繊細な陰影が美しい頭蓋骨の断面図に「線a-mがc-bと交わるところに、あらゆる感覚の合流点がある。」とメモ書きされたRL19057rでは、レオナルドは諸感覚の合流点(=アリストテレスによって提唱された共通感覚)の位置を定めている。

ウィンザー解剖手稿 RL19057r
共通感覚は、他の諸感覚によって与えられた物事を判断するものである。古代の思想家達は、物事を解釈する人間の能力はひとつの器官に起因し、他の5つの感覚器官はすべての情報をこの器官に送るのだ、と結論づけた。彼らの述べるところでは、この共通感覚は頭部の中央の、感受と記憶の領域の中間に位置するという。
魂は共通感覚と呼ばれるこの器官に宿っていると考えられる。魂は、多くの者が考えてきたように体全体に広がって存在しているのではなく、完全にひとつの場所にあるのだ。なぜなら、もし魂が体全体に行きわたり、あらゆる場所に同等に存在するのであれば、複数の感覚を一箇所に集中させる器官をもうける必要はないはずだからである。共通感覚は魂の居所なのである。
図を見ると両目の中心の奥の方に、私達の魂があるということだ。
この紙葉の裏には1484年4月2日の日付(レオナルド32歳)とともに箇条書きのメモが記されている。
どの腱が眼の運動を引き起こし、その結果、片方の眼がもう片方の眼を動かすことになるのか?
しかめ面をすることについて。
眉毛を上下することについて。
眼を閉じたり開けたりすることについて。
鼻孔をふくらませることについて。
歯を閉じたまま唇を開けることについて。
唇を突き出すことについて。
笑うことについて。
驚くことについて。
人間の発生について記述せよ。子宮の内部で何が人間を発生させるのか、なぜ八ヶ月の胎児は生き延びることが出来ないのか記すこと。
くしゃみとは何か?
あくびとは何か?
病気になること。
痙攣。
麻痺。
寒さで震えること。
汗をかくこと。
空腹。
睡眠。
喉の渇き。
性欲。
この記述を読んでいるうちに、永遠の微笑みを描いたと言われる「モナ・リザ」が思い浮かんできた。レオナルドが「モナ・リザ」を描き始めたのは1503年とずっと後のことになるが、きっとこの頃の人体解剖で得た知識や人体の不思議に対する様々な疑問を下地としているに違いない。