petit espace <DCVS.227> -49ページ目

章子と直人<年下の彼(こいびと)>その8




章子直人<年下の彼(こいびと)>


 ― その1 ―

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 ― その2 ―

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 ― その3 ―

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 ― その4 ―

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 ― その5 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12175408486.html

 ― その6 ―

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 ― その7 ― 

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 ― その8 ―


4月30日、予定通り章子はパリに発った。


彼女は、北区の自宅マンションから歩いて数分の距離に小さなブティックを持っている。


パリへは 半年に一度、商品の買い付けに行く。


アクセサリーなどの小物雑貨を中心に、手作りモノを見て歩く。


気に入った商品があれば、作り手や店のオーナーと交渉して仕入れをする。


その他に、自身の店のリピーターや知り合いに頼まれた、ハイブランドのバッグやスカーフなどの買い物もする。


シャネルバッグ・LVのハードケース・エルメスのカレ・カルティエの 3リング・ディーオール、、、クレージュ、、、イヴサンローラン、、、etc.


ただ、キャンセルされても章子自身が使えるモノだけを引き受けた。


京都に持ち帰り、実物を見てもらってから清算をするからだ。


手数料は、パリ店頭価格の 10%、、、利益は度外視、顧客へのサービスなのだ。



章子のフランス語は、買い物や食事、ホテルなどのには不便はないが、仕入れ交渉はパリ在住の日本人男性 真辺が助けてくれる。


真辺とは 3年前、章子が宿泊していたホテルのバーで知り合った。


彼はフランス人男性と共同で、小さなデザイン事務所を開いている。


数年前から、フランス人妻との離婚に向けて別居している。



真辺と章子はお互いに強く惹かれあい、半年後の再会を約束した。


その後も年に 2度、二人は真辺のアパルトマンで一緒に過ごし、お互いの心と体を確かめ合ってきた。



真辺は、章子より 10歳年上。


真辺と直人、、、二人と向き合う章子


直人の中に、若い頃の真辺を感じ、、、真辺の中に、18年後の直人を見ている、、、


章子は、同じ一人の男性と愛し合っている、、、そんな感覚に陥っている。


、、、それを制することができない、、、



、、、どうにもならないことは、誰にでもあるもの、、、




        かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむり



章子と直人<年下の彼(こいびと)>その7




章子直人<年下の彼(こいびと)>


 ― その1 ―

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 ― その2 ―

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 ― その3 ―
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 ― その4 ―

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 ― その5 ―
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 ― その6 ―
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 ― その7 ―


直ちゃんビックリマーク出かけるわよ。」


もう昼を過ぎているのに、食事も摂らず黙ったきりの直人


章子は彼の腕を取り、ガレージまで連れ出した。


「ワーゲンで行きましょ。」


直人を助手席に座らせ、スタンドでガソリンを満タンにした章子は、北白川から山中超ルートで一気に比叡平まで上がった。


「ここからは直ちゃんが運転してね。 西大津まで出て、琵琶湖を一周するの。」


章子の言うままに、直人は運転席に座った。



「時計回りで行きましょ。 右手に琵琶湖を見ながらね。 

 出来るだけ湖に近い路を辿るの。 一度、行ってみたかったの。



琵琶湖大橋を過ぎると、北上する車は章子のワーゲンだけになった。


琵琶湖バレイから更に、マキノも通り過ぎた。


ヨットでは何度も琵琶湖に来ていた直人だったが、車ではマキノより先は知らない。


彼は何も話さず、ただ、、、じっと前を見て運転し続けた。



琵琶湖の北側に出ると山道、それも舗装されていない地道が続いた。


湖が見えない場所もあり、行き交う車も無く、、、この道で大丈夫なのか、、、


章子は、何度か不安になった。



少し開けた場所に、京都ナンバーのワゴン車が 2台停まっていた。


ホッとして車から降り、崖下を見ると、、、数人の釣り人がいた。


「こんな所まで来るのね。 人って、好きなことには労をいとわないのね。」


無言のままの直人



彦根城、、、近江八幡、、、から、、、いつしかトラックの行き交う国道に出た。


1号線だ。


ホコリっぽい風が、汗のにじむ直人の髪にあたっていた。



大津から山科を越し、素子が挙式をした蹴上のMホテル近くに来た。


車を道の脇に停め、ほんの少し眼を伏せた直人は、再びアクセルを踏んだ。




マンションに戻ると、直人は倒れるようにリビングのカーペットに仰向けになった。


疲れ果てて寝ているかに見えた。


閉じた目じりから、涙の筋が光っていた。



直人をそのままに、、、章子はキッチンに入り、食事の用意を始めた。


空はまだ明るかった。



しばらくして、直人の大きな声が聞こえた。


章子さん、俺、腹減ったビックリマーク


キッチンに入ってきた直人は、章子の横に立ち料理を手伝いながら言った。


章子さんがサディストなのが分ったよ。 ひどいんだから。」


「そうよ。 知らなかったのはてなマーク 私、荒治療が得意なの。」



まる一日 何も口にしていなかった腹ペコの二人は、何かに急かされるかのように在り合わせの材料で作られた料理をたいらげた。



ベランダのレースのカーテン越しに斜めに差し込む夕日の筋が、、、汗にまみれる二人の体を、、、オレンジ色に染めた、、、



、、、お互いを洗い流して、、、


二人がバスルームから出てきた頃には、すっかり日が落ちていた。



着替えの無い直人は、窮屈そうに章子のバスローブを羽織った。


ジャケット以外の彼の衣類は、洗濯機に放り込まれていたからだ。



「こんな恰好じゃ、俺、今日は帰れないよね。」



、、、俺、もう大丈夫だから、、、章子には、そう聞こえた。



         かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむり







章子と直人<年下の彼(こいびと)>その6




章子直人<年下の彼(こいびと)>


 ― その1 ―

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 ― その2 ―

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 ― その3 ―

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 ― その4 ―

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 ― その5 ―

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 ― その6 ―


直人がH女学院に通う香織と付き合い始めたのは、1年前。


同じH女学院の彼女を持つ、大学の同級生から紹介された。


H女学院と直人の通うD大学は、目と鼻の先にある。



初めてのデートの日、直人は、香織の授業が終わる頃に、校舎から少し離れた場所に車を停めて彼女が出て来るのを待った。


ほどなく、紺の制服姿の香織が、小走りで車に近づいて来た。


私服に着替えたいというので彼女の自宅まで行き、直人は車の中で彼女を待った。



控えめな小花模様のワンピースに着替えて出てきた小柄な香織、、、可愛い、、、


いずれ呉服店を継ぐ直人にとって、結婚するなら彼女のような女性がいい、、、


彼は、この 2歳年下の娘と真面目に付き合おう、、、と思った。



2度目のデートの時、彼は自宅まで招かれた。


彼女の両親は既に、彼らが営む割烹料理屋に出かけていた。


長年にわたって香織の面倒を見ていた 『婆や』 は、香織の短大入学と同時に、その職を解かれていた。


香織自身の意思で、それを決めたという。



着替えを済ませた香織は顔を上げ、長身の直人を真直ぐに見て言った。


「私、男の人と付き合うのは直人さんが初めてなの。 私のこと、大切にしてくれるはてなマーク


直人は、突然の彼女の問いに戸惑った。


「答がイエスなら、今、キスして欲しい。」



3度目のデートでは、約束していたかのように香織は直人に抱かれた。



その後は一週間に一度、二人の授業に合わせて、直人は決まった曜日の決まった時間に短大まで彼女を迎えに行き、彼女の自宅に向かった。


香織は制服を脱ぐと、直人の気持ちを確かめるかのように彼をベッドに誘った。


直人に抱かれた香織は、それだけで満足しているかに見えた。


直人は、そんな彼女を促して私服に着替えさせ、外出するように心がけた。


新しく出来たクレープの店に行ったり、映画を見たり、ちょっとした距離のドライヴもした。



10月に入り、秋の風を感じ始めた頃、直人の姉 素子の結婚話がまとまった。


婚約者の憲一は姉の理想的な相手だと、直人も納得していた。


翌年 3月の挙式に向けて、家族総出でその準備にかかった。


直人も姉の為に、出来るだけのことをしようと思った。



香織との一週間に一度のデートは、規則正しく続いていた。





「私と素子さんと、どちらが大切なのはてなマーク


クリスマスイヴの夜、ベッドから離れようとした直人に、香織が言った。


「どれだけ貴方が素子さんを求めても、どうにもならないのに、、、」


、、、そんなことは解かっている、、、直人は心の中で返事をした。


素子の結婚の日が近づくにつれて、何かやるせない気持ちを抑えられない、、、


香織に見透かされていた、、、ショックだった。



その日を境に、彼は香織の自宅に上がるのを止めた。


2月に入ってからは一度もデートをせずに素子の結婚式を迎えた。



4月中旬、章子直人カップルを食事に招待する形で、二人の付き合いが再開した。


いや、、、そうなる筈だった。



ディーナーを終えて香織を彼女の自宅まで送りとどけた直人は、彼女の誘いを断って、章子のマンションに急いだ。


にわかに、体の底から湧き出る感情、、、彼は、自分を抑えることはできなかった。



章子直人が月明かりの中で過ごしたその夜、、、香織は睡眠薬を飲んだ。



不眠症で処方されていた薬を貯め込んでいたのだ。


彼女は、その薬だけでは死ねないのを知っていた。


うつろな意識の中、、、バスローブの紐をドアーの内ノブに掛けて、、、そのまま、、、



夜中に帰宅した両親が娘の部屋の異常に気付いたのは、翌日の昼過ぎだった。


その翌日、香織の母親から事の一部始終が直人に知らされた。



通夜を済ませたその夜、章子のマンションにやって来た直人、、、


「香織は姉貴に嫉妬していたんだ。 けど、、俺、、、どうしようもなかった。」



素子への想い、、、章子に抱く感情、、、香織の死、、、


傷ついた直人、、、



章子は黙って、直人に話させた。



ジャケットも脱がずにベッドに伏せ、直人はそのまま眠りについた。



疲れたのね、、、直ちゃん、、、このままでいい、、、何も苦しまなくてもいい。


香織さんのことも、素子のことも、、、



どうにもならないことは、誰にでもあるもの、、、



ベッドルームはそのままに、章子はリビングのソファーで夜を明かすことにした。



レースのカーテン越しに見える、近くの神社の森の木々が、、、夜の風にざわついていた。



          かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむりかたつむり



章子と直人<年下の彼(こいびと)>その5




章子直人<年下の彼(こいびと)>


 ― その1 ―

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 ― その2 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12174148608.html

 ― その3 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12174535968.html


 ― その4 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12174885723.html



 ― その5 ―


「俺、義兄さんのメッセージを実行しましたって、報告しようかな音譜


「馬鹿ね、何を言ってるの。 少なくとも私は、素子のメッセージを守りましたからね。」


「はいはい、分りました。 そういうことにしておきま~す音譜


そう言いながら直人は、キッチンに入った。


勝手に冷蔵庫を開け、何かを作り始めた。



ベランダから射す朝の光が、章子の眼には眩しかった。



キッチンから出てきた直人は、大皿に盛られた二人分以上のベーコンとスクランブルエッグをテーブルに置き、殆ど一人でそれをたいらげた。


「明日も来ていいはてなマーク


「だめ。」


「どうしてはてなマーク


直ちゃんの彼女を悲しませたくないから。」


「本当に章子さんは、そう思っているはてなマーク


「そうね、、、反論はしないわ。」



章子には、香織に対しての罪の意識などというべき感情は無かった。


いつか、、、こうなる、、、無意識にそれを待っている自分がいた。

章子にとって直人を受け入れたのは、ごく自然なことだった。



ただ一つ、、、直人の顔を見ずに言った。


直ちゃん、、、叶えられない誰かのことを好きなのね。」


間をおいて、、、うなずいた直人


「分った。 来ていいよ。」





翌日の午後、直人から電話が、、、


「香織が亡くなった、、、睡眠薬を飲んだって、、、」




          かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり



章子と直人<年下の彼(こいびと)>その4





章子直人<年下の彼(こいびと)>


 ― その1 ―

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 ― その2 ―

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 ― その3 ―

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 ― その4 ―


数日後、章子の招待で直人カップルがやって来たのは、素子のウェディング二次会に使った、北区のイタリアンレストラン。


章子の自宅マンションから、車で数分の場所にある



章子に香織を紹介する直人、、、真直ぐに章子の眼を見て、、、



水色のワンピース姿の香織は、言葉少なく、軽い笑顔で、マナーも良かった。



ディナーを済ませ、レストランを出てから駐車場まで、直人は軽く香織の肩を抱いて歩いた。


いかにも、男性から大切にされて付き合っている、、、と思わせるような 2人。


お似合いのカップルに見えた。



「ご馳走様でした。章子さん、、、」


そう言って直人は香織を助手席に乗せ、、、もう一度章子の方を振り返り、車を出した。


章子は、彼の車が見えなくなるまで、、、その場に留まった。




章子が自宅に戻ったのは、10時前。


喉が渇いていた。


薄い目に淹れたジャスミンティーをリビングのローテーブルに置き、照明を落とした。


幅広に造られたベランダのレースのカーテン越しに、近くの神社の森が黒く見える、、、


深くソファーに座り、ゆっくりとカップを口に運んだ。



10分も経ったかと思われた時、ドアーのチャイムが鳴った。


直ちゃん、、、」



薄暗いままのリビングで、章子が低い声で言った。


「久しぶりのデートなのに、今夜は彼女と一緒に居ないと、、、

 私だって、誰かと一緒かも知れないでしょ、、、」


やはり低い声で直人が答えた。


「俺、章子さんが普段どんな風にしているかは知らないけど、今夜だけは一人で居るに違いないって、、、そう思ったんだ。」



図星、、、だった。


心臓を一突きされるって、こんな感じかも知れない、、、




月明かりが、リビングの二人を照らしていた、、、



           

            かたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり




章子と直人<年下の彼(こいびと)>その3




章子直人<年下の彼(こいびと)>


 ― その1 ー

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 ― その2 ー

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12174148608.html


 ― その3 ー


2週間後、章子のマンションにやって来たのは、大きな風呂敷包みを抱えただった。


「お袋がね、これを届けに行きなさいって。 そろそろ店の手伝いに慣れなさいって。」


「それはそれはご苦労様。 お駄賃あげないとね。」


この春は、まだ 4月に入ったばかりだとは思えないほど暖かい。


直人は、白い半そでT-シャツにジーンズのジャケットという軽装だった。


彼はジャケットを脱ぎ、それをソファーの背に無造作にかけて、浅く座った。


T-シャツの直人は、思いのほかシッカリした体つきをしている。


「まぁ直ちゃん、筋肉付いているわね。 スポーツは何をしてるのはてなマーク


「うん、中高は水泳部だったんだけど、、、 

 でも先輩に誘われてね、今はヨットに首ったけ~ラブラブな僕です。」


「何よ、その言い方。彼女はいるんでしょはてなマーク


「いるよ、、、香織、、、最近は殆ど会ってないけど、、、」



香りはH女学校の短大生だという。


割烹料理屋の一人娘。


女将をしている母親は忙しく、自宅では、彼女は子供の頃から 『婆や』 に育てられた。


大人しくて、寂しがり屋らしい。



「直ちゃん、、、最低でも一週間に一度はデートしなさいビックリマーク


命令口調で、章子が言った。


「分ったよ、、、章子さん、、、姉貴みたいに言うね、、、」



数日後に、章子の招待で直人カップルと 3人で食事をする約束をした。




            かたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり



章子と直人<年下の彼(こいびと)>その2





章子直人<年下の彼(こいびと)>

 ― その1 ー

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 ― その2 ー


新婚カップルとその同級生たちを乗せた列車は、東京に向かってホームから消えた。


素子と憲一のメッセージを見た二人は、お互いの顔を見合わせて笑った。


「姉貴も義兄さんもジョークが過ぎるよ。」


「あら、私は素子の言うとおり、直ちゃんを誘惑したりしませんからね。」


「えービックリマーク そうなんだ。 な~んだ、つまらない音譜



冗談を言い合いながら、二人は駅のパーキングに向かった。



章子の車は、緑のフォスクスワーゲン・ビートル。


天井の一部が、手巻きハンドルで開くタイプ。


直人は、新発売されたばかりのフェアレディーZ、、、キレイに磨かれて黒く光っている。



フェアレディーと言えば、章子も学生時代に乗っていた。


但し 8年前のそれは 『Z』 ではなく、日産の初代フェアレディー・オープンカー。


幌が付いていたが、高速道路を走るとガタガタと震えて、使い心地が悪かった。


純正品ではないが専用のハードトップが売られていたので、それに付け替えていた。


車体のシルバーグレイより少し薄い色目。


むっくりした 『Z』 に比べて、シンプルな直線的なデザインのスポーツカーは、なかなか恰好良かった。




「じゃあ、直ちゃん、、、来週にお宅に伺うので、ご両親によろしくね音譜


そう言って、章子は先に車を出した。





章子が素子の両親の店で誂えるのは、『りんず』 の黒無地。


ちょっと粋すぎるかも知れないが、伊達襟を合わせてキリッと着るのだ。


素子の母親が言った。


章子さん、個性的でよく映えますよ。 海外では、これ位が丁度ですよ。

 仕立てあがりましたら、お届けしますね。」



章子は、4月の末にパリに出かける予定になっている。




            かたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり



章子と直人<年下の彼(こいびと)>その1





章子<年下の彼(こいびと)>


 ― その1 ー


1975年 章子 29歳の 3月上旬


友人のウェディングパーティーの二次会に参加していた。


友人は、高校からの同級生の素子。


二十歳代の結婚を望んでいて、ギリギリの 29歳でゴールインを果たしたのだ。


相手は、F銀行営業マンの憲一。


東京K大学を卒業して、F銀行京都支店に勤務。


素子の両親の店の担当をしていて、彼女と縁ができたという。


この 4月から、東京本店に戻ることになっている。


素子より 1歳年下の、長身の 『しょうゆ顔』 イケメン。



昼間に京都Mホテルで行われた披露宴では、招待客は新婦の見事な打掛と振袖に目を奪われた。


というのも、素子の実家は、『一点もの』 の高級呉服店。


個人商店ではあるが、有名人・芸能人・外交官夫人らの顧客がついている。



挙式が新郎の実家がある東京ではなく京都で行われたのは、翌日から東京で暮らすことになる新婦の両親への気遣いからだった。



二次会パーティーの会場は、市内北区にあるイタリアンレストラン。


披露宴が行われたホテルからは、かなり離れた場所にある。


結婚前の二人のデートスポットだったので、あえて此処を選んだのだ。



和服から洋服に着替えた新郎新婦、、、


タキシード姿の憲一と、白いロングカクテルの素子。


同級生の中でも 『綺麗・可愛い』 ではトップの素子と、イケメン新郎の憲一。



「美男美女カップルに、カンパーイビックリマーク


東京から来ている、憲一の同級生の一人が音頭をとった。



昼の披露宴に引き続き二次会にも参加しているのは、新婚カップルの友人・同僚などの若い連中ばかり。


ホテルから此処まで用意されたマイクロバスでワイワイ騒ぎながら移動してきて、そのテンションが落ちずに続いている。



一同が落ち着いた頃、素子が章子の前に大学生風の男の子の腕を引っ張って連れてきた。


直人のこと、覚えているはてなマーク 貴女がうちに来た時、この子、まだ小学生だったから。」



披露宴の時から章子は、彼が誰なのかなんて関心はなかった。


素子の親族の一人だろう、、、くらいに思っていた。


改めて、その男の子の顔を見た。


「えービックリマーク あの時の直ちゃんはてなマーク


素子の 8歳年下の弟、今春 4回生になるという端正な顔立ちの直人は、人懐こい笑顔で章子に小さく会釈した。


直人ビックリマーク 姉さんが居なくなったら、これからは章子に監視してもらいますからね!!


「はいはい、分りました。 章子さん、僕、あの時の直ちゃんです。 どうぞお手柔らかに音譜


姉の言葉に軽くお返しをして、彼はドリンクカウンターに向かった。



パーティーのメンバーの殆どが、未婚者の男性と既婚者の女性で占められていた。


独り者の章子は、夫や子供の話で盛り上がる女性陣から離れ、直人を含む男性陣の輪の中に入り、彼らと気軽に言葉を交わし合った。



9時になり、レストランマネージャーから、、、そろそろお開きに、、、と告げられた。


まだ飲み足りない男性陣は、半ば強制的にマイクロバスに乗せられ賑やかにホテルに引き上げて行った。



今晩はMホテルで一泊する新郎新婦は、明日正午過ぎの新幹線で東京の新居に向かうことになっている。


その後、ヨーロッパ 2週間のハネムーンに発つ。


東京から来て同じくMホテルに宿泊する新郎の同級生たちも、同じ車両で帰るらしい。


憲一の両親は、素子の両親の招待で、もう一泊して春の京都を楽しむという。





京都駅で新婚カップルを見送るのは、親族代表の直人と、友人代表の章子


章子が一人で来たのは、既に結婚している友人たちは子育てに忙しく、見送りどころではないからだ。



3分間の停車時間に、東京行の彼らはバタバタDASH!と車両に乗り込んだ。


ホーム側のシートに着いた素子と憲一が、ウインドウの内側から外に向けて、笑いながら、何か文字が書かれた紙をガラスに張り付けるようにして見せた。


発車する列車の窓を目で追う直人章子



素子の紙には、、、『章子直人を誘惑しないでね音譜


憲一の紙には、、、『直ちゃんビックリマーク 抵抗するなビックリマーク 遠慮なく誘惑されろ音譜




          かたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり



冴子と順二<思い違い>その5・最終話



冴子順二<思い違い>



 ― その1 ー

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 ― その2 ー

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12172435203.html


 ― その3 ー

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12172782155.html


 ― その4 ー

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12173269905.html



 ― その5・最終話 ー


4月 新学期が始まって数日後


ケンちゃんが弾んだ声で電話をかけてきた。


冴子さん、今日の午後、そちらに訪ねて行ってもいいはてなマーク


「もちろんビックリマーク ケンちゃんにはお世話になったし、お礼をしなくちゃね音譜


「あぁ、、、この間、偶然に順二に出会ったのだけど、、、

 冴子さんを見かけたから声を掛けたのに無視されたって。

 彼、すごくしょんぼりしていて、冴子さんは冷たいって言ってた。」


「その通りよ。 だって、もう決着させたのだもの。 もう、終わったのよ。」



順二が、サカナを取り逃がしたと思っていようが、冴子に恋心を待ち始めていようが、そんなことはどうでも良かった。


もう、済んだ事だ。


今後の彼の人生は、彼自身が学んで切り開いていけばいいのだ。


その後の電話にも、、、ごめんなさい、、、の一言で、即切りを繰り返した冴子だった。




順二から解放された冴子は、ケンちゃんに会うのを楽しみにしていた。


19歳に成りたての 2回生になったケンちゃん、、、彼も、ちょっぴり大人になった。




チャイムが鳴った。


「いらっしゃいケンちゃん音譜 待っていたのよ。 鍵かけていないから、どうぞ音譜


リヴィングに入ってきたケンちゃんは、一人ではなかった。


「こんにちは冴子さん。 マリです。 初めまして。」


ミニスカート姿の小柄な、マリというこの子は、大学の新入生だと。


冴子の弟から紹介されて、付き合い始めたばかりだという。


、、、弟の紹介だなんて、軽~い娘に決まっているじゃない、、、



「ケンちゃんから、お噂は聞いてましてよ。 素敵なマンションにお住まいです事。

 ワタシ、冴子さんに憧れてしまいそうだわ。」



、、、ケンちゃんは私のモノなのだから。 冴子さんには絶対に負けないから。



マリのクリクリした黒眼が、そう訴えていた。



               

                 かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、完。




冴子と順二<思い違い>その4




冴子順二<思い違い>


 ― その1 ー

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 ― その2 ー

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12172435203.html


 ― その3 ー

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12172782155.html



 ― その4 ー


その冬は、2月に入って寒さを増していた。


両手で紺のダッフルコートの首元を詰めて、順二はドアーが開けられるのを待っていた。


告白の電話から、更に 2週間が過ぎていた。


冴子がわざと、彼を焦らせたのだ。



エプロン姿の冴子は、眼を伏せて入ってくる彼を、ソファーではなくダイニングテーブルの椅子に掛けさせた。


まるで初めてこの部屋に訪れるかのように、従う順二


冴子はコートを脱ごうとする彼を制止し、向かい側に座った。


彼の顔を正面に見て、、、


「もう、会うのは止めましょ。 アナタにとっても私にとっても、それが一番いいの。

 あ、、、嘘を言ったりしたのを怒っているからじゃないの。

 私達は偶然に人生のレールが交わっただけで、これからは離れていくばかりなの。

 運命に逆らって無理をしても、お互いに傷付け合うだけかも知れないでしょ。

 本当は、素直で優しいアナタだから、きっと、素敵な人に巡り会えると思うわ。



今まで彼を順二と呼んでいた冴子だったが、あえて 『アナタ』 と、、、


言葉の出ない順二、、、というか、何も応えさせない冴子



「これ以上アナタと一緒にいると、辛くなるから、、、」


そう言って、お茶も出さずに、早々と彼を玄関へと導いた。



、、、土足にしておいて良かった。 あっさり追い返せるもの。



ドアーの内側で突然、後ろを振り返った冴子は大げさに順二の首に腕を回して抱きついた。


「辛いわ、すごく辛い。 でも、こうするしかないって決心したのよ。」


順二は、冴子の腰を強く抱きしめた。


1、2、3、4、5秒をカウントして、冴子はその腕を解いた。


「コレ、アナタにお返しするわ。」


そう言って、エプロンのポケットから 『匂い袋』 を取り出し、それを順次のコートのポケットに押し込み、ドアーを開けた。


唇を噛みしめてエレベーターに向かう順二の背中に、止めの一言。


「もし偶然に街中で出会っても、お互いに知らないフリをしましょうね。辛くっても。」


一瞬足を止めた順二は、足早に去って行った。




             かたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむり