[捧げもの] 私らしく ~Happy Birthday!! はるか~ | てんじゅのひとりごと

てんじゅのひとりごと

主にイケメン王宮の呟き、自身の創作のブログになります。私自身、妄想好きなので創作は暴走するかもしれませんが、そのあたりは温かい目で見て頂けると光栄です。最近はイケミュをきっかけにRush×300の結城伽寿也君にもハマっていますwww

本日は同じアラプリ様でリアルでも仲良くさせて頂いているはーちゃんことはるかさんのお誕生日です(*^▽^*)

はーちゃん誕生日おめでとーっ!!!

お祝いさせて頂くのは今回で3回目です(*v.v)。 
アラプリさんは結構いるはずなのに、不思議と身近で見つからないアラプリさん。
はーちゃんとは王宮のみならず他のイケシリでも結構推しが被っているという非常に共通点が多い貴重な姫様です♡ 

いつも仲良くしてくれてありがとう~♪

きっかけは、偶然見つけたはーちゃんのブログのお話に私が虜になってしまった事から(≧▽≦)♪
そこから交流を持たせて頂くようになりました///

ひょんな事から実際お会いする機会ができて、その後からリアルでもちょこちょこ(いや、だいぶだなwww)遊んで頂いています。

日頃の感謝も含めて今回もお祝いをしたいな~と思い、はーちゃんにリクを募ったところ今回は鷹司とのお話も読んでみたい!!という事でしたので、技量はまだまだなのですが鷹司で書いてみました。

リクエストに沿っているかは微妙なんだけど(笑)なるべく近づけてはみましたw

はーちゃんも桜が好きと言う事でお話に取り込んでみたんだけど、ちょっと私視点も含まれてしまってるのでどうだろう・・・(^▽^;)

鷹司の優しさだけでも伝わるといいな♡

影ちゃんは遥花ちゃんです。

ではどうぞ~(*^▽^*)

私らしく~Happy Birthday!! はるか~

4月・・・。
朝の冷え込みも緩み城の中庭の木々が芽吹き始めている。桜は可憐に咲き乱れ時折吹く風に乗って廊下に点々と舞い落ちる花びら。
膨大な量の書簡に目を通していた遥花は少し休もうと清々しい朝の日差しに誘われるように部屋の前の廊下に出て点々としている花びらを屈んで拾い手の中に納めて見つめる。

(もう桜の時期・・・)

城下に居た頃は川沿いの桜並木の下で一人桜を眺めていた事もあった。何も考えずただ風に吹かれて舞う花びらを見つめては散って行く花びらに少しの切なさを抱いて胸が苦しくなったりしていた事を思い出す。

「おい・・・」

感傷に浸っていると突然かけられた声にはっとして意識を戻される。振り向くと鷹司が後ろに立っていた。

「あ・・・鷹司。おはよう」
「おはよう。こんなに俺が側まで来ても全然気付かねえからどうしたのかと思った」
「ごめん。城下にいた頃の事を思い出していたの」

ふっと笑ってそう答える遥花の表情に何かを感じた鷹司は首を傾げながら呟いた。

「あまり良い事じゃなさそうだな・・・」
「え?何で?」

鷹司に言い当てられた事に驚いた遥花は声を上擦らせて視線を上げる。遥花のその反応で鷹司も悟ったのか優しい笑みを浮かべてポンポンと優しく頭を撫でた。

「お前はすぐ顔に出るからな。寂しそうな顔してた」
「鷹司には何でもお見通しだね・・・」
「当たり前だろ。今までどれだけお前を見てきたと思ってるんだよ」

互いに顔を見合わせて微笑み合う。

家光様の体調も安定してきたにも関わらず気まぐれな性格から影武者として遥花は今だに城に留まっていた。鷹司は家光様の正室第一候補であり遥花にとっては絶対に恋に堕ちてはいけない人だった。
生まれながらに正室になる事を義務とされていた鷹司。自分の意志とは無関係に連れて来られた大奥という窮屈な場所と自らの意志を持つ事すら許されず、また望んでもいないのに正室候補と言われる事に嫌気が差していた頃、家光の影武者として城に奉仕に上がった遥花と偶然出会った。
家光様を毛嫌いしていた鷹司に近づくなと拒絶された事もあった。しかし互いに距離を取ろうとすればするほど気になって目が離せなくなっていった。そしていつも助けられている事に気付き、やがてこの気持ちにも「恋」という名前が付いた。
庶民の人間と大奥の正室候補との恋愛は当然の事ながら御法度。周囲に知られてしまえば重罪になってしまう。その為に二人は人目を忍んで会わなければならなかった。


遥花と顔を見合わせた後、鷹司は開けっぱなしになっていた遥花の部屋の中にふと視線をやると、ある一点を見て目を見開いた。

「遥花、あれ全部書簡か?」
「うん。春日局様から今日中に目を通して置くようにって言われて・・・」
「だとしても多すぎねえか?」
「でも仕方ないよ、明日からの公務に必要な事だもん。でも本当はちょっと息苦しくなって今も廊下に出ていたんだ」
「公務の度にこんなに書簡が来るのか?」
「ん・・・さすがに今回はちょっと多いけど。でもだいたいこんな感じだよ」
「そうか・・・」

影武者としての遥花の頑張りには本当に脱帽する。望んでもいない場所で自分の意志など関係なく周囲からの押し付けで影武者として仕事を全うする遥花。何を糧にここまで出来るのか似たような境遇を持つ鷹司でも到底理解が出来ない。しかしだからこそそんな遥花を側で支えたいし力になりたいと思っている。

(明日、桜を見に連れて行ってやるか・・・)

そう思い鷹司が口を開こうとした時、ちょうど遠くの方から廊下の角を曲がってこちらに歩いて来る春日局様の姿に気付き口を噤んだ。向こうも二人の存在に気付いたのか不思議そうな眼差しを向ける。

「おや?こんな時間から上様のところに鷹司殿がいらっしゃるとはまた珍しいですね」

背後から聞こえたその声に遥花はびくっと肩を揺らし振り返る。

(春日局様っ!!)

予想だにしなかった遭遇に遥花はこの状況をどう言って誤魔化せば良いのか言葉が浮かばず近づいて来る春日局様の姿を凝視していると耳元で微かに鷹司が呟いた。

「ここは俺に話を合わせておけ」

鷹司がどうこの状況を切り抜けようとしているのか全く分からない。変に鷹司に振り向く事も出来ず表情も窺えない為に遥花の鼓動が違う意味の緊張でドキドキしている。すると頭上で急に鷹司の口調が冷ややかなものに変わる。

「家光に意見を乞いたい事があってたまたまここに来ただけだ」

突っけんどんな鷹司の物言いに胸がチクリとする。これは自分に向けられた言葉でも鷹司の本心でない事も頭では理解出来ても正直精神的には少し堪える。しかしその痛みを隠して自分も毅然とした態度を貫かなくてはいけない。

「おや、そうでしたか。お邪魔して申し訳ありません」
「いやもう用は済んだ。忙しいところ邪魔したな家光」
「いや、大丈夫だ。参考にしてくれ」
「ああ・・・」

二人の間に漂っていた空気が急速に冷めていく・・・。しかしこれもいつもの事。
本来の家光様と鷹司は犬猿の仲である為、お互いに人前ではそれらしく振舞わなくてはいけないという苦労が二人に付き纏う。心を通わせているからこそ辛い所でもある。

小さくなっていく鷹司の背中を遥花は寂しげな目で見つめる。鷹司もまたそんな遥花の視線を背中に感じながら小さな溜め息を零した。

(ただ遥花と一緒にいたいだけなのに城の中じゃそれすら叶わねえ・・・)

鷹司は頭を掻きながら自室に戻って行った。

鷹司の背中が廊下の曲がり角で消えると遥花も小さく溜め息をついた。

(もっと鷹司と一緒に居たかったな・・・)

「遥花、書簡に全て目は通したか?」

背筋が伸びそうになる程のキリっとした春日局様の声に遥花は面持ちを変えて振り返る。

「あと少しで終わります」
「分かった。読み終えたら茶室に行くように。家光様からの御達しだ」
「はい、分かりました」
「お前は仕事が早くて助かる・・・」

春日局様は眼鏡の弦をくいっと上げてふっと笑い、踵を返して廊下の先に姿を消した。

「はあ・・・残りの書簡も目を通さなきゃ。家光様何用かな・・・?」

いろいろな緊張が解けたのか大きく息を吐き出し伸びをする遥花。それから数刻、遥花は再び自室に籠って書簡に読みふけっていた。

全ての書簡を読み終えると時は未の刻を過ぎていた。

(あっ、こんな時間。家光様をお待たせしてしまってるかも・・・)

遥花は身なりを整えて茶室へと向かった。
茶室の前に着くと障子の向こうから楽しげな声が聞こえてくる。

(家光様と・・・この声は庄吾?)

意外な組み合わせに内心驚いた遥花は息を整えて襖越しに声をかける。

「遅くなって申し訳ありません・・・。宜しいですか?」
「ああ、入れ」

すっと襖が開くとニコっと微笑む庄吾が顔を覗かせる。

「どうぞ」

そう言って遥花を茶室に招き入れると廊下を見回してから襖を閉める庄吾に家光様は笑いを零す。

「そんなに神経質にならなくても良い。ここには誰も立ち入らないように春日局に話してある。遥花の幼馴染は面白い奴だな・・・」
「えっ?家光様何を庄吾から聞いていたのですか?」
「それは言えないな。であろう、庄吾?」

家光様がニヤリと笑みを浮かべて庄吾を見やるとその視線に庄吾も苦笑いを浮かべる。

「本人には内緒でお願いします」
「ちょっと庄吾っ!!家光様に何をお話したの?」
「大した話ではない。城下にいた頃の遥花の話を聞いていただけだ。遥花がそんなムキになるような事は聞いてないから安心しろ」
「でもとても楽しそうな笑いが外まで聞こえてましたよ?」

そう言いながら不貞腐れた顔で疑いの目を庄吾に向ける遥花。

「俺は何も言ってないって。家光様が大袈裟にしているだけだよ」
「私のせいにするのか?」
「・・・っ」

家光様が低い声でじろっと庄吾に睨みを利かすとそれに慌てた庄吾は黙り込む。家光様は庄吾のそんな反応が可笑しかったようで鼻で笑うと穏やかな表情に変わる。

「まあ良い。ところで遥花、御苦労だったな。かなりの書簡の量だと聞いた」
「はい・・・。でも家光様もお目を通されるんですよね?」
「その件だが明日の公務は遥花に任せる。書簡に目を通したのは遥花であろう?」
「えっ!!しかし家光様、今回の公務はその場に居るだけでは済みません。諸々の取り決めもありますし・・・」
「なるほど、時間もかかるというわけか・・・。ところで明日は遥花の誕生日ではなかったか?」
「あ・・・」

家光様に指摘され明日が自分の誕生日である事に今頃になって気がついた。

「遥花、お前もしかして忘れてたのか?」

目を丸くして呆れたような庄吾の声が飛んでくる。

「うん・・・。日々に追われて全然頭に無かったよ」
「では鷹司とはどうなっているのだ?」
「そ、それは・・・」

遥花は家光様の問いに口を噤む。絶対に知られてはいけない鷹司との仲。しかし家光様の目を誤魔化す事は出来ずある時、問い詰められた遥花は家光様にだけは正直に話していた。その後、家光様はおおっぴらにはしないが何かと手を回して鷹司との仲を取り持ってくれる事もある。
自身の体調も安定し本来ならもう影武者の御役目も解かれて当然なのにこうしてまだ城に自分が留まっていられるのは鷹司との事を知っている家様光のせめてもの計らいではないかと遥花は感じている。

「その反応でおおよそ分かる。忙しい時に呼び出して悪かったな。もう下がって良い」
「はい・・・。では失礼致します」

遥花は正座のまま恭しく頭を下げ茶室を後にした。

「庄吾、お前に頼みがある。頼まれてはくれぬか?」
「はい、あいつの為なら喜んで・・・」

遥花が去った後の茶室では密談が行われていた。


―その日の夜―

鷹司は窓から見える月をぼんやり眺めていた。空を眺めるのが好きな遥花も同じように部屋から見上げているのだろうか。遥花とは今朝会ったきりであれから自身もいろいろと立て込んでしまい、結局変な別れ方のまま今に至ってしまっていた。会おうと思えばすぐに会いに行けるのに、同じ場所にいても安易に会えないもどかしさに鷹司は駆られていた。

明日は遥花の誕生日。
祝ってやりたい気持ちはある。しかし噂では明日は丸一日、もしくはそれ以上かかるだろうと言われている公務に遥花が臨む事を庄吾から聞かされた。そんな重要な公務に遥花が耐える事が出来るのか鷹司は気が気ではなかった。

(何でよりによってあいつの誕生日なんかに幕府は大変な公務を入れやがるんだ。しかも遥花にそんな公務を任せて家光は何考えてるんだ・・・)

今すぐ部屋に赴いて抱きしめてやりたい、大丈夫だと言ってやりたい。頑張れと声をかけてやりたい・・・。思えば思うほど遥花への想いが募る。しかしそんなのは所詮自分への言いわけにすぎない。本当はただ遥花に会いたい・・・それが本心だ。
しかし自分の都合だけで遥花の元に押し掛けて迷惑もかけたくない。遥花の事だ、明日に向けていろいろな準備を重ねているはず。邪魔はしたくない。

(仕方ねえ、明日は諦めるか・・・)

鷹司の大きな溜め息は闇夜に溶けていった。

同じ頃、遥花も窓から月を眺めていた。
明日は重要な公務が控えている。そんな重要な公務を自分が果たせるのか不安で仕方ない。こんな時思い浮かぶのは鷹司の顔だった。
不安な時、寂しい時、辛い時・・・。気がつくといつも側に居てくれていたのは鷹司で精神的にも支えてくれていた。本当は今だって鷹司に会いたい、頑張れるような言葉が欲しい・・・。
でも、それはきっと自分の甘えだ。鷹司の優しさに甘えて与えられてばかりでいる。
前に「もっと俺を頼れ」と言ってくれた鷹司。でも頼りっぱなしでは申し訳ない。

(ここは自分で何とか乗り越えよう・・・)

そう遥花は決意して月明かりの下で明日の公務に必要になる書簡に再び視線を落とす。
明日の自分の誕生日の事などもう頭の片隅にも残っていなかった。


―翌日(遥花の誕生日当日)―

予想通り公務は困難を極めた。思うように議題も進まず論争ばかりで双方の意見を聞き総括する事にも頭を悩ませ時間ばかりが過ぎていく。準備を重ねた遥花でも限界が見えていた。すると側に控えていた春日局様が遥花の様子を察したのか公務の中断を切り出した。

「取り込み中に申し訳ありませんが、長丁場になりそうですのでここで一旦中断しましょう。さすがの上様にも疲れが見えますので一度中座させて頂きます。さあ上様参りましょう・・・」
「あ、ああ・・・」

公務の中断に戸惑いを浮かべながら遥花は春日局様に付き添われ広間を後にした。

(中断する事になってしまったのは私の力不足だ・・・)

公務を上手く仕切る事が出来なかった自分の不甲斐なさに肩を落としながら春日局様の後を歩いていると振り返った春日局様が口元を緩めて呟いた。

「ここまで御苦労だった。ここから先は上様が仕切られるそうだ」
「えっ?」

その言葉に遥花は目を見開いて驚きの顔を春日局様に向ける。

「公務が困難を極める事は当初から予測出来ていた。貴方の力不足ではない事は付け加えておく。これも上様のお考えからだ。しかし・・・あの方は何を考えていらっしゃるのか私でさえ図り兼ねる・・・」

そう言いながら春日局様は小さく溜め息をついた。
葵の間の前に着き襖越しに春日局様が声をかけると中から家光様の声がした。
その声に葵の間に入ると自分と全く同じ着物を羽織った家光様が庄吾に髪を結ってもらっていた。よくよく見れば今の自分と同じ髪型で庄吾に結ってもらっている。何が何だか分からない遥花は立ったまま目をパチパチさせていた。そんな遥花に気付いた家光様はニヤリと笑う。

「遥花、ここまでの務め御苦労だった。後は私が仕切る。そんな所に突っ立ってないで遥花も着替えろ。稲葉、遥花に召し物を・・・」
「はい、かしこまりました」

そう言って稲葉が部屋の奥から着物を持ってくる。その着物は城下に赴く時に着る小袖だった。それに気付いた遥花は首を傾げて稲葉に尋ねた。

「あの・・・この着物は・・・」
「家光様からの事付けですので、あちらで着替えましょう」
「・・・?」

遥花は稲葉に言われるままに隣の部屋に入り小袖に袖を通す。

(家光様が私と同じ格好になるのは分かるけど、何でまた私が城下に出かける支度をしないといけないんだろう・・・)

用意された小袖に着替えると鏡の前に座らされ今度は庄吾が髪を結い直してくれた。

(庄吾は何か知ってるのかな・・・)

鏡越しに髪を結い直している庄吾を見つめていると鏡の中の庄吾とぱちっと視線が絡む。

「何か言いたそうな顔してるけど、どうかしたか?」
「あの・・・何で庄吾がここに居るのかな・・・って」
「上様に公務に行った遥花と同じように髪を結ってくれって言われたんだ」
「そうなんだ・・・」

けろっとした顔でそう答える庄吾に裏を感じる雰囲気はない。

(庄吾が知らないのならこれは家光様の謀かな・・・)

あれこれ思考を巡らせていると背後から支度を整えた家光様の声に遥花はぴくっと肩を震わせる。

「今回の公務が困難を極めるのは分かっていた。遥花、お前に褒美をやる。今宵はゆっくりしてくるが良い」

遥花がその声に振り向くと家光様は意味深な笑みを浮かべながら見下ろしてきた。

「今宵って。家光様、それはどういう・・・」
「今日はお前の誕生日だろう?」
「あ・・・」

公務の準備に気を取られて遥花は今日が自分の誕生日だった事さえも忘れていたのだった。
遥花のはっとした表情に家光様は小さく溜め息を零した。

「熱心なのも考えものだな。遥花はもう少し肩の力を抜いても良い。庄吾、あとは頼んだぞ」
「はい、上様」
「家光様、お心遣いに感謝致します」
「ああ。今日は夜桜にはちょうど良いだろう・・・」

そう呟いた家光様は一瞬遥花に怪しげな笑みを向け、部屋の外で待機していた春日局様と共に広間へと向かわれて行った。

「さてと、こっちも終わったし。遥花、お前はここを動くなよ。ちょっと出てくる」
「え?」

ニヤリと笑って庄吾も葵の間を後にして行った。

(何なの?みんなして・・・)

家光様や庄吾の行動に疑問を抱いた遥花が首を傾げていると部屋の奥から稲葉が姿を見せた。

「では遥花様、私もこれで失礼致します」

恭しく頭を下げて部屋を出ようとした稲葉に慌てて遥花は声をかける。

「えっ、ちょっと待って!みんな何を企んでるの?」
「企むなど・・・。皆さん遥花さんの誕生日を祝いたいだけですよ」

稲葉はにこりと優しく微笑んでその言葉だけを残して部屋を後にした。

急に静まり返る葵の間。訳も分からないまま遥花は一人部屋に残されたのだった。

(これから何かあるのかな・・・)


その頃・・・。


窓辺に片膝を立てて腰掛け額に手を当ててうなだれる鷹司。先程から自身の口からは溜め息しか出てこない。

(遥花は大丈夫なのか・・・?)

遥花が務める今回の公務はかなりの難題で夜を徹するのではないかと庄吾から聞いている。よりによって何故こんな日に公務を被せてくるのかと憎みたくもなる。
心配する事しか出来ない自分に呆れかえっていると襖の向こうから慌てた様な庄吾の声がした。

「失礼します。鷹司さん、いますかっ?」

(ん?何かあったのか?)

鷹司は窓辺から立ち上がり、首を傾げて廊下を覗くと肩で息をしている庄吾が立っていた。

「そんなに慌てて何かあったのか?」
「鷹司さん・・・は、遥花が公務中に倒れて部屋に運ばれ・・・」
「っ・・・!!」

庄吾の話を聞き終わらないうちに鷹司は血相を変えて部屋を飛び出して行った。

「ちょっ・・・まあ、いっか。俺、大袈裟に演技し過ぎたかな」

庄吾は大股で廊下を駆けて行く鷹司の背中を見つめながら苦笑いを浮かべていた。


部屋に一人取り残され、急に手持ち無沙汰になってしまった遥花は窓から外を眺めていた。時は夕刻。日が沈み空は徐々に藍色から闇に包まれ始めている。ぼーっと遠くを見つめていると襖の向こうから荒々しい鷹司の声がした。

「おい。入るぞ」

(え?鷹司??)

遥花の返事も聞かず勢いよく襖が開かれ、息を乱して立ち尽くす鷹司と窓辺に座っていた遥花の視線が絡むと同時に互いに短い声を上げた。

「え??」
「はあ?」

互いに何事かと驚きに目を瞬かせ少しの沈黙が二人の間に流れた。

「ど、どうしたの鷹司・・・」
「それはこっちの台詞だ。何でお前・・・」

鷹司は後ろ手に襖を閉めながら途中で口籠る。すると突然前髪を掻き乱して顔を歪ませた。

「くそっ・・・庄吾の奴はめやがったな」
「え?どういう事?」

意味の分からない遥花はきょとんとしながら鷹司に歩み寄る。

「いや、よくよく考えれば家光が怪しい・・・。もしくは二人で仕組んだのか?」

顎に手を添えて一人ブツブツ呟く鷹司にじっと遥花が視線を送っていると、その視線に気付いたのか鷹司は顔を上げてふっと笑う。

「まあ・・・でも良かった、お前に何もなくて」
「え?私は何ともないよ、鷹司・・・」
「何でもない。気にすんな」

そう言って鷹司は遥花を腕の中に閉じ込める。急に部屋に来たかと思えば突然抱きしめてくる鷹司に戸惑いながらも遥花は久しぶりに感じる鷹司の温もりが嬉しくてそっと背中に腕を回す。思い返せば鷹司にこうして触れる事も暫く無かった。急に二人に訪れた甘い時間・・・。
抱きしめ合っていた腕が緩まると二人は顔を見合わせて照れながら微笑み合う。

「何か・・・久しぶりだね。この感じ・・・」
「言われてみれば確かにそうだな・・・」

至近距離で顔を見合す事も久しぶりで互いにまともに目も合わせられなかった。すると頬を僅かに赤らめながら鷹司が口を開いた。

「なあ・・・。これから連れて行きたい場所があるんだ」
「え?今から?」
「今じゃないとダメなんだ。それに・・・」
「それに?」
「たぶん・・・家光達があえてこうなるように仕向けたと思う」
「まさか・・・」

鷹司の腕の中で目を丸くする遥花。

「少し前に庄吾に『今回の公務は夜を徹する程難しいかも』とか『城下はもう桜が咲いてる』とかしつこいくらいに俺の前で呟いてたんだよな。今にして思えばあれもおかしい・・・」
「そんな事・・・。あっ、でも・・・」

遥花の脳裏にも数日前、書簡に追われていた日に家光様に呼ばれて茶室に向かった時の事が過る。

(確かあの時も家光様と庄吾は一緒にいたよね・・・)

「遥花?」

腕の中で悩ましげな顔をしている遥花の顔色を窺うように見つめる鷹司。

「でも確かにちょっと気になる時はあったかもしれない・・・」

神妙な顔つきで小さく呟く遥花に鷹司は吹き出すように笑った。

「お前、そんな真面目に考えるなよ」
「だって気になるでしょ?」

笑われた事に拗ねた遥花は口を尖らせる。そんな遥花を宥めるように鷹司はポンポンと優しく頭を撫でる。

「そんな事より早く行くぞ」
「え?これから城を抜け出すの?」
「ああ。それに今なら簡単だろ?」

意地悪く笑う鷹司に手を引かれて二人は夜の城下へと向かった。

普段なら閑散とするはずの城下も桜の時期は夜桜目当ての人が多いせいかこの時間でも賑わっていた。人波にはぐれないように鷹司がぎゅっと手を握ってくれている。

「こんなに人がいれば誰も私達に気付かないよね?」
「みんな桜に目がいってるから分からねえよ・・・。ってお前はそんな事気にするのか?」
「それは・・・少しは気にするよ・・・」

遥花がぼそっと呟いて俯くと繋がれていた手を急に鷹司が強く引っ張った。

「ちょっとこっち来いっ」

(え?鷹司怒ってる??)

少し荒々しい口調で言われた事に驚いた遥花は顔を上げ、手を引かれるまま鷹司に着いて行く。
連れて来られて場所は喧騒から少し離れた川沿いの土手だった。満開を過ぎた桜がハラハラと頭上から舞い落ちて土手沿いの道は艶やかに彩られていた。
鷹司は繋いでいた手を離して遥花に振り返る。その表情は何処となく寂しそうだった。

「確かにお前は家光そっくりで周囲の目を気にするのは分かる。でも今は城の外でお前は影武者じゃねえ。だから今は『遥花』でいて欲しい」
「鷹司・・・」

鷹司の言葉に張り詰めていた気持ちが軽くなったのか気がつけば自分でも分からないうち涙が頬を伝っていた。そんな遥花を見て慌てる鷹司。

「わ、悪い。お前を泣かせるつもりなんてなかったのに・・・」
「ごめん。何だか鷹司の言葉が嬉しくて・・・」
「お前は頑張り過ぎだ。たまには息抜きしないと潰れるぞ」

そう言った鷹司に急に抱き寄せられ胸に顔を埋められる。聞き慣れた鷹司の鼓動が心地良くて背中を擦ってくれる大きな手の感触にほっとする遥花。自分が自分らしくいられるのは鷹司の隣で鷹司の腕の中が自分にとって一番の場所なのだと改めて実感する。

「ありがとう、鷹司・・・」
「ああ・・・」

こんなありきたりな言葉でしか気持ちを伝えられない自分がもどかしい。それでも鷹司は嬉しそうに微笑んでくれる。

「それに今日、誕生日だろ?遥花と一緒に桜を見たかったんだ」
「だからさっき『今じゃないとダメ』って・・・」
「ああ。まあ元は大量の書簡に追われて花びらを手に廊下にいたお前を見て思い付いた事だけど、夜に城を抜け出せるなら夜桜を見る絶好の機会だろ?」
「確かに夜に城下を出歩くなんて普段なら絶対ないね・・・」
「しかもこんな堂々とな。まあ・・・少し癪だけど今回は家光に感謝だな」
「本当だね」

微笑み合う二人の頭上からハラハラと花びらが舞い落ちてくる。
舞い落ちてくる花びらを辿るように見上げるとライトに照らし出された桜の木々は日中とは違い幻想的な雰囲気を醸し出していた。
桜の木の根元に二人で腰掛け遥花は桜を仰ぎ見る。

「夜の桜ってこんなに綺麗なんだね。城下に居た頃は見れなかったから・・・」
「そうなのか?」
「だってこの時期のお茶屋は書き入れ時だもん。花見客で・・・」
「そっか。なら連れてきて良かった」
「散り桜って日中は儚く感じるけど、夜は不思議とそう感じないな・・・」

何気なくそう呟いた遥花の言葉に鷹司は一瞬眉を顰め、昨日花びらを手に遥花が廊下で佇んでいた姿を思い出す。

(だからあの時、遥花はあんな顔してたのか・・・)

どことなく寂しそうな表情を浮かべていた遥花が気にかかっていたが、今になってようやくその理由が分かったような気がした。

「夜の桜は儚さより華麗さの方が引き立つのかもな。でも最後までこうして綺麗なのは短い間でも精一杯自分を咲かせた証だろ?別に寂しく思う必要はないと思う・・・」

急に真面目になった鷹司の言動にきょとんとした眼差しを向ける遥花に恥ずかしくなったのか鷹司は顔を背けて前髪を掻き乱した。顔を見られたくなくて背けたものの、耳が僅かに赤くなっていて照れている事は遥花の目には一目瞭然だった。何気なく呟いた言葉にもちゃんと答えようとしてくれた鷹司の気持ちが嬉しくて遥花は鷹司の肩に頭をもたれる。

「そうだよね。また来年も再来年も桜はずっとここで咲き続ける事が出来るんだもん・・・」

二人の間に流れる沈黙も気にならないほどに舞い落ちる桜が綺麗で暫く二人は夜桜に見とれていた。時より僅かに吹く暖かい風に乗って沈丁花の香りも鼻を掠める。

(すっかり春の陽気だな・・・)

鷹司とこうして一緒に春を感じる事が出来る幸せに自然と頬が緩む。そんな遥花の笑みに気付いた鷹司は肩にもたれている遥花の頭に軽い口づけを落とす。それに驚いた遥花が慌てたように顔を上げると優しく微笑む鷹司の眼差しがあった。

「遥花、誕生日おめでとう」
「ありがとう、鷹司。今日は凄く幸せな誕生日だよ」

満面の笑みで言葉を返す遥花。

「良かった。俺も凄く幸せだ・・・」
「また来年も見に来ようね」
「ああ。またその時はこっそり抜け出さねえといけないけどな・・・」

鷹司は薄ら笑いを浮かべながら遥花の手に手を重ねきゅっと優しく包み込む。
二人が居る場所だけ時間がゆっくり流れていた。

自分が自分らしくいられる時は短いけれど今を精一杯楽しもう。

この桜のように・・・。

遥花は幸せな笑みを浮かべて桜を見上げていた。

~END~

はーちゃんこんな感じで仕上がりました///

お気に召して頂けたら嬉しいです。前置きがまどろっこしくてごめんなさい・・・m(_ _ )m

どうやって二人を城下に連れ出そうかと考え付いたのが家光様と庄吾に頑張ってもらおう!!と思ったらこんなまどろっこしい内容に・・・。

実際のところは春日局様も薄々は気付いているんですがwww どうやら知らないふりをしてくれているみたいです( ´艸`)

リクを頂く少し前から私の中でも鷹司熱が高まっていて、はーちゃんから鷹司か王宮アランのお話で♪との事でリクを頂いたんです。いつもの私なら迷わずアランを選ぶんですが、鷹司熱もあって捧げものとしては初めて鷹司で書かせて頂きました。でも和物は表現が特殊な部分があって難しいですね・・・σ(^_^;) 未熟でごめんなさーい・・・。

改めてはーちゃんおめでとう!!

これからも宜しくお願いします。またたくさん遊びましょ~( ´艸`)♪


お読み頂きありがとうございましたっ(*^▽^*)