私が、今住んでいる街に家族と越してきたのは、コロナ禍真っ盛りの夏。
不要な外出はなるべく控えた方がいいが、バカンスシーズンはさすがに少し緩めないと経済が回らない。
チラホラだが観光客も見かけたし、イベントもあった。
夏が過ぎると、再び外出が厳しく取り締まられるようになった。
とは言え、少々(自宅から半径2km以内)の散歩くらいは許されるので、晩秋のある週末、家族で裏山を散策することにした。
家から徒歩5分ほどの松林に差し掛かると、娘と夫が「動物の声がする」というので立ち止まった。
なるほど、どこからか猫、おそらく仔猫の鳴く声がする。
もしやと見上げると、松の枝から降りられなくなった仔猫が必死に鳴いている。
すぐに夫が消防署に電話したものの「大丈夫、自分でどうにか降りますよ」と言われて通話終了。
確かにこのコロナ禍に、飼い猫でもない猫のために来てくれるとも思えない。
ならば自分で助けるまで!と、仔猫が立ち往生している松の木に近づこうとしたが、低い位置から枝が広がっていて、うまく近寄れない。
何とか助けたくてオロオロしていたが、結局仔猫は転落して背中を地面に打ち付けてしまった。
ただ季節柄地面は落葉に覆われていたのと、仔猫自体の体重が軽かったからか、落ちてすぐに立ち上がった。
他の猫も見当たらないし、まだ仔猫なのを考えると、迷い猫というよりは捨て猫なのだろう。
同情しつつもうちでは飼えないので、「強く生きろよ」と仔猫に言い、その場を離れようとした。
が、付いてくる。
時折立ち止まると、そのまま私たちを追い抜かして先に進むが、数メートル先で仔猫も立ち止まって、こちらに向かって「ニャー」と言う。
「早く来いよ」とでも言っているかのように。
子どもたちは「もしかしたら仔猫を飼えるかも」とでも思っているのか、嬉しそうに家に向かって歩いている。
夫も苦笑いしながら一緒に歩いている。
途中ですれ違ったご近所さんから「あら、お宅の猫ちゃん?」と言われるほど、仔猫は私たちと付かず離れずの距離を歩いていた。
とうとう家の裏口に着いてしまった。
裏口の門を開けると、仔猫は我先にと入っていく。
おいおい、どうすんだよ。。。
勝手口を開けると、何の躊躇もなく家の中に入って行き、私の椅子に飛び乗って寝転んだ。
えええ???ちょっと、本当にどうするの、これ!
夫に尋ねると、「とりあえず餌だけ買ってくる」と言って、車で出かけてしまった。
それからしばらくして夫が帰って来たと思ったら、何やら大荷物を抱えている。
え?猫缶でも買いに行ったんじゃないの?
猫缶もカリカリも買って来ていたが、なんとキャットタワーまで買ってきていた。
飼う気マンマンかよ!!
私だって毛の生えている哺乳類が大好きだ。たぶん家族の中で一番の動物好きだ。
実家では小鳥も金魚も犬も飼ってたし、猫は飼ったことはないが、車に跳ねられた猫を助けたことも何度かある。
でもね、だからこそ安易に飼いたくない。
特に子供たちがまだ小さいうちは、動物を乱暴に扱ってしまうかもしれないから、もう少し待ちたいのだ。
私の熱い思いを夫に訴えたのだが、「じゃあこの子どうするの?元の場所に戻す?」と言われて「ぐぬぬ。。。。」となった。
これが我が家の愛猫ぺー様との出会いである。
獣医さん曰く、家に来た当時はおそらく生後4か月ほどとのこと。
憶測だが、3ヶ月くらいまでは親猫といて、その後誰かに松林に放置されたのではないか。
家族と、よくうちに遊びに来る娘の友達以外には徹底して姿を見せず、インターフォンが鳴ろうものならダッシュで身を隠すほどのビビりだが、そんな警戒心の強い猫が後を付いてきて居座るということは、我々は彼女から選ばれたということか。
そう思うと悪い気もしないが、大方「寒いし腹減ったし、こいつ(ら)なら見捨てないだろう」とでも思われたんだろう。
実際大当たりで、結局私がしもべのごとく、甲斐甲斐しく餌からトイレから毎日世話をしている。
昔、父が近所の空き地に捨てられた仔犬を拾って来た時、すわ離婚の危機か?と思うほど父と母が揉めた。
母の言い分「どうせ私が世話することになるんだから!」には大いに納得したが、実はコッソリその仔犬に朝晩餌を届けていた私としては「父ちゃん、グッジョブ!」と思ったものだ。
そして13年後、その犬が亡くなったことを電話で知らせてくれた母は、電話口で泣いていた。
今、父とあんなに揉めたのにも拘わらず、仔犬にメロメロになった母が自分と被る。