「霊峰の血・上下」エリオット・パティスン(三川基好訳・ハヤカワ文庫) | 水の中。

水の中。

海外小説のレビューと、創作を。

政治犯としてチベットの強制労働収容所へ送られた、北京の元エリート捜査官・単道雲(シャン・タオユン)、ひたすら死を願っていた彼が、ラマ僧に救われ、別の生き方へ目覚めていく……という、書いてるだけで気が重くなるような、チベットと中国の現実を背景にしたミステリー。

シリーズ第三作目にあたる本作ですが、一作目の「頭蓋骨のマントラ」を読んだとき、「これはどこの世界の話……?」と、衝撃を受けた記憶があります。

こんな政治的にややこしい題材を、ミステリーに仕立てる、いえ、そもそもこれを扱おうと思うこと自体が、まず凄いです。
ドラマとして私が好きなのは、二作目の「シルクロードの鬼神」なのですが、ここ三作目にきて初めて「よ、読むのに疲れた……」と挫折しかけました。
ラストあたりの大量死にも、がっくりきました。ああ。

物語としては、半分で書ける話だろうと思うのですが、この淡々とした描写にあらわされる、大地と空気、すぐに起承転結で終わることのない現実、というものを実感させるために、この長さが必要なのかもしれません。

作者がこのシリーズにどのような結末を用意しているのか、気になります。
三作目までたどりつかなくてもいいので、ぜひ一読を。

(評価★★★)