(24/6/3)
横浜トリエンナーレ
横浜美術館

・ピッパ・ガーナー Pippa Garner 
 現在80歳のアーティスト。1980年代に女性になった。美術作家として評価を得ていたがそれ以降忘れられ、近年再評価されている。

 「人間のプロトタイプ」。男女の身体のパーツがでたらめに組み合わされているマネキン。一つの身体から男女二つの足(服装から明らかに男・女とわかる)が生えている。両手に代わって生えているのは白人の若い女性と、黒人の若い男性の顔。2人の赤ちゃん(が組み合わさったもの)を二本の手が抱えている。

 


 別展示室では、ガーナーの過去の写真作品が展示されている。軍服を着た自画像。軍服を着ているが、しゃきっとしていなくて強そうには見えない。




・マイルス・グリーンバーグ Miles Greenberg


 自分(および協力者)の身体を彫刻のように展示するパフォーマンス作品で知られる、ニューヨークの27歳のアーティスト。聖セバスティアヌスを引用したポーズで(特殊な矢を体に刺して)台座の上で7時間過ごすなど、身体を酷使するパフォーマンスを行う。

 グリーンバーグは不安障害と強迫症を患っているという。そんな病気を抱えながら過酷なパフォーマンスを行っているというのは信じがたい。

 youtubeでパフォーマンス作品がちょっと見れる。花に囲まれた、回転する台座の上で枝を片手で持ったり両手を伸ばしたりして掲げている。
 もう一方では、ルーブル美術館の彫刻に囲まれて聖セバスティアヌスに扮して静止したり苦悩のポーズをしたりしている。

 

 

 


 近年はパフォーマンスだけでなく彫刻も制作する。ステージ上で自分の体を3Dスキャンするシステムを開発した。グリーンバーグの動きの痕跡とスキャンからの予期せぬ不具合を融合させ、等身大の彫刻を制作する。

 「マルス」、「ヤヌス」。
 背の高い、モニュメンタルな2つの像。体は二重に重なる。パフォーマンス中のいろいろなポーズを重ねているようだ。うつむいたところもある。腕がたくさんあり、身体が長いモンスターのよう。腕のポーズもモニュメンタル然としていて、古典的な彫刻っぽさがある。

 

 


 ギザギザ、ガビガビしたところがある。3Dスキャンする際の読み取りエラーをあえて補正せず、そのままに高密度ウレタンで制作しているという。(3Dプリンターを使っているのだろう)。読み取りエラーにより手が途中でなくなったり、形がおかしくなったりしているところがあるが、デジタルなエラーをそのまま立体に移しているのが面白い。そして全体としては統一感があり立派な彫刻になっている。
 古典的のようにも一見見えるが近くで見ると複雑さがあり作り方は現代的で面白い。

 



 黒い体に赤く色づいたホースが這っている。この彫刻は噴水としても機能するというが、今回噴水になっていないのは残念。でもそのおかげで近づいてで見れるのかもしれない。



・サンドラ・ムジンガ Sandra Mujinga

 コンゴ生まれ、ノルウェー育ちのアーティスト。

 天井に巨大な鳥のように赤い布で織った形が浮かぶ。床には巨大な3点の物体が立つ。

 


 天井の赤い作品と少し色合いが違い、紫に近い。スチールの骨組みは動物の骨のようにカーブしていて、足がある。布は手でさいた細い端切れのようだ。
 アーティストトーク(youtube)によれば、太古の恐竜や未来の宇宙船をイメージしているという。
 確かに恐竜っぽさがある。ティラノサウルスみたいな後ろ足で立つ恐竜のような。しかし身体はなく、布を編んで作った表層しかない。

 ヴェネツィアビエンナーレ(2022)で展示されたような、大きな人の形が幽霊のように立っている作品と比べると、表層のみ・皮膚のみ、な感じが強い。

 

 

 

 上から見ると、恐竜が集っているみたいな感じがある。

 



・ヨアル・ナンゴ Joar Nango


 サーミ人のアーティスト、建築家。
 サーミ人は北欧の先住民族で、トナカイ放牧の半遊牧民である。
 1970年代まで「ノルウェー化」の政策が取られ、サーミ文化は抹殺され、言語を話すことも許されず差別を受けてきた。

 最近の美術の世界では少数民族を擁護する流れがあるのか、ヴェネツィアビエンナーレ2022では北欧パビリオンがサーミパビリオンになってサーミ人アーティストばかりが選ばれたし、ヴェネツィア建築ビエンナーレ2023ではNangoが出品している。

 ナンゴは現地で調達したもので仮設の建築を作る。
 削った木の枝。大きな貝が重ねて置いてある。薬局などののぼりは屋根として使われる。台車に毛皮を貼り付けたもの(サーミといえばのトナカイだろうか?)。
 外国人の眼から見て面白いと思った日本のものを雑多に集めてきた感じ。実際ここで木を切ったのか、木くずが散らばっている。

 

 

 

 




・オープングループ Open Group


 戦争が続くウクライナのアーティスト。
 ロシアによる全面侵攻の数週間前、ウクライナはハンドブックを配布した。そこには軍事行動の備えとして、音で様々な武器の種類を判断することが書かれていた。
 「Repeat After Me」では、リヴィウの仮設キャンプに避難したウクライナ難民が、戦争の音の体験を共有する。大きなディスプレイの映像。様々な武器の音を再現し、さあどうぞと復唱を促す。カラオケのように字幕が出る。
 現在開かれているヴェネツィアビエンナーレでも同じ作品が展示されている。




・エマニュエル・ファン・デル・オウウェラ Emmanuel VAN DER AUWERA

 インターネット上の既存の映像を使用して制作するベルギーのアーティスト。

 この作品では、液晶にナイフで切り込みを入れる。
 割れたディスプレイ。傷で見えなくなった部分が多いがその隙間から、映像が見える。複数のディスプレイを並べて一つの大きな映像になっている。トランプ支持者が議事堂を襲撃した映像だという。
 祭壇画を意識しているということだがそんなに大きくなくて迫力はない。むき出しのケーブル類目立っている。

 


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 ここまで、横浜美術館のグランドギャラリーの作品。大がかりなインスタレーションが多くてここは面白かった。


(つづき)

 

 

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