・日銀、金融正常化時に、ETFの購入枠を廃止していいか? | 矢口新の生き残りのディーリング

・日銀、金融正常化時に、ETFの購入枠を廃止していいか?

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☆日銀、金融正常化時に、ETFの購入枠を廃止していいか?

市場筋の観測では、少なくとも2021年春以降、TOPIXの前場の引値が前日比で2%以上下落すると、必ず日銀によるETF買いが見られたという。ところが、3月11日午前にはTOPIXが約2.25%下落したのに、日銀は動かなかった。

その伏線はあった。日銀の内田副総裁が2月8日の講演で「大規模緩和を修正するときにはETFの買い入れもやめるのが自然だ」と述べていたからだ。翌12日も日銀の買いを催促するかのように安く始まったが、日銀が動かないままに反発した。

一方、ブルームバーグは「日本銀行は2%物価目標の実現が見通せ、政策正常化に踏み出す段階で、2010年以来続けてきた上場投資信託(ETF)の新規買い入れの完全停止を検討する。複数の関係者への取材で分かった」と報じた。「株式相場が史上最高値圏で推移する中、ETFの買い入れによってリスクプレミアムに働き掛けることで、株価を支える必要性は乏しいと日銀は判断している」とした。

一方で、「同様に正常化局面で検討するイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の撤廃もしくは見直しに際して日銀は、国債買い入れの継続などによって長期金利の急変動を回避する方針だと関係者は指摘した」とし、(正常でない?)YCC政策継続を事実上示唆したようだ。


日銀のETF購入総額は、購入時ベースで37.1兆円になる。そのほとんどを日経平均でみて2万3000円以下で買っているので、時価総額は2月末時点で約70兆円とされ、大きな含み益を抱えている。

また、現状のETF購入枠は12兆円で、コロナ危機の株価急落時にそれまでの6兆円から倍増させた。その2020年には7兆1366億円購入した。そして、その後は上述のように株価の急落時にだけ購入し、2021年は8734億円、2022年は6309億円購入した。2023年は3月13日、14日と2日続けて購入し、最後にETFを購入したのは10月4日で、2023年はその3回だけで合わせて2103億円だ。

これで見ると、日銀のETF購入は事実上終了していたとも見えるが、私見では、株価を支えるような水準ではなかったことが、購入しなかった主因だ。

2023年の購入も株価の急落時だが、株価水準は日経平均でみて、順番に2万7700円割れ、2万7300円割れ、3万0600円割れとなっている。これが日銀保有ETFの最高値となる。そして、こうして急落時だけに買うことで日銀が買い支えるとのメッセージを与え、市場に株価の底値感を与えてきた。何しろ、巨額購入の実績があり、購入枠の12兆円をほとんど使っていなかったからだ。

しかし、3月11日の株価は4万円を割り込んだ水準だ。ETF購入を続ける、止めるなどと観測するような水準ではない。仮に11日の急落時に日銀が動いていたなら、市場は3万8000円台を支えるとのメッセージと受け取り、この水準を底値と見て個人投資家も買い進んでいた可能性があった。

しかし、果たしてそれでいいのだろうか?

日銀の最後のETF購入は、10月4日の3万0600円割れだ。つまり、今年3月11日の急落時より8000円以上も低い水準だ。このことは同時に、半年ほどで1万円ほど動いたことを示している。半年で1万円上げるものが、半年で1万円下げることはないと言い切れるだろうか?

年初3万3193円から始まった株上げの主役は外国人だ。1-2月で約3.0兆円の日本株を買い越した。一方で、日本人は年金が2.2兆円、投信が1.3兆円、個人が1.2兆円売り越した。新NISAでは0.6兆円ほどの日本株が買われているが、全体では個人も売り越しとなっていた。ちなみに、事業法人が0.5兆円の買い越し、金融機関は0.6兆円の売り越しだ。
参照:日経平均4万円時代の投資戦略と戦術


つまり、どこかの時点で外国人が売りに回れば、買い手不在のまま元の水準にまで下げる可能性すらあるのだ。ところが、高値更新の大合唱に刺激され、個人投資家は3月第1週に3274億円を買い越した。他の買い越しは外国人の1764億円だけで、他の日本勢はすべて売り、年金などは1週間で6866億円売り越した。売り買いのコストは4万円近辺となる。

今年に入って年金が既に3兆円近く売り越しているように、年金には日本株の保有枠があるので、株価が急騰すれば売り続けてくる。加えて、金融庁の指導を受けた損保も6兆円強の政策株を売ってくる。一方で、日本株の高値更新は日本のファンダメンタルズに支えられたものではない。企業業績も含めて海外要因が主役なのだ。


日銀はETFの新規買い入れの完全停止を「検討する」とする一方で、国債買い入れは継続するようだ。何故なら、長期金利の急上昇は日本経済や借金まみれの財政に悪影響を与えるだけでなく、日本国債残高の半分以上保有する日銀自身が困るからだ。いわば、日銀は国債価格の下落に応じてナンピン買いを決め込んでいるとも言える。

では、株価の下落は問題ないのだろうか? ここでも株価の下落は日本経済に悪影響を与えるだけでなく、日本株の最大の保有者である日銀自身が困ることになる。そして、4万円を買ってしまった個人投資家たちも同様だ。

世界の自由主義国の主要中央銀行で民間企業の株式ETFを購入しているのは日銀のみだ。インフレが目標値を超え、株価も最高値を更新した今となってはETFの新規買い入れは到底正当化できず、完全停止を「検討する」のは当然だとも言える。とはいえ、空中戦を行っている株価が着地する岩盤を求めて下落し始めたときに、完全停止で購入枠というセイフティーネットさえ外してしまってもいいものだろうか?

米株だけでなく、欧州の株価も最高値を更新してきている。投機の象徴とも言えるビットコインも同様だ。多少の調整はあっても、まだ投機筋には勢いがある。その意味では、日本株も再び最高値を更新し、更なる高値追いも十分に考えられる。

しかし、油断してはならない。投機筋が買ったものは必ず売る。そうした投機筋が日経平均を4万円台に押し上げたのだ。

そうした最高値への梯子を掛けたのは日銀だ。梯子外しは、今後のETFの譲渡といった出口戦略をも含めて、慎重に行うべきではないか? 半年で1万円上げるものは、半年で1万円下げる可能性があることを鑑みて、個人投資家保護のためにも、購入枠の維持は「検討」して頂きたいものだ。

 

 


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