「浜ちゃんには時間がない」

 

道重さゆみさんがモーニング娘。のリーダーだったころに、タワーレコードの社長さんがおっしゃった言葉です。

 

「浜ちゃん」は、2020年に解散したこぶしファクトリーのメンバーで、現在は俳優をされている浜浦彩乃さんのこと。

当時の浜浦さんは中学生で、ハロプロ研修生の中心メンバーとして活躍されていました。

 

(時間がないって、どういうこと?)

(まだ中学2年生じゃないか)

(小学生でデビューした、Berryz工房のような新グループを望んでおられるのかな?)

当時の私は、そんな感想をもっていました。

 

翌年。こぶしファクトリーとしてメジャーデビューした浜浦さんは、2018年におこなわれたハロショ千夜一夜イベントにおいて、このような発言をされています。

中2の時、後輩がどんどんデビューしていって、受験勉強に専念しようと思ってマネージャーさんに「辞める」と伝えた。

 

3日後ぐらいに新ユニットに入ったと発表され、マネージャーさんに「アイドルを辞めたいわけじゃないでしょ?」と言われて思いとどまった。

社長さんが仰った「浜ちゃんには時間がない」は、冗談でも何でもなく、まぎれもない事実だったわけです。

 

そんな「浜ちゃん」のメジャーデビューから、7年後。

 

2022年7月13日(奇しくも、道重さんの誕生日)は、ハロプロの新グループ「OCHA NORMA(オチャノーマ)」がメジャーデビューした日で、10人のメンバーはデビューの喜びや感謝の気持ち、グループに入るまでの思い出などを公式ブログにつづっておられました。

 

なかでも衝撃的だったのは、石栗奏美さんのブログ。

平日は北海道で学校と塾に通い、週末はハロー!プロジェクトのコンサートで全国を回るという生活が始まり、週末メンバーに会えるのが本当に嬉しくて、平日ははやく過ぎちゃえば良いのにな!ってすごく思っていました笑

 

でも、そんな日々が続いて行く中で何も目標が見えなくて、、でも時間は過ぎていって、さらに先生方からも常に厳しい言葉を頂いていて、研修生発表会でステージに立った時、いつもどうやって自分がパフォーマンスしていたかを忘れてしまって目の前が真っ暗になりました。

何も考えられなくなって笑い方も目線もどうしていたか分からなくなって、あんなに大好きだった歌って踊ることが辛いなと思うようになってしまいました。

 

自分って一体なんなんだろうと完全に心が良くない方向に行っているのを、自分でも強く感じました。

 

だから、大好きなことを嫌いになってしまう前に、自分の心を保つために、研修生活動終了という決断をしようと思いました。

 

なので、去年の3月に研修生ユニット4人をスターティングメンバーとして新グループを作るという嬉しいご報告を受けても、あのご報告のちょうど1・2週間ほど前に辞めたいですという内容のことをお伝えしていたので、あまり心の中で受け止められない自分がいて、、、

 

でも、ずっと一緒に頑張ってきた3人が頑張るなら、私も頑張ってみようかなって、頑張れるんじゃないかなと思ってもう1回、大好きなことに真剣に取り組もうと思いました。

ハロプロ研修生ユニットとしての活動期間中に、研修生活動を終了する決断をされたこと。研修生ユニット全員で本気で辞めようと悩んだことを、赤裸々に語ってくださいました。

 

昇格率が3割を切る(29.82%)ハロプロエッグではなく、多くのメンバーを輩出してきた(61.7%)ハロプロ研修生の「選抜ユニット」に入っているメンバーさんが、所属事務所に辞意を伝えていた。

「ハロプロ研修生ユニット=新グループのメンバー」という認識を持っていた私は、石栗さんが「歌って踊ることが辛くなるまで」追い詰められた事実に、愕然としました。

 

石栗さんと同じく、ハロプロ研修生ユニットのメンバーからOCHA NORMAになった窪田七海さんのブログにも、研修生ユニットに選ばれたあとに「1番デビューに近いって言うことだよ」「新グループを作るかも」「だけどそれはまだ確定ではない」と正反対のことを言われてパニックになったことや、ハロプロのオーディションで対象外になっていたことが記されています。

どれも今思えば有難いことですが当時の私はハロプロ研修生ユニットは中途半端な立ち位置でどこにも居場所がない感じがし毎日怖かったです。

 

彼女たちが体験した出来事は、彼女たちだけにおこったことではなく、過去に何度も繰り返されてきました。

 

例えば、ハロプロキッズからBerryz工房に選ばれた8人も、当初は「スターティングメンバー」と呼ばれ、他の7人との入れ替わりもあると言われていましたし、後にJuice=Juiceとなる「ハロプロ研修生内新ユニット」のメンバー発表では

「途中で入れ替え、増員や減員もあるかもなので、気を抜かないように」と、つんく♂さんの手紙が紹介されています。

 

これらの演出は、テレビのオーディション番組から始まったハロプロの十八番で、実際に適用されることは、ほぼない。

Berryz工房はスターティングメンバーの8人のままデビューしましたし、Juice=Juiceも、デビューが決定(発表)した後に辞められた方が1名いたものの、メンバーの入れ替えはありませんでした。

 

大人たちにしてみれば、慢心を防ぐために釘を刺しただけに過ぎず、石栗さんも窪田さんも、ユニットに選ばれた時点でデビューの準備期間に入って、後はタイミングを計るだけ。

新人を売り出すにはお金と時間がかかりますから、ハロプロの他のグループとの兼ね合いや、他事務所の新人グループと被らないかなど、慎重に見極めていたのだと思います。

(個人的見解)

 

しかし、私たち自身の思春期を思い返した時に、このような大人の事情を理解していたかと問われれば、首を縦に振る方は少ないでしょう。

 

学校でおこる出来事が世界の全てで、親や先生の言うことが絶対だった子供のように、研修生にとってはスタッフさんや歌・ダンスの先生方の言葉が全て。

その上で、学業との両立、受験、新型コロナがエンタメ業界に及ぼした影響など、環境の変化にも対応していかなければならないとなれば、不安に押しつぶされるのも当然です。

大人の事情は話せないまでも、誰かが研修生たちのメンタルをケアしなければいけなかったのではないかと感じました。

 

心が折れそうになっても支え合い、デビューまでこぎつけたOCHA NORMA……そんな経験を、今まさに始めようとしているメンバーが、ハロプロ研修生ユニット`22の5人です。

松原さんは研修生28期(2017年12月加入)で、窪田さんの同期にあたり、小野田さんは29期(2018年11月加入)で、OCHA NORMAのリーダー斉藤さんの同期にあたる。

 

つまり、今年の実力診断テストでベストパフォーマンス賞に輝いた2人は「本気で辞めようと悩んだ」研修生ユニットと同等のキャリアを誇りながら、研修生ユニット`22としての活動を“今から”スタートするのです。

(他のメンバーも研修生歴は3年で、OCHA NORMAの広本さん・西﨑さん・北原さんと同期にあたります)

 

私たち大人は彼女たちを見て「まだまだ子供」と感じるし、ハロプロメンバー全員が一般社会では「若手」扱いされる。

大人の1年はアッという間に過ぎますから、待たせる時間の深刻さにも気づきにくい。

 

OCHA NORMAの次のグループのデビューが2年後3年後になってしまうなら、5人の下積み期間は5年~8年になり、クラスメイトが受験や就職を考えはじめるなかで、毎週末のレッスンに通うようになる。

 

私たちは「ユニットに選ばれておめでとう!」だけでなく、「○○ちゃんには時間がない」が繰り返される現実に、重みを感じなくてはいけないと思いました。

 

今回、メジャーデビューという記念の日に、石栗さんや窪田さんをはじめとする研修生出身のメンバーが、当時の悩みをブログに書いたのは、ファンの皆さんだけでなく、ハロプロ研修生で頑張る8人へのメッセージのように感じています。

 

ハロプロ研修生ユニット`22の5人や、研修生になって半年から1年になる3人の明日が、テンキになりますように。