特別対談:「弘徽殿大后 vs 藤原詮子」編 | 前世はきっと平安貴族

前世はきっと平安貴族

歴史大好き!とりわけ平安時代をこよなく愛する私です。
こんなに惹かれる理由はきっと前世で生きていたからにちがいない。
源氏物語ネタをメインに、色々思っている事を書いてゆきます。あらすじとか一切書かずに自分の思いだけを強引に綴ってゆきますので悪しからず〜。

ここは、とある秘密の場所。

 

何やら身分の高そうな女人が2人

衣擦れの音とともに

ご登場なさいました。

 

どうやらおひとりは弘徽殿大后様、

そしてもう一方は何と!藤原詮子様

のようですね。

 

ここは「源氏物語トークの部屋」

なのですが、物語の登場人物でない

実在の人物がお越しになるのは

前代未聞のことでございます。

 

さあこのお2人は一体何をお話しに

なるのでしょうか?

 

何だかドキドキして参りました・・・。

 

=================

 

【弘徽殿】

あなたが詮子様とか申すお方?

(ジロジロ目

 

【詮子】

そういうあなたこそあの

弘徽殿大后様ですわよね?

 

【弘徽殿】

何だか引っかかる物言いだけど

まぁいいわ。

そうよ私が世にも有名な弘徽殿大后よ。

 

【詮子】

お綺麗な衣装ですわね。

素晴らしくお似合いですことよ。

 

よろしいなぁ~。

(そんなんうちはよう着ませんわ~)

 

【弘徽殿】

ちょっと!

あのねぇ、私もあなたと同じ

生粋の京女だからどんだけ嫌味

言われているか秒で分かるのよ!

 

これから先はいやらしいオブラートに

包むのはやめて本音で言って頂戴。

 

【詮子】

よくってよ。おお怖(こわ)

 

それでは言わせていただきますけど

今日私が何故ここに来たかというと

「弘徽殿大后のモデルは藤原詮子だ」

という噂を耳にしたからなのよ。

 

【弘徽殿】

ええ~?それじゃあこのわたくしは

あなたの二番煎じという事?

まさか・・・そんな

 

【詮子】

私だって嫌よ!

あなたのようなキツイ性格の女の

モデルが私だなんてまっぴら御免だわ。

 

【弘徽殿】

あら、性格のキツさではあなたの方が

まさっているかと思いますけどね!

あなたが息子の一条帝の寝所に

押しかけて直談判した事は知れ渡って

おりますわよ?

 

母親の言う事を素直に聞かないなんて

子育てに失敗なさったのね、お気の毒。

 

【詮子】

ご冗談でしょ。

あなたの方こそ桐壺更衣を

イジめ殺した鬼のような女だと

言われておりますのをご存知?

 

そしてその後も執拗に源氏の君を

失脚させようと企んだり、本当に

執念深くて怖いお人ね。

 

あ、うちの息子はいい子よ!

あなたの息子こそ母親に逆らえない

気弱なマザコン男に育てられちゃって

可哀想ったらありゃしない。

 

【弘徽殿】

息子のことを悪く言わないで頂戴!

私はあなたみたいに嫁の悪口を

言ったりしないし、息子とはうまく

いってるわよ。

 

聞くところによると、あなたが

崩御なさった時、一条帝はさして

悲しそうでもなかったそうね?

涙のひとつも流さなかったという

噂よ?

 

定子様と中関白家に対して

あまりにもひどい事をしたせいで

嫌われちゃったのねぇ、ご愁傷様。

 

【詮子】
あのねぇ、言っておきますけど

あたかも私がシュウトメ根性丸出しで

定子中宮をいじめたなんて話は

デマよ!

 

円融帝との結婚生活が上手く

いかなかった詮子は一条と定子の

仲の良さに嫉妬した」という話が

まことしやかに伝わっているけど

まったく勘弁してほしいわ。

 

そういえば最近、ある脚本家がドラマで

私をそういうレベルの低い女に仕立てて

いるのよね。本当に迷惑!

 

たしかに定子姫は私がなれなかった

中宮という位をあっさり手にして

その点については羨ましいと

思ったけれども・・・。

 

でもそれだって兄・道隆が強引に

した事だから、あの子の責任で無い

のは充分わかっているつもりよ。

 

【弘徽殿】

中宮の位!

それわたくしもほしかったわ~。

大体、第一皇子の東宮を産んだのは

このわたくしなのに、桐壺帝ったら

藤壺の宮を中宮にしておしまいに

なった。

 

その上「あなたは東宮が即位したら

どのみち皇太后になれるのだから」

などと気休めにもならない事を言うし。

 

こっちは余計に腹が立ったわよ。

 

【詮子】

私も同じだわ。

でもあなたの息子は桐壺帝の沢山の

皇子の中から東宮に選ばれたのだから

いいじゃないの。

私なんて夫・円融帝の唯一の皇子を

産んだというのに中宮にしてもらえ

なかったのよ?

 

一体これ以上の屈辱があるかしら。

だから息子が即位した時は、すぐさま

皇太后の位に就いてやったわ。

 

けれどもあの時の恨みは今でも

私を苦しめるのよ。

 

私は右大臣家の娘として入内して

必死に努力したのに・・・。

 

 

【弘徽殿​​​​​​​】

え?わたくしの父も右大臣でしたわ。

これは偶然?

 

それとも・・・?

 

・・・・・・。

 

【詮子】

・・・・・・。

 

今、私もそれを考えていたの。

 

・右大臣の娘

・帝に入内

・東宮となる皇子を出産

・にもかかわらず中宮になれなかった

・夫との関係はイマイチ

 

こんなに一致する点が多いなんて

どう考えても不自然だわ。

 

どうやら私があなたのモデルだと

いう説は本当みたいね。

 

不本意ではあるけれど、

こうなったらケンカ売っても

意味が無いわ。

 

お互い歩み寄って話しましょう。

 

 

【弘徽殿​​​​​​​】

悔しいけど認めざるを得ないわ。

私は詮子様の存在があったからこそ

生まれ出たキャラだったのねぇ。

 

【詮子】

これであなたが女院にでもなれば

パーフェクトでしたのにね(笑)

 

【弘徽殿​​​​​​​】

そこが紫式部の巧妙なところよ。

わざと1箇所外す事で目くらましを

かけるんだわ。

 

源氏物語の中で女院になったのは

あの藤壺よ!

わたくしから中宮の座を奪った

だけでは飽き足らず、女院の地位まで。

 

わたくしは一体どうしてこんな目に

遭わなきゃならないの?

 

【詮子】

お気持ち、よ~くわかりますわ。

 

私たちは親の期待に応えるために

入内して、実家を繁栄させようと

血の滲むような努力したのにね?

 

「1日も早く皇子を産め」という

プレッシャーは言葉では言い表せない

くらい苦しかったわ。

 

私たちは大貴族の娘として

成すべき事をしただけなのに

どうしてここまで非難される

のかしら・・・。

 

【弘徽殿​​​​​​​】

わたくし達は勝ちすぎたのかも

しれないわね。

 

日本人は「判官びいき」なので

勝った人間に対しては厳しいのよ。

1人勝ちした勝者にはどうしても

悪いイメージを植えつけたいのね。

 

【詮子】

私は紫式部に文句を言いたいわ。

 

中流貴族の分際で、この私を

小説のネタにするなんて

無礼千万!

 

【弘徽殿​​​​​​​】

詮子様のお怒りはごもっともね。

 

それでもやはり紫式部は

詮子様が中宮になれなかった事を

書かずにはいられなかったのでしょう。

 

あれはそのくらい奇異な事で

ございましたからね。

 

 

【詮子】

あなただけよ…

私の気持ちを分かってくれるのは。

 

【弘徽殿​​​​​​​】

当然ですわ。

だってわたくしは詮子様の分身

ですもの。

 

お気持ちは手に取るように

分かりますわ。

 

それでも、こうして千年以上の時が

流れても、わたくし達の存在が人々に

知られているというのは凄い事だと

思いません?

 

 

【詮子】

そういえばそうだわ。

「光る君へ」とかいうドラマで

私の役を演じている女優の

何と美しいこと!

 

これならば少しぐらい私のイメージを

捏造されても我慢出来るというものよね。

ほほほ。

 

 

【弘徽殿​​​​​​​】

えっ!

わたくしのイメージなんてこうよ!

 

 

ちょっとあんまりじゃございません?

 

詮子様ばっかり美人でズルいわ~!

 

 

【詮子】

プププ・・・わろた。

 

これは「あさきゆめみし」という漫画を

描いた作者の責任ね。

 

でもなかなかの貫禄でよろしい

のでは?(笑)

 

【弘徽殿​​​​​​​】

あらいいんですか?そんな事を仰って。

わたくしのモデルは詮子様だという

事をどうぞお忘れなくむかっ

 

 

【詮子】

まぁそうカッカしないで。

 

こういうのもあるわよ?

「十二単衣を着た悪魔」

という映画なんだけど。

 

【弘徽殿​​​​​​​】

今度は悪魔あせる

いややわぁ~!

私のイメージはもう救いようが無い

ほど堕ちたわ絶望

 

 

【詮子】

まあ聞いてちょうだい。

 

これは2012年に内館牧子が書いた小説を

2020年に映画化した物で、監督は何と

黒木瞳よ~。

 

 

主人公の男性が突然源氏物語の

世界にタイムスリップして

弘徽殿女御に出会うストーリーよ。

 

公式サイトにはこう書いてあるわ。

『源氏物語』のヒールキャラ、

ヒステリックな悪女の代名詞

“弘徽殿女御”が実は早すぎた

キャリアウーマンであった、

という斬新な見立て。

 

ね~?良いと思いません?

 

 

【弘徽殿​​​​​​​】

早すぎたキャリアウーマン・・・

す、素敵!

 

源氏物語の中でわたくしは

「出しゃばりな悪女」として

描かれているけれど

女が頑張ると、とかく風当たりが

強いなんてひどい話よね。

 

そうか・・・わたくしは

キャリアウーマンだったのね。

 

 

【詮子】

ほら、これをご覧あそばせ。

 

 

【弘徽殿​​​​​​​】

まぁ!これがわたくし?

 

美しいわ~

 

嬉しくてぼ~っとしちゃうラブラブ

 

この映画、是非観てみたいわ!

 

【詮子】

ふふふ、息子さんの朱雀帝も

とってもイケメンですわよ。

 

 

実はもうあちらに映画を

用意させてありますの。

 

お互いの感想をおしゃべり

したいわ。

 

ちょうどお昼時だし、ぶぶ漬でも

食べながら・・・なんていかが?

 

 

【弘徽殿​​​​​​​】

ぶぶ漬?

 

えっ、まさかそれは京都人独特の

あの有名な言い回し「はよ帰れ」

という意味じゃないでしょうね?

 

【詮子】

いややわぁ~おほほほ。

私達はもう一心同体の間柄。

そんな嫌味な事はしないので

心配はご無用よ。

 

それにしても

千年のちの未来でさえ、女が目立つと

何かと叩かれるそうよ。

 

まったくこの国は一体いつになったら

変わるのかしら?

 

 

【弘徽殿​​​​​​​】

もう男はあきらめて、女が政治を

執った方が良いと思うわ。

 

【詮子】

まぁ!よしながふみの「大奥」ね!

ナイスアイディア。

 

では映画を観に参りましょうか。

 

【弘徽殿​​​​​​​】

いざ!参りましょう。

 

 

 

 

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かくして2人の女人は意気投合し、

楽しそうに別室に移ってゆかれました。

 

対談開始の時は、この先一体

どうなるかとハラハラしましたが

丸く収まって良かった良かった。

 

 

さて、歴史というものは時を経る

につれて人物評価がガラッと

変わる事がよくあります。

 

楠正成と足利尊氏しかり

田沼意次しかり。

 

詮子様も弘徽殿大后様も今はまだ

本人たちが望むようなイメージ

ではありませんが、後の世では

まったく正反対の高評価に

なるかもしれませんね。

 

 

それは、やっぱり

「早すぎたキャリアウーマン」

になるのでしょうか?ニコニコ