「カササギ殺人事件」アンソニー・ホロヴイッツ(山田蘭訳/創元推理文庫) | 水の中。

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いま手元にあるのは、世界中を魅了した名探偵アティカス・ピュントのシリーズ9作目。担当編集者であるわたし、スーザンはまずはこの週末に楽しんで読むことに決めた。まさかこの作品が、自分の人生の全てを変えることになるとは知らずに―

嫌われ者の作家アランの死、現実の人物を投影された物語のなかの犯人という二つの謎を追う、このミステリの結末は?

 

 

 

 

入れ子式ミステリ、作中作と現実パートのダブルフーダニット! 二十一世紀最高峰の傑作! と解説者の方が手ばなしで褒めているように、よくできた物語です。 プールサイドで読むには最高の一冊(二冊か)。

傑作というご意見にまったく異論はないですが、正直なところ私には両方とも犯人が分かってしまったので、謎解き要素はあまり楽しむ部分はありませんでした。しかしこの作中作がですね、古き良き時代の雰囲気を非常によく演出していて、とっても魅力的であったので、この部分だけですでに満点であると思います。面白かった。

 

なぜ読者である私に犯人が分かったのか? ということについては、現実パートは他に容疑者いないだろ(冒頭ですでにネタバレしていると思います)、作中作マグパイ・マーダーズについては、なんとなく。だってこれ本格的な推理って無理な情報量なので、なんかこいつ安全圏にいてうさんくさい! というだけの。

 

作者さんは女王陛下のアレックスシリーズの作者さんだそうなので、読み手によってはなつかしい作家さんだと思われます。ミステリを愛する作家が練り上げて書き上げた、きれいなチョコレートの一粒みたいな物語です。

 

しかしあれだな、物語ラストで、現代パート主人公スーザンの、とある決断が世間に批判されたという描写があるのですが、あーありそうありそう! と非常に感心しました。いやスーザンは何にも悪くないんすよ。私だって同じ決断をしますよ。しかし世間のぼんやりした善意は、殺人という禁忌を超えてしまった人間のことを擁護したりする。こともある。

 

そういう人にはさー、分かりやすく、「人狼ゲーム」のBEAST SIDEを読ませたらいいんじゃねえかなと思います。

 

 

そしてこの作品で忘れてはならないのは、訳者さまの邦題アナグラムの超ウルトラCでしょうか。あまりに驚いて作中から目が覚めかけたほど。あれはすごいな、あそこを原文でやらないのはすげーわ……