「ラスト・チャイルド」ジョン・ハート(東野さやか訳/ハヤカワ文庫) | 水の中。

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双子の妹アリッサが一年前に誘拐され、父は家を出て行ってしまい、薬漬けの母と二人きりのジョニー。
しかし13歳の少年は、まだ諦めてはいなかった。
自力で捜索を続ける中で、偶然巻き込まれた殺人事件。死にかけた男の「あの子を見つけた」という言葉に、ジョニーは妹への手がかりを見出すのだが――


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なんとハヤカワ文庫40周年記念作品である本作。
孤独な戦いを続ける少年を主人公にすえた、大変よくできたサスペンス(ミステリとか書いてあるけど、謎解き要素ないじゃろ)なのですが、そして実際に評判も良さげであるのですが、なんでしょう、この私のモヤモヤした読後感……。
モヤる。すっごくモヤモヤする。
何故だろうと、考えてみたのですが……


この物語は三人称で、ジョニーと、そして刑事ハントの視点から語られているのですよね。
と考えて、気がつきました。
そうだそのせいだ、ハントのせいだわ!



何のことやら未読の方には分からないと思われますので説明いたしますと、ハント刑事という人物は、ジョニーの妹アリッサの誘拐事件を担当していたのですが、ついにアリッサを見つけることが出来なかったのですよね。
まあ、それは仕方のないことであります。
しかしこのハント刑事ったら、ジョニー母子(ジョニー母のキャサリン、すんごい美人設定。町中の男に憧れられているモテ女子なんすよ!)に入れ込むあまり、妻に去られ、残された息子ともうまくいっていない、という……。
周囲に「おまえジョニーのママに気があるんだろ? だから事件に入れ込んでんだろ?」と言われつづけ、「違う!!」みたいに否定していたのですが――



ぜんぜん違くねーじゃん。
気があるんじゃん。
なんだよ、ちゃっかりジョニー父の後がまにおさまっちゃってよ。
わたし公私混同とかって大キライー!!



↑という嫌悪感がわだかまり、さっぱり共感できなかった模様です。
ええ? そんなの私だけですか? 
あのー、人にはそれぞれの想いや状況や生き方があると思うのです。べつに離婚しようが不倫しようが、いいと思うのです。よくはないけど。
しかしですね、仕事に恋愛を持ち込むヤツだけは好かん! 好かんぜよ!!
ジョニー母に気がなくたって、いっしょうけんめいやれよ! とか思うのです。


ああ、いっそジョニー視点からのみ進行する物語か、あるいはまったくの俯瞰だったらなあ、こんなモヤモヤとは無縁で物語を楽しめたのかもしれません。
これはまあ、読み手である私の個人的な好みの問題であるので、半分言いがかりだと思って聞き流してください……。


(しかしハントのやつを応援したくなる読者っているの? 本当にいるの??)


それにしても巻末で解説の方が言っているところの、家族の問題うんたらいう感触はまったく感じられなかったなー。むしろ家族についてはジャックのところといい、薄っぺらい扱いだなーという気がしてならず……。

簡単に捨てたり諦めたり憎んだりできないのが家族という縛りだと思うのですが、悪役は徹底して悪役だけの役割を担っていたりして、悪意も善意もある人間が書かれている物語ではありませんでしたね。