池田瑠那句集『金輪際』を読んで | DEN

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「田」俳句会のブログ

昨年の田11月号で上野犀行さん、平野山斗士さんが取り上げていた池田瑠那句集『金輪際』。

私もようやく入手することが出来たので、感じたことを書き残しておこうと思う。

 

東京の闇はむらさきちちろ鳴く

竜宮城洗つて金魚鉢に戻す

月に躁ぐわが細胞や六十兆

 

読み進めていく中で、この3句に心奪われた。

これらの作者の視点と描写には、圧倒されてしまう。

きっと、とても繊細な人なのだろう。

そしてそれをきちんと表現出来る人である。

繊細さに溺れることなく、自分をしっかりと持っている強さも感じた。

 

花散るや金輪際のそこひまで

 

句集のタイトルにもなっているこの句が、私は一番好きだ。

どこまでも美しく、どこか切なく、確かな祈りを感じる。

俳句って、こんなことまで出来るのか。

私に新たな景色を見せてくれた一句である。

 

花冷や覗いて猫の耳の中

しまふときトライアングルちよと鳴り秋

紅梅や恋せば髪の伸びやすき

 

これらの句には、作者の好奇心旺盛でキュートな一面が表れている。

子どものような愛らしさすら感じられる。

こういった句も、作者の句の魅力だと私は思う。

 

そして、この句集を語る上で避けては通れない、伴侶を喪われた際の二十二句には言葉が出なかった。

的確な写生が、こんなにも痛切な想いとなるのか。

このとき、作者は自分の気持を何とかして伝えよう、とは微塵も思っていないはずだ。

ただ、そこにある事実を述べている。

だからこそ、静かなる痛みが波紋のように広がっていく。

 

第一句集は自己紹介で、履歴書のようなもの。

この『金輪際』には池田瑠那氏のありのままの姿が詰まっていると感じた。

句集を読み進めていくと、作者に対して不思議と愛しさがこみ上げてくる。

 

悲しいことも、嬉しいことも、面白いことも。

そのすべてをひっくるめて正直に俳句とすることで、親しみが生じる。

すぐ隣にいる友人のような気さくさが、池田瑠那氏の句からは感じられるのだ。

 

私の心にスッと入り込んでくる。

そんな池田瑠那氏の句をもっともっと読んでみたい。

 

 

笠原小百合 記