昔を語るのは趣味じゃないが…生い立ちなんて立派なものでもない。
生まれもっての天涯孤独じゃないから偉そうには言えないが…

そうさ、これでも産まれたのは、人間の家だった…
普通のサラリーマンとかいう決まった時間に出て行き、時々夜遅く帰る男と専業主婦とかいう猫と同じく昼過ぎにはゴロゴロしてる妻と我々猫に優しかった小3という年齢の娘そして我々の一番の敵の5歳児の弟…そんな四人家族の家だった…

そこに飼われたのが俺のお袋の三毛で「タマ」という、ありふれた名前だった。
親父は近所の家に拾われた流れ者だったらしい…
どこで騙されたかお袋は親父の子を身ごもった。陸たま見にも来ないで、飲んだくれの親父は結局俺らが産まれてからすぐに人間の呑むビールを呑んで側溝に落ちて死んだらしい。

三兄妹の長男だった、幸せだった…食うものに困らず、暖かい家の中で安心して寝られた。
だが、お袋が病気で亡くなってから変わった…
その家の人間たちはどこか引っ越す事になったらしい、それも今度は我々がついていけない家らしかった…
小3の娘がいつも泣いていた。
どうやら俺たちはバラバラにどこかにもらわれる事になったようだ。

ある日、妙に白い粉のふいた顔のおばさんが妹を抱き抱え気味の悪い笑顔で連れて行った。
ほどなく、次に胡麻塩のような顎髭のオヤジが目を糸のように細めて弟を連れて行った。
俺は…

弟、妹は白いキレイな毛並みの猫だ。
俺は鼻の頭と腹、足先が白いだけで全体に黒かった…
それだけが原因じゃないだろうが、俺は取り残された。
小3の娘は「クロちゃんは私が守ってあげるね!」と言ってくれた、後にも先にも優しい言葉をかけてくれたのはそれだけだ。

引っ越しの日が近づいたのだろう、小3の娘は泣いていた…
俺は決心した、自分から出て行こう。
人間に情はないが、なぜかあの小3の娘の泣き顔は見たくなかった。

こうして独りになった俺が最初に向かったのは神社の裏手だ。
そこは野良の集まる場所。
しきたりも礼儀も知らぬ子猫の俺はあっという間にボロ雑巾のようにされた。
3日ほど捨て置かれた俺に魚の身を持って声をかけてきたのが、この辺じゃ名の知れた「ヒジキ爺」だった。
体中の傷がヒジキのように盛り上がっているからそう呼ばれてた。
「若いの、もう死にたいか?それとも生きたいか?」「悔しいか?だったら生きろ、そして強くなれ!」
ヒジキ爺に促されたどり着いた拝殿の床下に居たのは子供の俺が見ても妖艶な黒猫のペギーだった。
「あんたも黒かい?黒は何色にも染まらない強い証さ!負けちゃダメだよ。」そう言って頭を撫でた。
後で聞いたがヒジキ爺が俺を連れて行ったのは3日間涙を見せなかったからだそうだ。
人の家では「クロ」だったが…いつもペギーが昔の恋人の名ジョニーと呼んでくれるから、いつしかこの町で俺はジョニーになっていた。

これがはぐれ猫黒猫ジョニーの始まりだ。

続きはまた…
潮風の歌を聴いてる夢を見ていた。

寄せては返す波のリズム、アップテンポで軽やかな潮風のメロディー…


この世の最期、日本沈没…
轟音と共に恐怖を見せつけた大津波…
阿鼻叫喚が響き渡る…

その大きな傷痕、見渡す限り廃墟と化した海辺の街…
人気の消えた静寂の街…
その日を知らぬ太陽が穏やかに照らし、平静を装った海が波を小さく揺らす…


季節外れの夏の流行歌が小さなトランジスターラジオから乾いた音で聞こえてくるように…
無邪気な潮風が誰も聞かない海岸で、いつまでもいつまでも歌ってる…


生きてる事は地獄…
死んでも地獄…
生命の光と鼓動を失った大地…

まるで映画を観るように…
本当の恐怖、悲哀も知らず、薄っぺらな感情移入で泣いている…
嘯いて悲しみの時間を弄んでる…


潮風が呼ぶ…
誰もいない変わり果てた浜辺の街…
潮風が呼ぶ…
一緒に歌う風を探して…

愛する人も、物も、何もかも…全てを無くした被災者に何を望めと言えるだろう?…
巨大な虚無が日本中を覆いつくす…

そう…被災者の彼らこそ希望の光!
明日の鼓動!
この光を消してはいけない!
この光を守るのはみんなの使命!


潮風は歌う…
今は誰もいないその街で…
優しさを取り戻した海の波打ち際で…
潮風は歌う…
希望の歌を…
明日の歌を…

潮風は呼ぶ…
誰かが応えてくれるまで…
潮風は歌う…
みんなが一緒に歌うまで…

潮風は歌う…
2011年3月11日午後2時46分…東北地方太平洋沖地震
国内観測史上最大M9.0…大津波による甚大な被害…
日本列島は恐怖で震えた…

人の価値など比べられないと、自分で言ってながら己の薄っぺらな存在価値に被災した一人の代わり…いや、たとえ足一本の代わりになれなかったか?と…
しかしそれは、自らの命も軽んじている事になる…
では、この命、神に捧げば千人の命が救われるのなら投げ出せるのか?…
それも違う…

運命と言ってしまえば、まさにその通りなのだろう…
ただただ祈るのみ…

この胸の痛みは人に対する憐れみや運命の無情、世の無常を感じてではない…必要とされない自分をどこかで人に惜しまれたいと云うエゴの自己満足を欲しているから…

優しさの押し付け、押し売り、ばらまき…
それで良い人になった気でいる、実は「どうでもいい人」に過ぎない。

どうすればいい?

簡単な事
相手の被災者の身になって考えればいい…
感情移入する事じゃない…
自分ならどうしたい?どうされたい?
案外強い自分が見えてくる。

時として神さんは耐えられると思った人に厳しい試練を与えます、あまりにも惨い事を平然と押し付けてくる…
残された人も傍観者の自分も神さんに選ばれた人間なんだ…

だったらありのままに生きてみよう…
生きぬいてみせよう…
生ききってやろう!
生きて生きて生きて…
神さんがもういいよって言うまで…


無力な事を受け入れよう…
それでも不安なら、いつかどこかで誰かが必要としてるかも知れないと…その時まで生きて行こう…

何かにつけて意味を求めてしまいがちだが…
生きてる間は意味は見えないもの…
運命?宿命?使命?偶然?必然?自然?…
いいや何もないんだ!
ただ流れ星のように一瞬を永遠に輝きながら流れるだけ…

生きて生きて生きて…
その手の温もりが無くなるまで…