「あら、早かったですね、今、処置が済んだところです。
夜勤の看護士がいるはずですから、
あ、救急の処置室ね、そっち。」
<はい、わかりました。> (救急・・。)
<すみません、お迎えに・・・?>
処置室のストレッチャーの上に年配の男性が。生気が無い。
そのとなりの診察台には、これまた年配の女性が。こちらも動かない。
看護士さんは・・いない。
(そう言えば、さっき、また救急車が入ってきたね。
えっとー、お電話は、女性からで、不幸があったのは、男性やったよね。)
とりあえず、女性の方に近づく。お、息をしていた。
「あ~、すみませ~ん、こちらに駆けつけてこられた奥さん、
びっくりなさったのでしょう、気を失ってしまって・・。」
<あ、看護士さん、お疲れ様です。そうだったんですか、びっくりしました。>
「私たちもです。あ、ちょっと、今忙しいので、
奥さんをお願いしますね。
点滴するほどでもないし、脈も呼吸も大丈夫。」
<他にご親族は。>
「それが、息子さん外国なんで、とても無理よ、間に合わない。」
<わかりました。>
そのまま待機。やね。
・・・・・・・・・・・・
<いかがですか、ご気分は、少しはよくなりましたか?>
「・・・ありがとうございます。私は・・・あーそうか、ここは、病院ですね。
あー、主人が・・・ああ。」
<もう少し、休まれますか、大丈夫ですか、お水でもお持ちしましょか。>
「・・いえ、大丈夫です、しっかりします。今、起きますから。
あなたは・・、(名札を見て、)そう、葬儀屋さんね。」
<失礼しました。そうです、お世話させていただきます。>
「よろしくお願いします。」
<お家にお帰りになりますか?>
「そうですね、先生にご挨拶して・・、帰ります。」
と、すたこら歩いて、部屋から出てしまった。
後をついて出ていくと、先生に声をかけている。
今の間に帰るご準備を、と目を離した途端、
奥さんがいない。・・・いない、何処へ。
<すみません、看護士さん、奥さんは?>
「あら、いや、さっき、じゃ、帰ります。って、
診断書を渡そうと今、はんこ押していたんですよ。
えー、どこへ行かれたんですかね。お手洗いじゃ・・。」
<いえ、それが、うちの職員も見に行ったのですが、おられません。>
まさか・・・、帰ります、って、自分だけ?
ショックでおかしくなってしまった?
うそー、ほとけさんを残して?お願いしますって、おまかせということですか?
・・・・これは、はじめてのケースやね。

✿ 打ちどころが悪ければ・・・。
「ご主人を亡くされて、奥さんそうとう、お疲れみたいやね。」
「ほんま、現役やったから、会葬者も多くて大変やったし。」
「なんとか、お式も済んで、火葬場まで来られたから、
あと、もう少しの頑張りやね。」
「細い身体やし、なんか食事ものどを通らないって・・。」
・・・・・・
「それでは、納めさせていただきます。
最期のお別れとなります。皆さま、ご合掌を願います。」
ドーン、ゴンッ、バチャッ ・・・!!
「あ、たいへん!奥さん!」
「あ、手が変な方向に・・・。
救急車、救急車!」
最期まで頑張ろうと、こらえていたが、無理だった。
疲れから貧血を起こし、とうとう倒れてしまった。
卒倒するかたちになって しかもコンクリートの柱にぶつけた。
貧血はすぐに回復したが、手を骨折。
火葬場の判断は、待つことができない、とのことで、
火葬は予定通り行い、奥さんの緊急処置を待って、
お骨上げは、ギブスをつけた奥さんも立ち会った。
