次の日から私は、早速少しでも近付けるよう試みました。
いろんなものを買っては近付こうと思いましたが、どれにも反応はありませんでした。目の前でちらつかせてみたり。食べ物から花、料理したもの、服や靴、ブローチなど。しかし、どれにも興味を示してはくれませんでした。
そんなある日、途方にくれていたときに、無意識に童謡を口ずさんでいました。
すると、
「あんた!」
怒鳴るような口調で、老婆がこちらを向いて言いました。
「は、はい。」
私は、一瞬で体がこわばり、緊張状態になりました。
「まずい、唄は逆効果だったか。」
こころの中で、そう呟きました。
が、
老婆「続けな。」
私「は、はい?」
老婆「いいから続けな。」
私「は、はい。」
私は突然のことで、何処まで唄っていたのか思い出せず、最初から唄いました。
それから一週間、唄っていると老婆に呼ばれました。
老婆「ここに座り。」
私「えっ?いいんですか。」
老婆「いいから、お座り。」
私「し、失礼します。」
老婆「あんた、歳はいくつだい?」
私「じゅ、18です。」
老婆「童謡は何処で覚えたんだい?」
私「あ、あの、私、ここの生まれじゃないんです。東北の方で、小学生までいまして。それで、学校でよく唄ってまして。」
老婆「………。私にもな、本当は女の子がいたんじゃ。」
と、老婆が語りはじめました。
老婆「今生きていたら、どうなってたんだろうな。」
私「………。」
老婆「ごめんな。昔、娘がいたんだけど、戦争で亡くしてな。」
私は、「あっ」と思いました。近所のおばさんが
「あの人、戦時中に誰か亡くなったのかもしれないね。」
と、言っていたのを思い出しました。
老婆「あんたが童謡唄ってるのを聴いて、生きていたらあんたくらいの歳になると、どんなだったろうかて、あんたと重ね合わせてたよ。…………。ごめんな、こんな話して。」
私「あっ、いえ。」
私は胸が切なくなり、どうしていいか分かりませんでした。でも、明日も明後日も唄うことがいいんだと、思っていました。
次の日、何時ものように公園で待っていました。
しかし、時間になっても来ません。
「あれ?おかしいな。いつも時間通りなのに。」
と、こころの中で呟きました。
しかし、その日は来ませんでした。
次の日も待っていましたが、時間になっても来ません。
偶然通りかかった近所のおばさんが、私にあることを教えてくれました。
それを聞いて、私は動揺を隠せませんでした。
※この物語はフィクションです。登場人物は架空であり、出来事は実際とは関係ありません。