「無限の境界」ロイス・マクマスター・ビジョルド(小木曽絢子訳・創元SF文庫) | 水の中。

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「戦士志願」に始まる、マイルズを主人公としたスペース・オペラ。
そのシリーズの中篇三篇を一冊に仕上げた冒険譚です。


本当は最新刊「遺伝子の使命」(原題の『アトスのイーサン』の方が合ってますよねコレ)を紹介したいところなのですが、シリーズの本筋とはあまり関係ない物語なので、マイルズ主役である、こちらを紹介。


著者: ロイス・マクマスター ビジョルド, Lois McMaster Bujold, 小木曽 絢子
タイトル: 無限の境界



これがそもそもどういうシリーズかというと、バラヤーという陰謀うずまく惑星に摂政の息子として生まれたマイルズが、口先とパワーだけで乗っ取った傭兵部隊を引き連れて提督を名乗り、あっちこっちで問題を起こしたり人助けをしたり誘拐されたり死にかけたり……(息切れ)する物語。

こう書くと陽気な冒険物のようですが、母親のお腹にいるうちに陰謀によってハンデを背負わされたマイルズが、バラヤーという封建社会のしがらみと闘いつつ、自分を獲得していく物語でもあります。

私は、この我の強い、せかせかしたマイルズというキャラクターが決して好きではないのですが、彼の諦めないしぶとさには、いつもいつも感心させられ、いつのまにか応援してしまっています。顔だけが取り柄と言われながら、いつもマイルズにいいように使われている、イトコのイワンの気持が、ちょっぴり分かるような……。

稀代のストーリーテラーであるビジョルドは、長編がとても上手。複雑な糸の絡み合った物語を、怒涛の展開でクライマックスへ持っていくのですが、本書の三つの物語を読んでみると、中篇もピシリと決まっていて、気持がいいです。

本書の中では、バラヤーの因習のこる山間へマイルズが父親の代理として殺人事件の調査に出向く「喪の山」が印象的。悩みぬいて犯人に与える罰が、とてもとても、彼らしい。

バラヤーは非常にややこしい社会なのですが、ネイスミス提督という別の名を持ちながらも、そういった自分のしがらみや出自を決して捨てることのできないマイルズだからこそ、読者に愛されているのではないかなと思います。

シリーズ既刊は、すべてお薦め。SF好き以外の方もどうぞ。

(評価★★★★★)