父の体調が急変し、緊急入院したのは2日前の木曜日。
経緯としては、外来でCT造影検査を行った父が体調不良を訴え、主治医からの入院提案を受け入れたそうです。
主治医が診てくれることに安心したのか、その後母から届いた状況報告メールには「 入院してパパは少しばかり元気を取り戻した様子なので、心配しないで。 」と書かれていましたが・・・
昨晩、母から電話が掛かって来ました。
母は淡々と話をしてくれましたが、その内容はとても衝撃的なことばかりでした。
告げられた内容は、次の通り。
***
・ 今朝( 金曜日 )、病院から母に電話があり、主治医から話があるとのことで、父には内緒で話を聞きに行った。
・ 主治医の説明によると、木曜日に受けたCT造影検査結果を見る限り、首元の腫瘍増大が著しく、気管や食道を相当圧迫している状態。( なので、父がまともに食事をすることが出来なくなった )
・ 今まで投与してきたタキソテールが首元の腫瘍に対して全く効いていないことは明らかなので、主治医の判断として、以降の抗がん剤治療は行わないことになった。
また、腫瘍の切除手術も不可、ステント等で気管や食道を広げることも不可、もはや増大し続ける腫瘍に対する有効な手立てはないとのこと。
( 気管切開等も行えない? )
・ そのため、腫瘍増大によりいずれは完全に気管が潰され、呼吸困難に陥り、窒息死に至る状況。
それがいつになるかは腫瘍増大スピードに拠るため、それは明日起こり得ることかも知れない・・・
・ 現時点で相当気管が狭まっている状態のため、淡が絡んだだけでも窒息死する可能性が高い。
・ 父が可能な限り苦しまないよう、呼吸困難を訴えた時点で薬で意識を朦朧とさせ、可能な限り苦しまずに最期を迎えられるよう尽力すると、主治医に言って貰えた。
・ とりあえず来週父は一旦退院し、自宅で過ごせるよう配慮をして貰えることになった。
・ 以前はホスピスへの転院を考えていたが、母としては最期まで大学病院の主治医のもとで父を診て貰うことがベストだと考えていること。( 父が主治医に信頼を寄せているだけに、私も同意 )
・ 想定される死因が原発食道癌の再発や転移による臓器機能低下ではなく、気管圧迫による窒息死になろうとは全く想定していなかったため、今後も父にはこの事実を告げず、少しでも安らかに最期を過ごせるように家族として接していきたい。
・ あなた(私のこと)は現在妊娠9か月後半、出産後も当分身動きが取れない身であるし、父の最期を看取ることも、お葬式に出席することも出来ないと思うが、そのことは気にしなくて良い。
とにかく、父が心から願っていた第一子を無事に出産することがあなたにとって一番大事なことなので、出産に向けて専念して欲しい。
***
父が癌そのものに侵されて亡くなるのではなく、窒息死によって死に至らされるという、想定外かつ衝撃的なな予後。
しかしながら、1年生存率10%以下の病を患いながら2年近く自立した生活を送れていたこと自体が奇跡なのだし、だからこそ遅かれ早かれこういう日が来るとは覚悟してきたことだったせいか、母の話を淡々と聞くことの出来る自分がいました。
そんな自分は、なんと薄情な娘なのかと感じるくらいに。
でも、電話の後半にお腹の中の胎動を感じはじめたら、" 誰よりも私の妊娠を待ち望んでくれていた父が、この子を抱き上げてくれることは無いかも知れない "という現実が押し寄せてきて・・・
電話を切ったあと、その場にいた夫に父の状況を告げながら、涙が止まらなくなりました。
話を聞きながら夫は、まだ父に対して施す手段はあるのではないかと少し思った様ですが、やはり父の寿命は長くないと感じたようで、「 実家に帰りたいでしょ? 」と、私の気持ちを探るような問いかけ。
けど私はつい先月帰省したばかり。
それもいよいよ臨月を迎えようとしているのに、今また急に1200キロ以上も離れた実家に駆けつければ、繊細な父が「 何かおかしい 」と感じ、私に合える喜びよりも、自分の置かれた状況を悟ってしまう可能性は低くありません。
それでは本末転倒だし、出産を控えた今の時期に、飛行機の距離を帰省することにも不安が無いとは言えない。。。
その考えを告げた上で、「 先月帰省した際にも、これが最後になるかもと覚悟していたし、今の私が一番優先すべきことは、無事に出産することだと思ってる。 」と、冷静に返しました。
すると夫は、
「 僕がお義父さんと会っておきたいな。
それに、会いたいなら、自分が会いたい気持ちを優先するべきだよ。
幸いなことに、来週金曜日の午後は仕事を休める状況で、来週末は土日とも宅直も無いから、僕も行こうと思えば行けるから。
帰省の理由は、僕の学会ついでに立ち寄ったとか、退職前にお世話になった方への挨拶ついでに立ち寄ったとか言えば良いんじゃない?
( 医者である )僕が一緒なら、君も安心でしょ。 」
と。
そんな夫の優しい一押しを受け、正直、自分の思案に薄情さを感じずにはいられなかった一方、夫が与えてくれた深い思いやりに、胸をいっぱいにせずにはいられませんでした。
そして、普段は平日に休みを取れることなどほぼ皆無な上、土日共にフリーになることも珍しい夫が、偶然にも一緒に帰省できるような状況であることは、神様から授けて頂いた最後の奇跡なのかも知れないと考えたら、気持ちは一気に帰省する方向に固まりました。
そして1時間後には、羽田往復の飛行機を予約完了。
来週末は妊娠35週目、妊婦がギリギリ、国内線の飛行機に搭乗することの出来るタイムリミットです。
直前予約すぎて往路は夫と別々のフライト、帰路は早めに大分に戻るフライトになってしまいましたが・・・
月曜日に予定している妊婦検診で主治医に話をし、そこでNGが出なければ、大きなお腹を抱えて父に会いにいくことになります。
悲しい現実の中に生まれた、温かい奇跡。
父に笑顔を、届けられますように。