「ハンターズ・ラン」ジョージ・R・R・マーティン, ガードナー・ドゾワ, ダニエル・エイブラハム | 水の中。

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探鉱師ラモンが目覚めると、そこは見知らぬ箱の中だった。
記憶にあるのは、酒場での喧嘩と、勢いあまっての殺人、そして街を出たこと――いったい自分に何が起きたのか?


ハンターズ・ラン (ハヤカワ文庫SF)/ジョージ・R・R・マーティン
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いかんタイトルに翻訳者さんが入りきらない……酒井昭伸訳でございます!



【激しくネタバレを含む感想となりますので、
お読みになる可能性のある方は、絶対に絶対に避けてくださいますようお願いします。】




えー、本作はSFではありますが、大自然でのマンハントが物語の大部分となりますので、オビの謳い文句に書かれているように「冒険小説」と呼ぶのが正しいかと思われます。
人狩り――ラモンが命じられたのは、「異種族から逃げ出した人間」を捕まえるための猟犬役(ホントにつながれている分、猟犬より待遇悪いけど)なのですが、この自分を連れまわしている「異星人」にいちいち「それはどういう意味だ?」と問いかけられるうちに、ヘンな話ですが、ある種の客観性を得ていくことになるのですね。


「自由とは何だ?」
「こんな腐れ肉ひもでつながれていない状態のことだ!」
「束縛のない状態のことか? そのような状態は成立しうるのか?」
自由なんてものはあるのか?
主人公ラモンは「いいや、成立はしない」と答えます。


どうして殺生をする?
どうして酒を飲む?
どうして笑う?


どうしようもないならず者であるラモンが、いつもであれば酒と喧嘩に終わるだけの日常を、少しずつ振り返り始めるのです。それこそが本作の読みどころ、ただの冒険譚ではなく、「自分というものを見つめ直す旅」なのですよね。
まあ、この悪態ばかりついているラモンという主人公、見つめ直したところで素直に反省するような殊勝な男ではないのですが、この後でイヤでも客観的にならざるを得ない状況に陥るのでございます。



なんで自分がこんな目に遭わなきゃいけない? なんでこうなったんだっけ? と記憶をたどっているうちに、あるべき傷が体に無いことに気付くのですよね。

自分はラモン・エスペポ本人ではなく、ラモンの千切れた指から造られた再生体、なんと追いかけている相手こそ本物のラモンでした! ガーン!! (すみません、つまりここがネタバレです……)



この自分VS自分というのは、すんごい面白い対決ですね~。
人というのは、真の意味で自分を客観的に見ることは出来ないものですが、いざこのように別の個体となって目の前に立ってしまえば、自分という人間てものが非常によく見えるわけで。


「なんでココで脅しなんか言うんだよ、バカだなコイツー」とか、
「でも根性はあるんだよなコイツ」とか、
ラモン再生体は、ラモン本体について思うわけです。



こういった物語で一番大切なのはテーマの結論、いわゆる落とし所であって、それが「ハア?」であれば、物語すべてが「ハア?」になりかねないところなのですが、本作の決着は見事ですね!
正しいかどうかという点ではなく、「こう思うんだよー」という主張ある結末となっていて、読み手としてはなかなか爽やかに旅を終えることができました。
かなりの傑作。
本作誕生の特殊事情(三人の作者による、しかもかなりの時間を隔てた共著)というところも、この「自分を見つめ直す」というテーマと奇妙に符合していて面白いですね。




でもなー、ぶっちゃけ自分とは対決したくないわ。
ていうか自分となんて絶対に絶対に! 出くわしたくないわー耐えられないわー!!
私のような自分スキーであっても、それはあくまでも自己保存の方便であって、実際に目の前に立たれたら好きになんかなれないっつの。
過去を思い出しただけでも死ぬほど情けなくなることがあるのに、今の自分と向き合うのなんてカンベンしてもらいたいわー……。ああこれが物語でよかった……。 ←いままでの感想台無し