ドナート:当時広く知られていたラテン語文法・統語論の教科書、アエリウス・ドナートゥスの「弁論の八つの部分について」と思われる。
ラピダリオ:12世紀フランスの司教マルボデウスが著した貴石の持つ医学的効用について論じた「宝石の書」と思われる。
プリーニオ:コモの生まれで起源79年にヴェスヴィオ火山の噴火で死んだ大プリニウスの「博物誌」のことで、地理、自然科学、発明、芸術等の幅広い古代の知識が書かれている。
ダバコ:ピエロ・ボルギ・ダ・ヴェネツィアの「新算術論」と思われる。
モルガンテ:詩人ルイージ・プルチの大衆的恋愛叙事詩「モルガンテ・マッジョーレ」と思われ、弟子にサライ(小さな悪魔)と名付けたのもこの本からヒントを得ている。
(レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯~チャールズ・ニコル著より)
こちらは1503~1504年にマドリッド手稿Ⅱに書き留めたと思われる図書目録。f.2vに73冊、f.3rに43冊で合計116冊。レオナルドはこの記録のほぼ10年前に書いた「アトランティコ手稿」f.210r-aにも38冊の書物を列挙しているが、そのうち29冊がここに再度リストアップされている。

マドリッド手稿Ⅱf.2v
箱詰めにして残しておく書物の覚書
ジョルジョ・ヴァルラの書
ラテン語の医事冊子
ロムレオ
外科術提要
聖書
リヴィウスの第1巻10分冊、第3巻10分冊、第4巻10分冊
モンタニャーナの小尿論
ブルレオ
アウグスティヌスの神の国
プリニウス
世界年代記
ピエロ・クレッセンティオ
大版の植物標本集
説教集
リオナルド・ダレッツォの鷲
アリストテレスの問題集
バッティスタ・アルベルティの建築論
フランス語訳のイソップ寓話集
軍事論
クワドリレージョ
エウクレイデスの幾何学
マッテオ・パルミエリの市民生活論
ゲタ・エ・ビッリア
ペロットの教本
ドナトゥスの伊羅文法書
フランチェスコ・ダ・ウルビーノのラテン語教本
ラテン語教本
聖ベルナルディーノ・ダ・シエナの著作
位置の記憶術
セリガットによる俗語版アルカビティウス
プリスキアヌスの文法書
中版の算術書
チリッフォ・カルヴァネオ
ルカヌス
韻文によるイソップ寓話集
愚者の船
色刷りの算術書
マスッチョの小品集
オヴィディウスの変身譜
透視法概論
アリストテレスの命題論
新修辞学
アティラ
サクソニアのアルベルトゥス
アルベルトゥス・マグヌスの哲学
フィレルフォの書簡集
アルベルトゥス・マグヌスの神秘論
聖アウグスティヌスの説教集
霊魂不滅論:フィチーノの「プラトン神学」と思われる。
板表紙本の文法教本
徳の花
キリストの受難
アルブマサル
馬体医事宝典
医事論集
書式集
聖イシドルスの年代記
中版の算術書
哲人伝
板表紙本の誘惑論
イソップ寓話集
オヴィディウスの書簡集
ドナトゥス
美食論
サンタ・マルゲリータの書
ステーファノ・フリスコ・ダ・ソンチーノ
ガスパリヌスの書簡集
ブルキエルロのソネット集
グエリーノ
羊皮紙本の語彙集
ガスパロ・ヴィスコンティ氏のソネット集

マドリッド手稿Ⅱf.3r
僧院の木箱に
表紙に頭蓋骨のついた機械工学の書
画稿用にスケッチした馬の書
バッティスタ・アルベルティの測定の書
水に関するフィロンの書
算術に関する古い小冊子
私の語彙集
ウルビーノの数学書
俗語によるエウクレイデス、つまり最初の3書
サセットの算術書
船舶のロープの切断法の書
ミラノの算術書、板表紙の大版
騎馬像の骨組み法
ミラノの手相論
アメリアの古書
チェコ・ダスコリスコトゥスの人相学
暦法
天球論
大気変化論
人間性情論
健康保持論
珍宝論
ダニエルの夢占い
ドメニコ・マッカニオの2冊の教本
小語彙集
正雅論
手相論
ソロモンの神殿について
プトレマイオスの宇宙論
コルナッツァーノの軍事論、これはグリエルモ・デ・パッツィがもつ
算術書、これはジョヴァン・デル・ソードがもつ
ファルラーリの書簡集
聖アンブロシウス伝
ルカ師の算術書:レオナルドの友人ルカ・パチョーリの「神聖比例論」と思われる。
ドナトゥスの文法書
象限儀考
円の求積法
アリストテレスの気象論
マンガネルロ
フランチェスコ・ダ・シエナ古物考
アマデウスの書
解剖の書
古代ギリシアやローマ時代の書籍、医学書やラテン語辞典に混じって、イソップ寓話集、錬金術、霊魂不滅論、透視法概論、誘惑論、美食論、手相論、健康保持論、夢占いといった本があるのが興味深い。
グーテンベルグが活版印刷を発明したのが1445年頃だから印刷技術もまだまだだった当時、本はかなり高価だったはずだ。116冊の蔵書というのは、レオナルドが相当な読書家だったということを示しているが、レオナルドがどんなことに関心があったのかを知るのにも良い指針となるだろう。