず、こちらの説明通りに進めていくしかありません。

 

ワークショップ会場風景

 

 そうして取りあえず番を貼り込んだ後、恐る恐る開いてみると驚きの声が。誰も大失敗をせずにちゃんと開くことができました。

 裏面に好きな千代紙を貼り、クリスマスっぽいシールを貼ると完成です。

 ちなみにアレンジをするとこの写真のようになります。

 

ちょっとアレンジでクリスマス。

 

そしてお正月気分。

 

 大人、子供に係わらず、皆さんに満足して頂けて私たちもホッとしました。

 また、何か機会がありましたら開催したいと思っています。

 

 そして12月8日(日)には、紙本修復家で修復のお仕事展メンバーによる 「フレームで絵葉書を飾ろう!」を開催します。

大切な絵や写真を画鋲やテープで壁に貼っていませんか?

美術館で使われているフレーム(ブック型マット)の方法で、今回展示してあります浮世絵、「諸国瀧廻り」のポストカードのフレームを作ります。

出来上がりは写真のようになります。

 

ブックマウントにヒンジ付けで作成します。

 

完成するとこんな感じです。

 

時間は①11:00~12:30 ②14:00~15:30の2回

 対象年齢:小学3年制以上 各回定員 20名

参加費:1000円(入館料別途)

 ※ワークショップはすべて事前のお申込が必要です。お申込方法等、詳しくは東洋文庫ミュージアムのホームページをご覧ください。
http://www.toyo-bunko.or.jp/museum/workshop/workshop_list.php

定員に数達した場合には締め切りとさせて頂きますが、当日余裕があれば飛び入り参加も可能です。

また、近くの六義園では12月12日(木)まで、日没から21時まで(通常の開園時館は17時まで)ライトアップが行われています(最終入園20時30分)。

また「東洋文庫&六義園コンビチケット」も用意してあります。

こちらは通常ですと東洋文庫¥900+六義園¥300=¥1200でのご案内のところ、2つあわせて¥1000でお楽しみいただけるお得なチケットです。

ぜひご活用下さい。

 

よろしくお願い申し上げます。