梅雨末期…
窓の外は灰色に塗りつぶされた空と、カエルの大観衆の拍手のような雨音が止まない。

ザーザー
ザーザー
ザーザー…

全ての気配を消すかのような雨の音…
静まり返った部屋に充満するざわめき…

ふと気づくと、窓の外の裏木戸の向こう、雨に濡れたキツネが顔を出してジッとこちらを見てるよう。

ザーザー
ザーザー…

雨に煙ってハッキリしない、なぜか人の視線のように感じた。
遠い遠い生まれる前から知っていたような懐かしく優しく、そして恐ろしいような…

ザーザー
ザーザー…

いつの時代にも人のそばにいて、自然界への畏怖と生き物としての戒めを気づかせる存在…

ザーザー
ザーザー…

雨音が孤独をつくる、薄暗く重い雲が頭の中にも入り込む…

ザーザー
ザーザー
ザーザー
ザーザー…

ピカッ!
……………
ゴロゴロ~

湿気で張りつめた空気を突然雷が切り裂く!

カッ!!
バシッ、バリバリ!

近づく閃光と轟音…

ゴロゴロ…

やがて通り過ぎる…

雨もやんだ…
ポト、ポト、ポト…
静かな張りつめた空気をやわらかくやぶったのは軒下に落ちる雨の雫…
ポトッ…

空が明るくなった!
一気に夏の空気が押し寄せて来る。

心なしか蒸し暑さも気持ちいい…

白い雲がやかましく夏を連れて来た!


裏木戸を見た、
もうキツネは居ない…
ピッ!
さぁて始まった競争?

B氏が勢いよく走りだす!

続いてC氏がゆっくり歩き出した!

最後にT氏が…動いてる?

B氏
「なんだよ、みんな遅ぇなぁ…」

C氏
「速すぎだよ、もっとゆっくりでも運動の効果あるよ。」

T氏
「ふわぁ~…」

B氏
「走らなきゃ意味ないじゃん!」

C氏
「歩いてたって、ほら結構痩せたよ!」

T氏
「むにゃむにゃ…」

B氏
「見ろよ、この引き締まった体!」

C氏
「それじゃぁ痩せ過ぎだって、針金みたいじゃん!?」

T氏
「よくやるね…」

B氏
「でもT氏みたいになりたかねぇぜ!ほら動きなよ、オレはもう60周もしたぜ!」

C氏
「やっと1周だよ…痩せ過ぎも太り過ぎも良くない、適度な運動が大事さ!」

B氏
「でもさ、T氏より動かないのに痩せてるヤツがいるぜ…」

C氏
「あっホントだ…T氏のすぐとなりにいる赤い服のヤツ…」

T氏
「なんだよコイツ動いてねぇぜ、オイッ派手な赤いシャツ着やがって…なんか言えよ…オイッ!…」

カチッ!!

「ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ…」


「ふわぁ~ハイ、ハイ…もう朝か!?」

目覚まし時計の秒針、長針、短針、目安針たちがキラリと光る…
S氏は雨男である。

彼が旅行に行こうと前日…いや何日も前から準備して、いざ行かんと玄関を出れば…
ザー…

友人とゴルフに行く約束をして、さぁその朝ゴルフバッグを肩に玄関開けたら…
ザー…

最初のうちは遊びに出る時ばかりだったが、近頃じゃ裏庭の草刈りをしようと勝手口から出ようとしても…
ザー…

仕事で原付に乗って行こうとキーを振り回しもって玄関出れば…
ザー…

友人たちがS氏の家の庭ででバーベキューしようと集まって、準備してるところにS氏が庭に出たら…
ザー…

町内の公園のゴミ拾いと草刈りに行こうと軍手をして外に出れば…
ザー…


そのうち友人たちも近づかなくなってしまった…

S氏は悩んだ…
自分だけならともかく、雨が降ればみんなに迷惑がかかる…
S氏は次第にみんなから距離をおくようになった。
寂しい気持ちで良く晴れた空を窓越しに眺めていた…
「ん?まてよ…」
S氏はふと気づいた!
自分が出掛ければ確実に雨が降る…なら雨が降って欲しい所に行けば良いんだ!!
砂漠化が進んだ枯れ果てた大地に雨が降る…そんな夢みて…
S氏はこれで人の役に立つとワクワクした。

大急ぎで雨が降らなくて困っている所をテレビのニュースや新聞、ネットで探してみた。
とりあえずすぐに行ける近くで水不足になってるダムに行く事にした。

ザーザーザーザーザー…
みんな大喜び!
S氏もホントに嬉しそう…
近くで田んぼの水不足と聞けば…
ザー…
近くで夏の暑さで一雨欲しいと言われれば…
ザー…

超能力者!?魔法使い!?
すっかり有名人になり調子に乗ったS氏は大きく出る事に…
夢見てた事を…
「砂漠に緑を!」とテレビ局の番組でサハラ砂漠に行く事になった。
いつものように玄関を開ければ外は雨…
建物や乗り物に乗っている間は雨もやむのだが…
さあ遠い遠いアフリカの大地へ…
飛行機を乗り継ぎそしてレンジローバーで目的の地に着けば世界中のテレビ局、報道のカメラが神の奇跡だと、今か今かと待ち構えていた。
いつものように余裕の表情でいざ車から出れば…
………………………
…………………
……………
ん?
雨が…降らない…
ザワザワ…
「なんだよガセか?…」
各局、報道のカメラが帰って行く…
ポツンと取り残されたS氏は唖然としたまま空を見上げた…
「なぜ?…」
………
人生とはそんなもんか!?
と調子に乗った自分を反省し帰路につこうと車に乗りかけた時、大慌てで近づいて来る人が声かけた!
それはこの企画したテレビ局のプロデューサーが青い顔して言った…
「い、今…日本から連絡が…Sさん宅が大雨の洪水で流されたと…」


…………………
そうか雨が降るのはS氏の周りじゃなく、S氏の家の周りだけだったんだ…

S氏は勝ち誇った顔で涙をこぼした…
涙は渇いた砂地にしみてすぐ消えた…