メトロポリタン美術館で開催されたヴァチカン至宝展。
テンプル騎士団の衣装をまとった四人の襲撃者が馬に乗って現れ、全てを破壊して宝物を持ち去った。
その場に居合わせた考古学者テスは、騎士のひとりの呟きを耳にしていたのだった。
「ウェーリタース・ウォース・リベーラビト……」
という、思いつめた呟きを。
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えー、ヴァチカンがらみの物語というと、「ダ・ヴィンチ・コード」を思い出される方もいるかと思われますが、
実際のところ、この「テンプル騎士団の古文書」については、コンセプトが同じ(キリスト教にまつわるナゾを追う、という)であるというだけの、先行作品とはまったく違う謎とテーマを扱った、類似作でもなんでもない! 作品でございます。
それも、あちらほど荒唐無稽な謎解き遊びではなく、かなり現実的な――
えーと、あまりネタバレするのも営業妨害ですので、一言で申し上げるなら
「イエスが聖者でなかったとしたら?」
というお話。
そしてそれだけでなく、
「だとしたら違う未来があったのではないか?」
という可能性に言及しているわけですね。
聖者でなかったら~の部分は、わたくしの日本人感覚で言うのなら、今さら驚くことも暴くほどのことでもないと思うのですが(キリストがただびとで何が悪いんだか、仏教徒な私にはさっぱりわからんちん……)、後者の「違う未来」については「それはスゴイ!」と唸ってしまいます。
この発想はスゴイ。
しかし……しかしですね、
類似作ではないと言いながら、あえて「ダ・ヴィンチ・コード」と比較させていただきますが、
現実的であっと驚く発想!(すごい)
息もつかせぬ冒険アクション!(危険がいっぱい)
という派手な見所があっても、尚ですね、読み物としての面白さは――本作のほうがかなり下回る、と思います。
あっちのほうが、小説として面白い。
何故だ。何故なんだ。
聖杯だのアナグラムだの無茶かましてるあっちのほうが、どうして読んでいて面白いのか。
「テンプル騎士団~」はこのまま映画化したら、ものすごくワクワクするドラマになりそうなのに、何故。
つまりアレだ、「小説として」、面白くないのです。
ここが不思議なところで、「ストーリーがつまらない」というのとは、これが少し違うところなのですよね。筋立てが悪いのではない、キャラクターの造形がまずいというのではない、つまり……
あのう、つまり……言いにくいのですが、つまり
小説家の実力の違い、つまり「こっちの作家さんのが物語るのがヘタである」というだけの話になってしまうのです。
そうすると、「では小説の面白さって何だ」という話になってしまうのですが、
これは実はとても細かなことの積み重ねであって、「ここが上手だから面白いのだ!」と一言で言い切れるような問題ではないのですよね……。
セリフのタイミング、言葉の選び方、出来事の起こる順番、どの位置ににどのような個性を持つキャラクターを配置するのかという選択などなどなど。
そうですね、ただ単に「へたくそ」で終わってしまっては申し訳ないので、本作のいまひとつな部分を挙げるとすれば、
キャラクターに魅力がない(設定はあるのですが、とくに活かされていない。ライリー捜査官は父親のことを克服できたのか? ヒロインのテスも野心以外の個性は語られていないし、犯人ヴァンスも敵対するキャラクターもあくまで物語のための脇役で、彼らなりの人生があるようには読めない、ので登場人物に感情移入してハラハラするということが出来ない)。
テーマの扱いが中途半端(「真実を明かさない」という選択が悪いわけではなく、要はその選択に説得力がないわけです。テスがさー、島の人々の優しくされたからくらいの理由で「やっぱりやめとくわ~」って、えええー、アンタあれだけライリーを裏切っておいて何を言うんじゃ!!)
うーむ。前者はさておき、後者はなー、こういう物議を醸しそうなテーマを選んでおきながら、ただの話題づくりかよ最終的には日和るのかよ!! みたいな気がしてしまうのですよねえ。
「この真実が明るみに出て、世界が変わる」ところまで書かなくては、このセンセーショナルなテーマを扱う意味などないと思うのですが。
そもそも中盤でヴァンスがネタバレしてしまっているわけで、その後の展開で新しい事実が判明するわけでもなく、我々読者は何のためにこの旅に付き合っていたのか……。
おっと、良いところも挙げておかねば!
えーと本筋とは離れたテンプル騎士団のエピソードが一番面白かったです(マルタンのほうが主人公たちより感情移入できる不思議……)。
あと、冒頭のメトロポリタン美術館の襲撃など、絵になる場面がたくさんある物語なので、映像化すると凄くカッコいいだろうなーと思うのです。
これは小説より映画で見たかったなあ……。