「失われた図書館」A.M.ディーン(池田真紀子訳/集英社文庫) | 水の中。

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ミネソタ州カールトン大学の構内で史学科のアルノ・ホルムストランド教授が殺害された。新米教授エミリーにとって憧れの世界的権威であるものの、個人的な交流は全く無かった人物。
「親愛なるエミリー きみがこの手紙を読んでいるいま、私はすでにこの世にいないだろう――」
ところが何故かその朝届いた手紙には、故人の切実な思いがつづられていたのだった。

 

 

失われた古代アレクサンドリア図書館がじつは失われていないもーん!という謎をめぐって世界中を駆け抜けるノンストップ冒険活劇。
解説の方も書いているように、確かにものすごくダ・ヴィンチ・コードを思い出させる本作ですが、ストーリーはもう少し堅実(トンデモ説とくになし)舞台選びがとてもよく(現在のアレクサンドリア図書館に行きたくなる。ドルマバフチェ宮殿も)、なんつーかしかしそう考えるとこの冒険譚は映画で観るのがいいんじゃないかと。このまま特に手を入れなくとも、まんま映画脚本になりそうな出来で、実際のところ読んでいて絶えずハリウッド映画的な映像が浮かんでくるほど。

ものすごくよく出来た物語なのですが、私が個人的に読書に求める楽しみとはやはり少々違うのだろうな、と思いました。
本作に物申すのはお門違いであるかと思いますが、私はやはり自分とは違う人生を追体験したいので、もう少し掘り下げてくれないとそこまで到達しないというか掘り下げなくても「おお!」と思わせる新理屈がほしいというか、そうでなくともこれが言いたいんだぜ! という強い思いとか。それってどのようなものなのかと言うと、えーと、物語にひそむあまり見つからない宝石みたいなものなのですよ。本作にはそれが見つからなかった。


あとエミリーがウェクスラー教授のところで出会うカイル、カイルの消え方が最初からいなかったみたいな扱いで物凄く気になりました。