「マイノリティ・リポート」フィリップ・K・ディック(浅倉久志訳・ハヤカワ文庫) | 水の中。

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予知システムにより、犯罪の完全な予防が可能となった時代。
警察長官アンダートンは、予知システムから吐き出されたカードに愕然とする。
そこにはアンダートン自身の名と、見知らぬ被害者の名前があった。

彼は24時間後に、本当に殺人を犯すのか?

                                        
トム・クルーズ主演によって映画化された記憶がまだ新しい、この作品。

この犯罪予防システムは、プレコグニション(予知能力)を持つ、三人のプレコグたちの予知によって支えられていて、実際に犯罪を犯す前に逮捕してしまうという、少々ランボーなもの。
つまり、逮捕される時点では、誰もがまだ犯罪者ではないのです。

そのあたりの倫理的な問題を、主人公アンダートンは犯罪防止のためであると割り切って考えていたわけなのですが、では実際に自分が追われる身となったら、どうなのか。

真相を追ううちに、予知として公開される「多数派報告(マジョリティ・リポート)」に対して、一致せずに捨てられる「少数報告(マイノリティ・リポート)」の存在が明らかになっていきます。

ここで小説のストーリーは、犯罪予防局と軍の対立という、組織的な陰謀劇へと姿を変えていくわけですが、映画版「マイノリティ・リポート」の良いところは、あくまでそれを個人の問題として扱っているところ。

映画版の主人公は、誘拐により息子を失ったという要素が与えられ、復讐を果たすことを選ぶのか、そうでないのか、という選択を迫られるのです。

私が好きなのは、この映画版「マイノリティ・リポート」なのですが、「少数報告」という非常に魅力的な要素について、小説版・映画版ともに、あまり掘り下げていないところが残念。

存在したかもしれない、もうひとつの未来というもの。

この物語で一番、面白いところではないかと思うのですが……。むむ。
だれか書いてくれないかな。いや、それはパクリか。

ディックの作品が映画化される理由が分かります。
すごーく、そそられる設定なのですよね。

(評価★★★)