『現実と妄想の狭間 』の朱烙さんから素敵な頂き物3話目になります。
宣言通り、スタジオ(厨房)を占拠し自分より年上の男性2人を相手にキョーコは般若もかくやと言わんばかりのスパルタ指導を行った
口でダメなら体で覚えろ!
あまりの惨状を生み出す2人に対して、どこかネジがぶっ飛んだキョーコが「うふふふふw」と言わんばかりの笑みを浮かべ
少しでも指導から外れた行動をとろうものなら、キョーコが握った包丁を手のギリギリを通過するそして超絶な笑みを浮かべて
「敦賀さん(村雨さん)違いますよ?」
と、問答無用のダメ出しをするのだ
極限?の緊張と恐怖の中、蓮と村雨は必死に料理の基礎を叩き込む
その姿はまるで四面楚歌、五里霧中、ここで落ちたら後がない受験前の崖っぷち学生そのもの、珍しく年相応な焦りと恐怖を顔に張り付かせているのは初々しいがやってる事はお料理教室
「・・・・な、言ったろ?壊滅的料理の腕前とイメージ型崩れって」
「・・・・・・・このオファー失敗だったんですかねぇ・・・」
演技云々以前の問題な気がします。とポツリと呟く監督をローリィが呆れたように見た
「だから言ったろうが、料理人役に蓮(アイツ)だけは止めとけって」
「・・・痛感してます・・・後は京子くんに掛けるだけですね・・・」
肝の太い監督やローリィはこの光景を呆れたような、賞賛するかのような眼差しだが
肝っ玉の小さいスタッフ達は既にご退場願っている
料理ではなく、破壊活動となった余りの爆音にいちいち怯えるからだ
「宝田さん・・・まぁ、何とか形になってきましたかねぇ・・・・?」
「まぁ・・・一応な、調理シーンはなるだけインパクト重視でコマ撮り・・・最悪調理手元は代理だな」
コレばかりはどうしようも無い・・・
仕事に一切の妥協を許さぬ2人だったが、余りの惨状にその拘りは時として厄介かつ最大のそして非常に被害をもたらすモノだと気付かされたのだった・・・・
「京子・・・タイムリミットだ、今すぐ俺の車に乗れ・・・蓮お前もだ」
村雨君はマネージャーに指示を出している
そう言って、強制的にスタジオから蓮とキョーコを連れ出したローリィを村雨はどこか熱に浮かされる様子で見送った
「村雨君、大丈夫か?今すぐ仮眠を取りにホテルに行こう?」
マネージャーがそう言って、ローリィに渡された近くのホテルの鍵を見せるが村雨はそれには反応しない
京子の余りのスパルタに何処か可笑しくなったのか!?と、マネージャーが恐る恐る村雨を見てみれば・・・・
ほんのりと頬を染めて、ウットリと出入り口を見つめる村雨の姿
(え?ナニ?この・・・・いかにも恋する乙女的な顔は!?)
思わずマネージャが心の中で盛大に突っ込んだ
そんなマネージャーの気持ちなど露知らず・・・村雨がポツリと呟く
「すげぇ・・・・惚れたぜ・・・京子、イイ女じゃないかっ!!!」
演技もこの俺を叱り飛ばし・・・かつ、あの迫力!!あんな女こそ、いずれハリウッドデビューする俺の隣に相応しい!!
「敦賀が惰眠をむさぼってる間、俺は練習して京子を驚かせてやる!!!」
先程までの疲労困憊は何処へやら、俄然闘志を燃やす村雨に監督からの一喝が入る
「村雨君!!!ヤル気があるのは結構だが、役者は体調管理も仕事だ!!君はドラマの撮影に隈だらけの顔で臨むのか!?それに・・・君達と一緒に徹夜したスタッフの配慮もしたまえ」
目標が高いのは大いに結構だが、それなら周囲にもしっかりと気を配る事も学びたまえ
監督のその言葉に、村雨は言葉を失くしそのままマネージャーに引き摺られていったのだった・・・
それを見送って監督がポツリと呟く
「このドラマの成功は、京子君にかかってくるな・・・・」
この言葉に、誰もが調理台セットの惨状を見て『全くだ』と激しく同意したは言うまでもない
ローリィの自宅のゲストルームへ放り込まれた蓮とキョーコは、順番にシャワーを浴びて数時間の仮眠をとる事になった
同じ部屋にも関わらず『いいか?お前のせいで疲労困憊の最上君をこれ以上披露困憊させるんじゃねぇぞ!?』とローリィに釘を刺された蓮が、最大の妥協!と言わんばかりにキョーコを抱き締めたままベッドに入る
心底疲れ果てました・・・と言った様子のキョーコをぎゅっと出し決めながら蓮が恐る恐る尋ねる
「キョーコ・・・ご、ごめんね・・・?」
「いえ・・・久遠さんの壊滅的腕前は知ってますから・・・・振り出しに戻ってるのは予想外でしたが・・・・村雨さんも同レベルなのは想定外も良い所ですが・・・フフフ・・・」
「ご、ごめん・・・本当にごめん、今日から毎日練習するから・・・・」
どこか遠い目をしてカラ笑いをするキョーコを蓮が冷や汗ダラダラで謝罪する
「とにかく・・・少し眠らせ・・・て・・・・くだ・・・・さい・・・・」
「あ、うん・・・ゆっくり寝てね?キョーコ、お休み」
「おやす・・・み・・・なさ・・・」
最後まで言い終わる事なく、蓮の胸に擦り寄って寝息を立てるキョーコの額にキスをして蓮が満足そうに微笑む
最初は恥ずかしがって硬直していたキョーコが、こうやって自分にピッタリと密着して安心して眠る
その温もりが愛おしくてこの上ない幸福で、そんな自分にとてつもない幸せをくれるキョーコを蓮もまた包み込むように抱き締めて眠るのだった
5時間程の睡眠をとった2人が、スッキリと目覚め準備を整える
そして社長と共に撮影現場へと向かうのだが・・・
「蓮・・・お前、あの程度の練習で撮影が完璧に出来るなんざ思い上がってないよな?」
「そこまで馬鹿じゃありませんよ・・・俺のこの壊滅的腕前は一朝一夕でどうなるものでもないでしょうし・・・」
「前にしっかりキョーコちゃんに習ってて、何であそこまで後退するんだよ・・・」
「まさか料理人設定の2人揃って、この腕前だなんて・・・監督さんも想像してらっしゃらないでしょうしね・・・」
キョーコのその言葉に、蓮と社にローリィも深く頷く
「とにかく・・・今回の撮影に関しては、店の料理は先に全て最上君にしてもらう。お前達は最低最小の撮影のみで撮影するからな?」
野菜の下処理や、簡単な鍋振りだけは1日で叩き込め
ローリィにそう言われ、蓮が苦笑しながら頷き、キョーコと社も同じく遠い目をして笑うのだった・・・
現場に到着し、4人で移動している時だった
「おはようございます!!宝田社長ホテルありがとうございました!敦賀さん今日は頑張りましょう?京子さん!!ちょっと聞きたい事あるんですけどいいっすかー?」
素晴らしい速度で近付いた村雨が、勢いよくそう言ってキョーコの手を取るや否や厨房セットへと連れて行く
その姿に蓮の額に青筋が浮かび、それを見た社が怯え、ローリィが愉快そうに笑う
「流石・・・お前に続くダークホースだ、次から次に癖のある奴ばかり誑し込むな・・・」
「社長・・・感心するところ違います!!蓮!!顔っっ!!顔戻せっ!!!」
「・・・あの男、不破以上に厄介ですね・・・・」
どんなに姿を変えようと、どうやらキョーコに惹かれるタイプらしく蓮のイラツボを激しく刺激する
顔だけは紳士、背後は闇の帝王そのものの蓮を呆れたように見たローリィが肩を竦めて口を開く
「一人前に嫉妬する暇があるならお前もとっとと行きゃぁ良いだろうが、あの徹底スパルタであの程度の進化しかしてねぇんだ、理由なんざそれで十分だろうがよ」
同じ事務所を盾に堂々と張り付いとけ
ローリィのその言葉に、蓮が『それもそうですね?じゃぁ行ってきます』と、晴れやかな笑顔でキョーコと村雨へと突進していく姿を見送って、社が遠い目をして呟いたのだった・・・
「社長・・・キョーコちゃんにマネージャー付けて下さい・・・・」
俺1人であの2人の管理は無理です
その切実な要望に、流石のローリィも『カモフラージュでラブミー部所属させてるが、セバスチャンでも付けとくか』と呟いたのだった・・・
「京子、まだ監督達に挨拶してないだろう?先に練習を始めておくから君は挨拶をしておいで?」
挨拶は基本中の基本だよ?
紳士笑顔炸裂でそう言う蓮に、キョーコは顔を引き攣らせつつも『先に挨拶だけしてきますね?』とだけ言い残して監督達の元へと駆けて行った
それを見送り、あえて村雨をスルーして練習の準備に入る蓮
そんな蓮を見ながら、村雨が不満そうに口を開いた
「わざわざか弱い女の子にあぁも言わなくても良いんじゃないですかねー?元はと言えば、俺が京子さんを引っ張って行ったのが原因だし?」
「それでも、彼女が自分の口でハッキリとそれを君に伝えるべきだろう?ソレを失念しているのは彼女だよ、そしてそれを注意しなければ彼女は同じ過ちを繰り返すかもしれないだろう?」
だから君は気にしなくて良いんだよ?
ニッコリと紳士的笑顔で告げるが、村雨にはそれが『俺と彼女の問題に君がイチイチ口出しするな』と言われている気がした
「へぇ・・・優しくも厳しい、紳士の鏡デスネー」
「・・・褒め言葉として受け取っておくよ?ありがとう?」
「イイエ、ドウイタシマシテ?」
アハハハ
一見爽やかに見える2人の背後には、紛れもないハブとマングース、竜と虎
そんな2人の様子を、ローリィや監督は楽しそうに、そして社とキョーコは半泣きで見つめている
「社さん・・・・あそこまで付いて来て欲しいんですけど・・・」
「うん、キョーコちゃんの気持ちはよく判るけどね・・・ごめん、俺には無理・・・・」
「いやぁぁぁぁぁlll私1人であそこに戻るんですかぁぁぁぁ!?」
「いずれあの渦中に嫌でも巻き込まれるんだ、覚悟を決めたまえ『景子』」
監督のその言葉に、スイッチが入ったキョーコが困った顔をしてセットへと歩いて行く
それを見送り、監督が感心したように呟いた
「まったく・・・敦賀君と言い、彼女と言い恐ろしいよ」
役が憑くと言うより、役そのものの人物へと生まれ変わるんだからな
その言葉にローリィは満足そうに頷き、社と共に3人を見るのだった