どうもこんばんは。
うっかり、ブログのほうでインタビュー記事の3回目をアップするのを失念していました。
全日本社会人囲碁協会のHP
には7月20日頃に更新していたのですが・・・とは言い訳ですね。
更新をお待ちいただいていた方は申し訳ありませんでした。
先日、33歳になりました。
精神年齢は14歳頃からあまり変わってないのですが、もういい歳だ~~。
今年は、AlphaGo流三々を駆使してみようと思います。33だけに。
たまに「私の履歴書を更新しないんですか?」と言われます。
久しぶりに見返してみると、なるほどコンパクトにまとめられていてなかなか読みやすいじゃないか。
よーし、更新再開するか~。
そんなわけで、インタビュー記事第3回目です。
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囲碁の未来サミット ~予想されていた結果、想像内の強さ~
村上:やっと最近の話に追いつきました。2017年5月に中国の烏鎮で行われた囲碁の未来サミットについては、やはり「AlphaGo」が強さを見せましたね。第1局目では柯潔九段が序盤で工夫を凝らして目を惹きましたが、内容についてはどう見ていましたか。
一力:「Master」のが年末年始に打った60局中2局に三々入りの手法が出てきましたが、それ以降に柯潔九段は人間相手の対局でもたびたび三々入りを試みていました。「Master」の碁だけを見て、この手法に固執することはちょっと考えにくいと思います。しかし、囲碁の未来サミット後に公開された「AlphaGo」同士の棋譜50局には非常に多く見られました。したがって、柯潔九段は事前に「AlphaGo」同士の自己対戦の棋譜を見ており、第1局目で「AlphaGo」を相手に打ってみた(図1)のではないか、と想像しています。
図1
目を惹く柯潔九段の三々入り。
今後、人間の対局にも市民権を得られるだろうか。
村上:そう考えると、柯潔九段は「AlphaGo」の打ち方をあえて踏襲したと言えそうですね。もし、一力七段が「AlphaGo」と対決をするとなったら、どのように戦いたいでしょうか。
一力:難しい質問ですね・・・相手の真似をしていても勝てませんが、あえて相手の土俵に上がった気持ちもわからなくはないです。でも、実際にその立場になってみないと想像し難いですね。
村上:この後も見どころはありましたが、序盤の折衝で「AlphaGo」がポイントを挙げてからは、わりとサラサラと流れるように終局に向かったような感じを受けました。
一力:そうですね、左上の折衝で白の「AlphaGo」が得をしたでしょう。5月下旬に国際戦のLG杯があり、趙治勲先生が同行されていたので、よく話をしましたが、図2の白1~3の打ち方を大絶賛されていました。実戦のように、もともと打ち込んだ石を捨てても、フリカワリで隅の地を得れば良い、という判断はとても明るいですね。
図2
下方の白2子(△)を軽く見て、上方へ転身。
白3で人間ならばAやBのオサエを考えそうな所だが、上辺を制限すれば十分と見ているようだ。
一力:ただ、正直に言うと1局目を見た時は意外にも「Master」の頃からさほど変わっていないという印象を受けました。「Master」よりもさらに進化しているのではと思っていたので・・・。
村上:2局目は中盤まで非常に競っていて、「AlphaGo」の評価値もかなりイーブンに近かったという話だったようです。
一力:確かに下辺からの戦いは難解な碁でした。治勲先生が大いに怒っていたのが、下辺の戦いが始まる前の柯潔九段の打ち方です。実戦は図3の白1~3と打ったのですが、この局面では左辺に打つべきではないというのです。その前に黒が左上の△の場所にハネて左辺を軽く見ているので、白も左辺からは離れるべきということです。もし、左辺の白1子を取りに来ても、今度は逆に□の切りが大きな手になりますから、左辺はそれほど巨大な黒地にはなりません。
図3
当然のように見えた左辺の動き出し。
実際には、AlphaGoは価値が小さいと見た場所を打った「ソッポ」を向いてしまった手だったのか。
一力:図4の白1と下辺をコスめば白が有望だったのではという話になりました。下辺の黒1子を大きく飲み込む気配を見せながら、次にAの場所の打ち込みが懐をえぐる急所を狙います。これなら黒も次の打ち方が悩ましく、「AlphaGo」がどう打つつもりだったのかを聞いてみたいですね。
図4
主戦場は左辺ではなく下辺だった。
攻防を兼ねたコスミにAlphaGoの構想は。
村上:2局目が終わった後に、3局目の手番について柯潔九段が白番を要望しました。どうやら、「AlphaGo」に限らず囲碁AIはコミ6目半でも、評価値を見る限り若干白が有利だと判断しているようですが、本シリーズはコミ7目半ですから、柯潔九段も白番の方が良い勝負になると考えたのかもしれませんね。
一力:第3局でも「AlphaGo」らしい判断の明るさというものは感じました。図5の白△と打った場面で、黒1と右下を打ったのは意表を突かれ、さらに白2,4と右辺を連打させて□の黒2子を捨てたのは想像の外でした。私であれば、黒1の時に右辺をどのように受けるかを考えている所です。しかし、黒5と下辺の白を攻める姿勢を見せた時に白6と打った手が打ち過ぎで、Aのあたりに足早に逃げだしていれば、白も相当の碁だったと思うのですが。
図5
AIには恐怖も執着もないらしい。
惜しげもなく黒石を捨て、大場に打つ。
それでも良い勝負になるようだ。
3局目の終盤、対局中に柯潔九段は涙を見せる。
人間の尊厳をかけた勝負という一面があったことも事実だろう。
胸中は計り知れない。
一力:李世ドル九段戦や「Master」の衝撃に比べると、結果自体は予想できていたので、それほどの衝撃はありませんでした。また、非常に強いとはいえ、内容も想像できる範囲内だったので、今回のイベントは自分としては特段の契機という捉え方はしていません。
人間同士の戦い
村上:さて、やっとこの1年半ほどを振り返ることができました。これからは今後の棋士の在り方や、AIとどのように付き合っていくか、という観点でお話をお聞きしたいと思います。
一力:いわゆる2045年問題(シンギュラリティ)という話は以前から聞いていましたが、すでに囲碁では人間を超えたという事実がある以上、他の分野・職業でも遠からずAIが人間を超えてくる状況は当然考えられますし、想像よりも早い可能性ももちろんあるでしょうね。AIに仕事を奪われるという発想ではなくて、どう活用するかという発想がこれから重要になると思います。今まで人間だとできなかったところを代替してくれる部分もありますし、あまり悲観しない方がいいのかなと。棋士について言えば、仕事がなくなるということはないと思っていて、人間同士で打つことに意味があると思っています。将棋もAIに勝てなくなっている状況は囲碁と同じですが、藤井聡太四段が出てきてすごいブームになっていることを見ると、やはり人間同士の戦いは人を惹きつけることができると感じています。
村上:人間同士の碁を見せるということですが、個人的に気になることがありまして・・・。私もアマの大会等で碁を打ちますが、やはりその瞬間は「勝ちたい」ということに集中しています。もちろん、プロはアマの比ではなく勝負に集中しているものと思いますが、それゆえに「ファンに見てもらう」という感覚というのがどのくらいあるのかなと思っています。棋譜には解説が、そして対局中の写真やエピソードを観戦記者の方などが書いて、ファンの方はそれらを受け取っている。そう考えた時に、棋士がよりファンの皆さんに能動的に「魅せる」にはどうすれば良いと思いますか。
一力:やはり将棋界が良いモデルケースとしてあります。テレビ中継、ネット配信を精力的に行っていますし、棋士がたくさんメディアに出て普及活動をし、その結果「観る将」と言われるファンを獲得しました。囲碁棋士もそういった活動をしていく必要があると思います。
村上:確かに、棋士が生み出す価値の1つである棋譜はとても良い素材だと思うのですが、そのまま調理せずにファンに提供しても、素材の味だけで味わうことができるのは棋力が相当高い一握りのファンだけとも思えますね。
一力:はい、棋士も含めて、囲碁をどのように調理してファンの皆さんに提供するか、さらには既存のファンだけでなく、囲碁を知らない人にどのように認知してもらうかということを考えるのが本来的に大事だとも思います。将棋は叡王戦という大型棋戦が新設されました。今までは新聞社がスポンサーになるというのが常識だった中で、ニコニコ動画を運営している株式会社ドワンゴがスポンサーとなる棋戦ができたということは、やはり社会的に認知されているということでしょう。囲碁もなんらかのアクションを起こして囲碁ファンの獲得を目指したいと思うのですが、実際にどう行動に移せばよいのか、というと悩ましいです。
村上:インタビュー冒頭(1回目更新)でもお聞きしましたが、早稲田大学に進学して多様性を学ぶことは、囲碁の普及活動に活かしていくことにつながるわけですね。
一力:はい、ただ碁を打つだけではなくて、発信する側としての活動も鍛えるという意味があります。棋士は特殊な職業なので、上の世代の方との交流が多くなる一方で、学校に行かないと同世代の人たちがどういうことを感じて、何をしているのかを知る機会が比較的少ないです。なので、私は世間一般の感覚を取り入れるようなイメージで囲碁以外のことに取り組んでいますね。
人間:一力遼
村上:そろそろ最後の質問です。一力七段がこれから成長する方向性を教えてください。
一力:まずは棋士として国内外の棋戦で活躍することが第一です。しかし、長期的に見るとそれだけでは囲碁界全体で考えた時に不十分だと思っており、特に囲碁を知らない人たちにどう認知してもらうか、あるいはファンの皆さんに棋士が生んだ棋譜をどのように伝えるか、という活動も、プレイヤーとして活躍することと同じくらい大切なことだと考えています。繰り返しになりますが、マルチプレイヤーになりたいという思いはあり、現在もこういった取材や解説等の仕事をご依頼いただいた場合はできるだけ引き受けています。自分なりにわかりやすく表現しているつもりであり、いろんな状況に対応できるように勉強したいです。囲碁は世間的にはとっつきにくいというイメージがあると思います。敷居を下げるにはどうすれば良いのか、ずっと昔からの難しい課題ですが、工夫のしどころですね。
(了)
一力七段にインタビューの機会を得て、筆者は今後の囲碁界を牽引するだろう棋士がどのような意識でAIを捉え、未来を迎えようとしているのかを聞きたいと考えた。「AlphaGo」が公に姿を現してからたったの1年半で人を超え、急激な環境の変化に対応できる人間はあまり多くないだろう。しかし、一力七段は自分の価値観をたしかに持ち、これからの生き方を模索する姿を見せた。筆者なりの考えでは、AIの奔流に最も早く巻き込まれた囲碁界が、AIと共存し、時代に適応する姿を見せることは必要なことであり、かつ、囲碁の魅力を底上げすることにつながると思う。「AlphaGO」から垣間見えるシンギュラリティを人間がどのように迎えるか、一人の青年の成長を見届けることで何かが見えてくるのかもしれない。