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章子と直人<年下の彼(こいびと)>後編・その8・最終話




章子直人<年下の彼(こいびと)>後編


 ― その1 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12177505238.html

 ― その2 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12177819913.html

 ― その3 ―

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 ― その4 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12178695471.html

 ― その5 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12178760349.html

 ― その6 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12179181323.html

 ― その7 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12179325940.html




 ― その8・最終話 ―



業者にすすめられて、ソファーに掛けた、、、


南向きのベランダから射す冬の日差しが、リヴィングの奥深くまで届き、章子を柔らかに包み始める、、、


直人と過ごした日々の記憶が、ゆっくりと戻ってくる、、、



素子のウェディングパーティー、、、大学生になっていた直人、、、


月明かりのリヴィングで過ごした、初めての夜、、、香織の死、、、


琵琶湖一周のドライヴ、、、直人の涙、、、


カーテン越しに斜めに差し込む夕日の筋、、、オレンジ色に染まった二人、、、


章子のバスローブを羽織り、窮屈そうに笑う直人、、、



長い梅雨の日々、、、



真辺の許に発つ前の数日間、、、あんなにも優しく愛しみあった、、、



最後の日、、、直人は空が明ける前に、そっとベッドを離れ、、、出て行った、、、


ドアーが閉まり、、、


一人残された章子は、じっと眼を閉じたまま、、、動かなかった。


これでいい、、、どうにもならないことは誰にでもあるもの、、、


胸の中で、そうつぶやいた、、、18年前の章子





慌ててドアーに向かって行った業者が、直ぐに折り返して来て、章子に言った。


「お客様、オーナー様がお見えになりました。直接お話しされたいそうです。

 私どもは今日はこれで失礼いたしますので、よろしくお願いいたします。」




柔らかな日差しの中の章子、、、涙がこぼれそうになる、、、


ベランダの外に眼を留めたまま、、、動けない、、、


陽の光を受けた、近くの神社の森の木々の葉が、、、きらきら、、、と揺れる、、、



章子の背中に、、、懐かしい声が、、、


「お帰りなさい、、、章子さん、、、






               かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、完。




章子と直人<年下の彼(こいびと)>後編・その7




章子直人<年下の彼(こいびと)>後編


 ― その1 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12177505238.html

 ― その2 ―

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 ― その3 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12178097634.html

 ― その4 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12178695471.html

 ― その5 ー

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12178760349.html

 ― その6 ー

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12179181323.html



 ― その7 ー


12年前、直人はハワイからロスアンジェルス営業所に移っていた。


その年のクリスマス休暇に自由が丘に訪れた彼は、章子がマンションを手放した事を聞かされた。


彼女の母が病死し、真辺とパリで永住する決心をしたからからだと、、、


章子について耳にしたのは、彼女と別れて以来、初めてのことだった。



彼は例年どおり、素子の家族とクリスマスを過ごし、大晦日には京都の実家に向かい、両親と共に正月を祝った。


その月の中旬に入ると直ぐに、不動産業者に問い合わせた。


誰にも言わず、自らを急かすかのように、章子が手放したマンションの売買契約をした。



家具類の全てが残されたままの部屋、、、


そこは直人にとって、二度と足を踏み入れることの無い筈の場所、、、だった。


パリ永住の決心をし、発ち去った章子、、、


そして、彼女と過ごしたその部屋に戻った直人、、、



章子との別れのあと、何度も新しい女性に出会い恋をした。


その度に、章子への想いが直人を苦しめた。


胸の内から章子を消し去るのは、まだ 30歳前の直人には不可能だった。



リヴィングのカーテン越しに、近くの神社の森が見える、、、


 、、、もう章子を忘れるのを諦めよう、、、ごく自然に、そう思った。


そう思うと、心が軽くなった。 




それから12年、真辺を亡くし章子が京都に帰ってきているのを知ったのは、数日前。


自由が丘で、素子から聞かされた。


同時に、不動産業者からの電話で、京都のマンションの売買の話を聞いた。


元の持ち主が買い戻したい、、、と。


マンションの現オーナーがであるかなど、章子はもちろん、素子も実家の両親も知ってはいない。




クリスマスイヴの朝、彼は京都に向かう新幹線に乗った。


列車がトンネルに入った。


ガラス窓に映る、、、40歳の直人


章子への想いは、直人の胸の内で 18年の時を刻むことなく留まっている。


ゆっくりと時を巻き戻す、、、


章子と過ごした日々の記憶が、直人の胸につかえるように迫ってきた。




        かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむり



章子と直人<年下の彼(こいびと)>後編・その6




章子直人<年下の彼(こいびと)>後編


 ― その1 ―

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 ― その2 ―

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 ― その3 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12178097634.html

 ― その4 ―

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 ― その5 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12178760349.html


 ― その6 ―


翌 24日正午過ぎ、章子は業者と共に北区のマンションに向かった。



12年も前に手放したマンション、、、どんな風に変わっているかしら、、、


不安を抱えながら、業者の後に続いて部屋に入った。



え、、、どういうことかしら、、、12年前、この部屋を後にした時と殆ど変っていない。


水回りと空調設備は新しいものになっていたが、間取りはそのまま、、、


リビングのソファーや寝室のベッドは、章子が残していったものが、、、


カーテンやベッドカヴァー、タオル類はダンディーなモノがセットされているが、キッチンの食器類は、やはり章子が残していったもの、、、


章子が住んでいた時もそうであったが、装飾性の強いものは全くなく、この部屋を出て行った時と何も変わってはいない。


驚いたのは、土足のスタイルもそのままだった。


唖然とする章子に、業者が言った。


「あの、、、当時、私どもに処分を託されました家具類でございますが、、、

 新しいオーナー様にお部屋を見ていただいたところ、、、

 そのままお使いになりたいと仰いまして、、、」


気まり悪そうな顔をして俯き、、、再び言葉を続けた。


「オーナー様は海外生活をされているそうです。

 此処には 12月末から 1ヵ月程しか滞在されないそうです。

 いつもなら大晦日に帰ってこられるのを、今回は売買のことがありますので、、、

 もう間もなくお着きになるかと、、、




          かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむり




章子と直人<年下の彼(こいびと)>後編・その5





章子直人<年下の彼(こいびと)>後編


 ― その1 ―

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 ― その2 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12177819913.html

 ― その3 ―

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 ― その4 ―
http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12178695471.html



 ― その5 ―


パリからの荷物を置いているワンルームマンションから、近くのホテルに移った章子は、2週間の宿泊予約をした。


12年前、北区のマンションを買い取った不動産業者に連絡し、買い戻したいと伝えた。


業者によると、章子から買い取った翌年に買い手が付いたという。


仲介料を期待した業者は即日、彼女の要望を相手に伝えた。


返事は、まだ無い、、、


売りに出ていない物件に対して、相手の意思を無視した強引な取引であるのは解かっている。


章子は、ただ、、、待つことにした。



北区のマンションを買い戻そう、、、パリを後にした時から僅かにあったその思い、、、


京都に帰った今はもう、そこにしか自分の居場所は考えられなくなった。



18年前、そこで章子直人と過ごした。


パリに居ても章子の胸には常に、真辺と同一人物としての直人が宿っていた。


しかし、真辺の他界と共に、直人への想いも去っていた。


章子は、ごく自然に、、、そう感じている、、、



直人海外に住居を構え、京都に戻り呉服屋を継ぐことは無い。


素子から、そう聞かされている。


今の直人は 18年前の彼ではない、、、


ただ、、、章子の居場所は、北区のマンション、、、そこにしかないのだ。 


今、彼女の胸は、冬のパリの硬く冷たい空気に占めらている。


それを解きほぐしてくれるのは、そこしかない、、、





12月23日、忘年会を兼ねたクリスマスパーティーを楽しんだ若者たちが、ロビーを占領している。


それを避けて章子は、ルームサービスの簡単な夕食を済ませた。


ホテルの宿泊は、更に 1週間伸ばしている。



9時を過ぎた時、業者からの電話が、、、


「夜遅くに申し訳ございません。 たった今、先方様からご連絡がありまして、、、

 急な事なのですが、明日の午後そうそうにお部屋に入る許可を頂きました。

 お部屋をご覧になっていただきたいとのことです。




            かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむり



章子と直人<年下の彼(こいびと)>後編・その4


 



章子直人<年下の彼(こいびと)>後編                           

 ― その1 ―
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 ― その2 ―
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 ― その3 ―
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 ― その4 ―


素子の 8歳年下の弟直人は、両親の呉服屋を継がなかった。


大学卒業後、彼は東京の大手旅行会社に入り、そこで 2年間勤めた。


外国人旅行者の担当だった。


3年目から、シンガポール営業所に勤務。


その後は、ハワイ、、、ロス、、、からニューヨークに移っている。


ニューヨークではアメリカ人女性と付き合ってはいるが、結婚までは考えてはいない。


実家には必ず、年に一度、自由が丘の素子宅にも顔を出している。



40歳になった直人は現在、ニューヨークのブランチマネージャー。


このまま仕事を続けるか、、、京都に帰るか、、、両親も高齢になった、、、


東京に居る素子に京都の店をも任せるのは、荷が重すぎる、、、


既に人生の半分を経た今、直人は迷っている、、、




京都の実家の商売に就かず、海外に職を求めた直人


章子を失った当時、京都に居続けるのは、、、若い直人には辛かった。


パリに発った章子のその後について、素子に尋ねることもなく、、、


新しい恋人に巡り会っても、結婚にまで至ることはなかった。




12月中旬、直人はニューヨークを発ち、東京に向かった。


毎年クリスマスには、自由が丘で素子の家族と共に過ごしている。


そして、年末には京都の実家に向かう。


今年こそ、今後の身の振り方を定めなければ、、、


決心を迫られる直人、、、



            かたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむりかたつむり




章子と直人<年下の彼(こいびと)>後編・その3


 


章子直人<年下の彼(こいびと)>後編


 ― その1 ―

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 ― その2 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12177819913.html



 ― その3 ―


自由が丘に住む素子は、結婚後も両親の呉服店の仕事を続けていた。


章子と同年齢 48歳の彼女は、相変わらずの美貌を保っている。


かなりの着物美人の彼女は、東京の顧客の窓口、いわば外商として売り上げを伸ばし、呉服店は彼女を中心に繁盛していた。



彼女は、夫 憲一との間に二人の子供をもうけていた。


長女の純子 17歳と、長男の真人 15歳、、、二人合わせて 『純真』 だと。



章子を迎えてくれる、母親譲りの華やかな笑顔の美少女と、端正な顔立ちの弟。


、、、あ、、、直ちゃん、、、章子は思わず彼に声を掛けそうになった。



憲一は、海外出張中だった。



その夜、3人と夕食を共にした章子は、そのまま素子の家に留まった。



リビングのチェストには、『最後の晩餐』 をかたどった小さなアンティークの木彫りが置かれていた。


クリスマスの飾りが派手なツリーでないのが、章子の心を和らげてくれた。


                             



翌日、章子は京都に向かった。



臨時に借りたマンションは、上京区にある新築のワンルーム。


管理人から鍵を受け取り、パリから送った荷物が置かれた部屋に入る。


幾つもの段ボールボックスで占められた小さな部屋、、、



、、、ちゃんとした住まいを探さなければ、、、


とりあえず章子は、荷物はそのままに、御所近くのホテルを予約した。




北区のマンションは、どうなっているかしら、、、


手放してから、12年も経っている。


出来れば、買い戻したい、、、



                   
             かたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり




章子と直人<年下の彼(こいびと)>後編・その2





章子直人<年下の彼(こいびと)>後編


 ― その1 ―

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 ― その2 ―


「お帰りなさい、、、章子。」


成田の税関を出て間もなく、章子の前に素子が軽い笑顔で現れた。


8年ぶりの再会だった。



2年に一度は京都に帰ってきていた章子だったが、知人や友人、東京に住む素子とも会うことなく、数日間の滞在でパリに戻っていた。


だた、京都に住む実家の母の許には、必ず顔を出していた。


その母が 12年前に、50歳代という年齢で難病を発症して他界した。


それをきっかけに、北区のマンションを手放し、真辺と共にパリで定住する決心をした。



そんな章子を 8年前、夫の憲一と共に素子がパリに訪ねて来た事があった。


章子は、その時に初めて真辺を紹介した。


真辺は 50歳になっていた。


ディナーのあと、彼ら四人は、若い頃からの友人であったかのように、夜遅くまで語らった。



「思い出すわ、あの日の真辺さんのこと。 とても静かで穏やかな人、、、」


章子をいたわるかのように、素子が言った。




真辺自身も、、、彼との暮らしそのものも、静かで穏やかだった。


クロワッサンとカフェオーレの簡単な朝食、、


ココを膝に抱き、デザイン画の整理、、、近くのカフェで長居、、、


マルシェ、、、週末のブーローニュの日差し、、、


ヴァカンスで訪れるノルマンディー、、、季節の繰り返し、、、


真辺と重ねた 18年間のパリ生活は、何でもない日常を映した一冊のアルバムのよう。




章子を乗せた素子の車が自由が丘に着いたのは、まだ日が残る夕刻。


素子の自宅は 18年の時を経て、その風格を増していた。


外壁に絡む蔦、、、アイアンの門扉、、、庭先の小鳥の水飲み場、、、


大きくなった木々の黄葉が、地面の所々を覆っている、、、



此処は、まだパリなのかしら、、、章子は、軽い混乱を感じた。



              かたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり



章子と直人<年下の彼(こいびと)>後編・その1




章子直人<年下の彼(こいびと)>後編


 ― その1 ―


1994年 章子 48歳の秋


アパルトマンの荷物の整理を始めた。


真辺と婚約して 18年、二人で過ごしたジョルジュサンクのアパルトマン。



フランス国籍を持つ真辺は、日本に居る彼の親族とは一切の関わりを絶っていた。


フランス人妻との離婚後、章子と婚約し、一度も日本に帰ることなくパリで暮らした。


フランス人妻との間に、子供も無かった。



18年前、パリに渡った章子は、真辺のデザイン事務所でアシスタントとして勤めた。


事務所では、ネコを一匹飼った。 メスネコの 『ココ』


ココはその魔力で、イヌ派だった章子を一挙にネコ派に変えてしまった。



京都とパリは似ている。


それは、新しいものと古いものが織りなす、街を通り抜ける風、、、


一見、排他的ではあるが、ほんの少し歩み寄るとフランクに付き合える隣人たち。


個人主義の達人ともいえるフランス人との付き合いは、程よい距離を保ち、にとっては心地のよいものだった。


しかし、老若男女を問わず、自分の主張をハッキリと示し、、、


政治・経済・教育・仕事・家庭・恋愛・ファッション・グルメ、、、に至るまで、街のあちこちで話し合う、、、というか、議論好きの彼ら、、、


自分のミスを認めたがらず、謝るのが大嫌いな 『頑固者』 たち。


でも、そんなこんなも知ってしまえば、どおってことはない。



駐車違反だらけの道、、、罰則金は駐車料金だと理解する彼ら。


世界一綺麗な街と、世界一汚い路。


特に、ペットの糞には要注意ビックリマークショック!あせる


それが、『花の都パリ』。


そして、、、ヘビースモーカーの街、、、




真辺の身体の様子の変化に気付いたのは、1年前。


癌に侵された彼の肺は、2度の手術を経て、、、炎症をおこし、、、帰らぬ人となった。


あっという間に過ぎ去った 一年だった。



タバコとジレの似合う、物静かなジェントルマン、、、真辺。


「君は 10歳も年下だけど、母の様であり、妹の様でもあり、友人、同志、時には気の合う男性、、、いや失礼、、、僕の大切な婚約者だったね。」


「まあ大変、私、そんなに沢山の役をこなしているのはてなマーク ギャラは高いわよ。」



無理をしない、気負わない、嫉妬しない、お節介をしない、欲張らない、、、


お互いに、パートナーとして自然体で暮らしてきた二人だった。




真辺が亡くなった今、一人でパリに定住する気にはなれない、、、


京都に帰ろう、、、ごく自然に、章子はそう思った。



二人の持ち物は多くは無かったが、その整理には 2ヵ月をかけた。


アパルトマンから歩いて行ける距離にあるデザイン事務所には、毎日、顔を出した。


既に 18歳になっている 『ココ』 に、ゆっくりと別れを告げたかったから、、、



家具や道具類、真辺の持ち物の殆どは、パリの友人たちに譲った。


章子自身のものは、臨時に借りた京都の小さなマンションに送った。


北区のマンションは、12年も前に手放していたからだ。



街は 『ノエルの色』 で埋め尽くされ、人々の歩みは軽く、子供たちの笑顔が跳ね交う。


しかし、急速に冬に染まったパリの空気は、章子には硬く冷たかった。



12月初旬、友人たちに別れを告げ、章子はシャルルドゴール行のバスに乗った。


乗客は少なかった。


中ほどのシートに着き、バッグの中のデュポンに手を添えた。


真辺の愛用品だった。


章子は話しかけるように、ささやいた。


「京都に帰るのよ、、、」



               かたつむり、、、つづく、、、かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり



章子と直人<年下の彼(こいびと)>その10・最終話





章子直人<年下の彼(こいびと)>


 ― その1 ―

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 ― その2 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12174148608.html

 ― その3 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12174535968.html

 ― その4 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12174885723.html

 ― その5 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12175408486.html

 ― その6 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12175622776.html

 ― その7 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12175790149.html


 ― その8 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12175867701.html

 ― その9 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12176222625.html

 

― その10・最終話 ―


その年の梅雨は長かった。


ヨットを控えていた直人は、週の半分は章子のマンションで過ごした。



夏が過ぎ、、、10月も半ばになった。


移り変わる季節と共に、大人びてきた直人、、、



買って来たばかりのエルトンジョンの新しいアルバムを開け、レコードの針を落とした直人に、章子が話し出した。


直ちゃん、、、私、婚約するの。 パリに居る日本人と。 

 その人、離婚したばかりなの。 でも、婚約したからと言って結婚するとは限らないの。

 フランスでは、婚約者のままで終生を過ごす人も多いのよ。」


レコードの歌詞カードから眼を離さず、、、


「、、、そう、、、章子さんらしいね、、、俺、、、大丈夫だから、、、」


自らを確認するかのように、、、ひとこと、ひとこと、、、直人が言った。



『グッバイ イエロウ ブリックロード』 のメロディーがリビングを駆け巡る。


その音が、何か言葉を続ける章子の声を、直人の耳から遠ざけた。


             

章子のブティックは、たった一人雇われているスタッフが引き継ぐことになった。


マンションはそのまま留守にして、とりあえず 3ヵ月間、彼女はパリの真辺の許で暮らすことに決めていた。




パリに発つまでの数日間、二人は出来る限り一緒の時を過ごした。



、、、こんなにも優しく愛しみあうことができるのか、、、と、、、



最後の日、直人は、空が明ける前に、、、そっとベッドを離れ、、、出て行った。



             



           かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、前篇・完。




明子と直人<年下の彼(こいびと)>その9




章子直人<年下の彼(こいびと)>


 ― その1 ―

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 ― その2 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12174148608.html

 ― その3 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12174535968.html

 ― その4 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12174885723.html

 ― その5 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12175408486.html

 ― その6 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12175622776.html

 ― その7 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12175790149.html

 ― その8 ―

http://ameblo.jp/dcvs227/entry-12175867701.html


 ― その9 ―


2週間後、章子はパリから戻ってきた。


羽田には直人が迎えにきてくれた。



彼はその日に合わせて、東京に住む素子の新居を訪れていた。


もちろん、章子との関係を明かしてはいない。



『Z』 の狭いリアシートにトランク 2個を押し込み、自由が丘の素子の家に向かった。



白い壁にオレンジ色の瓦、、、南ヨーロッパ風の外観。


インテリアは意外と、日本のアンティーク家具で統一されている。



章子、ありがとう。 力になってもらって、、、直人から聞いているわ。」


キッチンで章子をもてなす紅茶を淹れながら、小さな声で素子が言った。



香織の自死事件の事を言っているのだ。


直人と香織は、二人の家族に公認で付き合っていた。


毎週のようにベッドを共にしていた事は隠していたが、、、


いずれ結婚するであろうと思われていた香織の自殺は両家のそれぞれに深いショックを与えた。


落ち込む直人を素子に代わって支えたのが章子、、、だというのだ。



「私と直人は 8歳も離れているでしょ。 

 両親が仕事で忙しかったから、私は 『直人の小さな母親』 だったの。 

 素と直、、、二人合わせて 『素直』 だなんていって、いつも一緒だったわ。

 おかしいかも知れないけど、この歳になっても彼の事が気がかりなの。

 章子がいてくれて、本当に良かった。 感謝しているわ。」



章子は、素子の言葉の訂正はしなかった。


既に 20歳を過ぎた直人が求めていたのは、『小さな母親』 ではなく 『女性としての素子』 であったと、、、



香織の自死と共に素子への想いから放たれた直人


彼は今、章子に心を預け、誰にも知られず 『大人の恋愛』 に浸っている。


年上の章子に甘えている訳ではないが、やっと 22歳になろうとしている若い彼には、これから先のことなど考えようもない、、、



どうにもならないことは、誰にでもある、、、



直人を自由が丘に残し、章子はその日のうちに京都に帰った。




        かたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむりかたつむり、、、つづく、、、かたつむり