逆転する夏 | 水の中。

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何度か書いたように記憶しておりますが、うちの犬(実家に置き去り)は、私が育てた私の子分なのですが、これがとても気難しいのです。
ヤツがキライなものは、たくさんあります。
猫(←庭を通りかかる猫がどうしても許せないらしい)とか虫(←飛び回るハエを発見し、大騒ぎに!)とかは、まあいいとして、人間の好き嫌いが激しいのが困りものです。
その中で一番きらわれているのが、私の相方だったりするのですが……


「飼主さんの好きな人がキライなんじゃないの?」
と、言ったのは、幼なじみのYさんですが、いや、よその犬はともかくウチのあの犬に、そんな複雑な精神世界があるわけがない。


ところで、嫌われている人ナンバーワンである彼は、驚いたことに、まだ地味に歩み寄りを続けているのです。
そして、そんな彼らの関係に、ここへ来て、ある進展が!


「おいで~」
彼が犬用ジャーキーを手に、薄気味わるい猫なで声を出しています。
「ウウ……」
唸りながらもジャーキーに魅かれ、ヤツが駆け寄って来ます。

そこでなんと!

お手・おかわり・伏せと矢継ぎばやにワンセットの芸をこなし――
「ワン!」
と一声鳴くヤツの姿が!

「おおッ……」
われわれ家族がどよめきました。
あの飼い犬が、気難しい小生意気なあの犬が、他人に芸をするなんて!


ところがです。
もらったジャーキーを食べ終わると、再び、
お手・おかわり・伏せ、そして。
「ワン!!」

求められてもいないのに、勝手に手を出し、勝手に伏せをし、勝手に起き上がり、仕上げに
「ワン!(よこせ!)」と要求。
これを自主的に5回ほど繰り返し……。

「おれは……」
彼が呟きました。
「おれはもしかして、 お 手 を さ せ ら れ て いるんじゃないか……?」

どうやら彼らは、違う意味で歩み寄った様子です。