「本当のレイプなら妊娠しない」/暴走する米キリスト教右派

アメリカ国民の３～４割を占める保守的なキリスト教福音派（エバンジェリカル、キリスト教右派）の人々の無知無教養ぶりには本当に驚かされる。

福音派には、自国のニューヨークやロサンゼルスがどこにあるか地図で示すことができなかったり、９１１同時多発テロの首謀者はサダム・フセインだと信じているような人が今も大勢いる。

彼らに日本やアジアの話題を振ったところで、基本的に知識がないので話が続かない。彼らの多くは海外旅行をしたことがなく、そもそも海外の出来事や文化に興味を持っていない。こういった点は西海岸などのリベラル層とは決定的に違う。

無知の背景には「知性は神に逆らう」とするキリスト教原理主義がある。

つまり聖書に書かれている言葉と合致しないような科学の知識は邪魔なだけで、より無知であるほど純粋に信仰に打ち込めるとする考えだ。

福音派は、人間は神が創造したものであるとして進化論を完全否定。地球の歴史は６千年で、恐竜と人間が同じ時代に生きていたと本気で考える。

「エデンの園」や「ノアの方舟」は歴史的事実で、避妊（避妊具）は罪悪、人口妊娠中絶は殺人とする教えを信じている。

ところで先月、ミズーリ州選出の共和党保守派トッド・エイキン下院議員が「（福音派の）医師から聞いた話では、正真正銘のレイプ（legitimate　rape）なら女性の体はそれをまるごと遮断しようとするので、妊娠することはない」と発言して猛烈な非難を浴びた。

愚かな発言の経緯はこうだ。

エイキンはオバマ政権が貧困層に対する医療保険負担を決めたことに反発。「中絶費用を政府が負担するな」と主張していたが、「では、レイプ被害で妊娠した場合は？」とマスコミに尋ねられ、「正真正銘のレイプなら妊娠しない」と応じた。

日本で国会議員がこんな失言をしたら議員辞職は免れないが、エイキンは簡単に謝罪しただけ。大統領選への影響を危惧した共和党から上院選出馬を取りやめるよう求められたものの、候補辞退を断固拒否している。

なぜこんな議員が居座っていられるかと言えば、中絶禁止が共和党の党是になっているから。

アメリカでは長い間、中絶を完全に禁止していた。しかし１９７３年、中絶が最高裁判決で女性の権利として認められると、福音派は中絶を再び禁止するよう求めるようになり、福音派が多い南部や中西部の票を狙った共和党が中絶の無条件禁止を選挙公約に掲げた。

ロムニーと共和党大統領候補の座を争ったサントラムも「たとえレイプでも、子供は神からの贈り物なので、この機会を利用しよう」と述べたという。

こういった考え方は世界の常識と大きくかけ離れており、自ら信じるものが絶対唯一とする信仰の恐ろしさを改めて思い知った。

移民国家であるアメリカは多様な価値観や文化を受け入れてきた一方、聖書の言葉一言一句を真実であると信じる厄介な福音派を抱えている。

ブッシュ前大統領は、大量破壊兵器がイラク国内に存在するとした証拠をでっち上げてイラク戦争を正当化したが、大義のないデタラメな戦争を支え続けたのが共和党支持者の４割を占める福音派だった。

国家としては、国民があまり利口でないほうがコントロールしやすいだろうが、アメリカの行方が極端な信仰に基づく国民の無知ぶりに左右されるのかと思うと、なんだか背筋が寒くなる。

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「レイプなら妊娠しない」　暴言議員をオバマ陣営攻撃、共和党防戦　　（ＭＳＮ産経ニュース）

「まともなレイプ」発言にパニクる共和党　　（ニューズウィーク日本版）

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エイキン下院議員は中絶反対の立場で保守層からの支持を集め、今年１１月の選挙では上院議員選に出馬予定。インタビューの中で、「私が医師から聞いた話では、強姦被害者の妊娠は極めてまれだ」「もしそれが正当なレイプなら、女性の体にはすべてを拒絶しようとする仕組みがある」と発言しました。

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