死ぬはずであったウィリアム・サンドベリは、どことも知れない古城に閉じ込められていた。
押し付けられた仕事は、暗号コードを解読すること――ではなく、法則を見つけて再暗号化が可能なキーを発見すること。ソースは無線なのか電子ファイルなのか、再コーディングする必要が何故あるのか、何ひとつ情報を与えられぬまま謎と向き合うウィリアムに浮かんだ疑問。――このコードは、なぜ四進法を使っているのだろうか?
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【ネタバレではないですが、これから読む方の楽しみを奪ってしまう部分があるかもしれませんので、読後の方のみお願いします!】
力作SFです。プロフィールによると、作者さんはスウェーデン版劇団ひとりさんみたいな人物(←てきとうすぎねえか……)だそうですが、
魅力的な人物造形と圧倒的なリーダビリティに各誌の絶賛レビューが並び、
本書の帯にも「ダヴィンチ・コード」+「アンドロメダ病原体」+「ジャッカルの日」!! 的なことが書かれていますし、
わたくしの個人的な感触としても、スティーブン・キング+クライトン的な面白さでした。
いやとても面白かったのです。
しかし読後にとても暗い気持になり、なおかつ読後感のためだけではない、モヤモヤしたものが残りました。
とてもよく出来た構成で、読書中のワクワク感だけでも大変な傑作だと思います。思います。思いますけど、私とても今すごく文句が言いたい。(カタコトか)
まずこのお話、三人称で視点もバラバラというか視点人物が一定していない、いわゆる神視点な小説ですけども、こう、登場の順番と比率により、どうしてもウィリアムを主人公として認識してしまうし、ウィリアムに感情移入してしまうわけですよ。
50代のウィリアムからさー、ちょっと奪いすぎじゃーないすか。ひどくないですか。最後すこし前向き風に終わらせているけどさ、いや言いたいことは分かるけど、その試練を与えるにはちっと高年齢すぎないか? ウィリアムだって数年は過去の負の連鎖から逃れ、おだやかに生活するかもしれませんよ。でも手元に残ったものが無さ過ぎて、いずれまた自殺しちゃうんじゃーないの? つまり何が言いたいかというと、主人公に救いが無さすぎる。ありきたりなハッピーエンドを選ばなかったことで現実の厳しさがプラスされて物語全体のリアリティーを増しているのかもしれませんが、それでもやはり読後感が悪すぎる。同じ境遇で協力しあっていたジャニーンという女性が恋人と再会してラブラブハッピーエンドなのを見せられてしまうと、ウィリアムの視点になっている自分、なおさらツライ。
そして本作の謎自体もなー、暗号があるのはいいと思うのです。それがシュメール語の前段階的な言語であるのも、いまどきの超古代史観と辻褄も合うし、いいと思います。
手前のとこまではいいのですが、オチがいまひとつ。
暗号の正体がメッセージなのかプログラムなのか、私という読者には最後までよく分かりませんでした。
どうやら作者さんはプログラムとして扱っているようなのですが、それだと矛盾が多すぎないか? だってさー、人類だけに発現する内容ならそこに書いておけばいいかもしれませんが、災害や政治的事件まで操作することは不可能だし、そもそも操作できないなら、そこに書く理由がない。なので暗号はプログラムではなく、ただのシナリオ、またはメッセージとするほうが矛盾もなく理解しやすいのですが、そういう物語にはなっていないので、辻褄の合わない部分にとてもモヤモヤします。
そして「何者が暗号を作成したのか」という大前提について、明確な回答を出してみせる必要はないかもしれませんが、「存在するんだからいーじゃん」のようなウィリアムのセリフで終わらせるのは安易すぎないか。
本作の謎の決着にも、ややモヤモヤします。えっ、そんな結論?
言われてみると、確かに「アンドロメダ病原体」ぽい結末なのです。真似ていると言いたいわけでも、ウィルス物という類似性について語りたいわけでもなく、ああいう「解決しない解決」なのです。しかしこれ、本作の場合には「めでたしめでたし」とはちょっと思いにくい。ウィリアムは「解決できなくてもしょーがない、自分がやるべきことは他にある!(キリッ)」と駆け出して行くわけですが、ええー、私いままで人類の危機を救う話を読んでいたつもりだったのに、いつのまにか救えないしょーがない話になっていたよビックリ!!!
……というような、二つばかり文句を言うつもりが、気がつくと三つになっておりました。
文句ばかりたれていますが、ここ数年、すっかり物語を読む気力を失っていた自分が最後まで読まされてしまったほどの作品です。設定や構成だけでなく、文章の情報量の詰め込み方とか章の終わりの倒置法っぽいところとか、つねに細かなヒキがあり、読者を飽きさせない技量のある作家さんであると思われます。
ものすごくモヤモヤしますが、ものすごく面白かったです。