「オルタード・カーボン」 リチャード・モーガン(田口俊樹訳・アスペクト) | 水の中。

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皮質スタック
によって個人データが保存され、肉体はスリーブと呼ばれる容器でしかなくなった時代。
罪人は肉体を取り上げられ、保管刑という長期間の眠りを与えられる。

コヴァッチは刑期を117年残して、保管区から地球へと召還された。
保釈金を払い、彼に見知らぬスリーブを与えた人間の名は、ローレンス・バンクロフト。
地球の富豪であるバンクロフトは、六週間前に「自分を殺した」犯人を見つけ出せという――






まだ今期は途中ですが、個人的には、すでに2005年ナンバーワンをあげたいくらい楽しませてもらいました!
非常に面白いSFであり、よくできたハードボイルド。

ALTERED CARBON (オルタード・カーボン)とは、つまり「変身コピー」 。
作中の27世紀では、スタックさえ残っていて、料金を払えるのなら、いくらでも生き返ることが可能なわけなのですが、かと言って「死」というものが無くなったわけではないのです。
この世界にはこの世界の「死=スタックの破壊」があり、実体験を上回るヴァーチャルでの「拷問」さえ存在するわけで。
人はこの世界でも相変わらず、殺したり殺されたり、痛めつけたり痛めつけられたりしているのです。
現実の延長線上に緻密に構築された世界と、設定を生かしきったストーリーに拍手したい。

そして、主人公のコヴァッチがまた、凄くかっこいいのです。

「ハードボイルドにおけるかっこよさ」というのは、実はとても難しいのですよね……。
どういうことかというと、かっこつけすぎると、かっこわるいわけなのですよ。
過剰にニヒルでもカッコ悪いし、やけにメソメソ感傷的でもカッコ悪い。
かと言って、あまりに無機質でも、共感できない。
書き手に客観性とバランス感覚がないかぎり、この匙かげんが、本当に難しいと思います。

その点で言うと、この主人公コヴァッチ(名前がタケシなのがどうしても笑ってしまうんですが……なんか他のファーストネームは無かったのか……いやツヨシよりはマシ?)は、非常に成功していますね。
私は最後まで「がんばれー!」と応援しながら読んでしまったほど。


メインとなるストーリーとは別に、私がいちばんビックリしたのは、終盤で主人公が……
主人公が交代してしまうのですよ。

いえ、読者にとっては交代していないのですが、彼自身にとっては……ムニャムニャ(ネタバレするのでやめておきます)。
そのあたり、実にあっさり演出されているので、気にならない方もいるかもしれませんが、私はものすごく衝撃を受けました。
この彼は、あの彼ではなくて、あっちが今までの彼なんだー!うわーん!
というカンジです(わかんねえよ……)。

というわけで、私をとても楽しませてくれた本作。
驚いたことに作者の処女作にあたるそうなのですが、二作目も完成しているとかで、非常に楽しみ。
難を言えば、これ、箱入り上下巻¥2800という形式が、ものすごく買いにくいのですが。

どうにかなりませんか。いや、かっこいいですけど。


(評価★★★★★)