妄想劇場 ~ベンチ③~ | 気まぐれバードのキマグレコ

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何でも綴りたいことを綴っています。

次の日から私は、早速少しでも近付けるよう試みました。


いろんなものを買っては近付こうと思いましたが、どれにも反応はありませんでした。目の前でちらつかせてみたり。食べ物から花、料理したもの、服や靴、ブローチなど。しかし、どれにも興味を示してはくれませんでした。


そんなある日、途方にくれていたときに、無意識に童謡を口ずさんでいました。

すると、


「あんた!」


怒鳴るような口調で、老婆がこちらを向いて言いました。


「は、はい。」


私は、一瞬で体がこわばり、緊張状態になりました。

「まずい、唄は逆効果だったか。」


こころの中で、そう呟きました。


が、


老婆「続けな。」


私「は、はい?」


老婆「いいから続けな。」

私「は、はい。」


私は突然のことで、何処まで唄っていたのか思い出せず、最初から唄いました。




それから一週間、唄っていると老婆に呼ばれました。

老婆「ここに座り。」


私「えっ?いいんですか。」


老婆「いいから、お座り。」


私「し、失礼します。」


老婆「あんた、歳はいくつだい?」


私「じゅ、18です。」


老婆「童謡は何処で覚えたんだい?」


私「あ、あの、私、ここの生まれじゃないんです。東北の方で、小学生までいまして。それで、学校でよく唄ってまして。」


老婆「………。私にもな、本当は女の子がいたんじゃ。」


と、老婆が語りはじめました。


老婆「今生きていたら、どうなってたんだろうな。」

私「………。」


老婆「ごめんな。昔、娘がいたんだけど、戦争で亡くしてな。」




私は、「あっ」と思いました。近所のおばさんが
「あの人、戦時中に誰か亡くなったのかもしれないね。」
と、言っていたのを思い出しました。




老婆「あんたが童謡唄ってるのを聴いて、生きていたらあんたくらいの歳になると、どんなだったろうかて、あんたと重ね合わせてたよ。…………。ごめんな、こんな話して。」


私「あっ、いえ。」


私は胸が切なくなり、どうしていいか分かりませんでした。でも、明日も明後日も唄うことがいいんだと、思っていました。


次の日、何時ものように公園で待っていました。


しかし、時間になっても来ません。


「あれ?おかしいな。いつも時間通りなのに。」
と、こころの中で呟きました。


しかし、その日は来ませんでした。


次の日も待っていましたが、時間になっても来ません。


偶然通りかかった近所のおばさんが、私にあることを教えてくれました。


それを聞いて、私は動揺を隠せませんでした。








※この物語はフィクションです。登場人物は架空であり、出来事は実際とは関係ありません。