ある日、洞窟の入り口を見つけた。初めて気づいた場所だった。入り口から中をのぞいてみたが、暗闇は奥まで続いていた。私は怪しげな洞窟に対して恐怖を抱きつつも、驚くような発見への期待で揺れていた。
クジラだ!
こいつは、どのくらい海で暴れていたのか?
どれだけマグロを追い、船を砕き、海面をうねらせてきたか?
ああ時間よ。この生き物が陸で死んでから、どれだけの王や民衆が移り変わったのか?むき出しの骨が山を支える柱になるとは…
これはBBCのドキュメント「モナリザの秘密」の洞窟の中でクジラの化石を発見するシーンの台詞。
アルプスの山々を歩きながらレオナルドは大地の研究を続けていた。このような研究成果は彼の絵画にも色濃く反映されている。

モナ・リザ(1502~1510年:ルーブル美術館所蔵)
モナ・リザの背景となっている風景には、地質学的なサイクルが明確に描かれて、そのごつごつした山の山頂付近から流れ始めた川が、土砂などを運びながら進み、やがて海に出る。レオナルドはその水が山に戻り再び山頂から流れ出し、このサイクルを永久に繰り返すと考えていた。


また、当時24歳と推定される肖像画のモデル「リザ・デル・ジョコンダ」は2人目の子供を妊娠しており、その手のむくみや妊婦特有の手の置き方をしているとも言われている。同じ時期にレオナルドは人体解剖を行い、女性や子宮の中の胎児のスケッチも描いている。
まずは胎児が形成される。妊娠してからの期間や体内での栄養によって、体の部位が出来ていく…。
レオナルドは体内で生命が誕生する仕組みに、強い関心を抱いていた。中でも特に興味を持っていたのが、生と死と再生のサイクルというテーマだったとマーティン・ケンプ博士は言う。
何かの番組で見たことがあるが、このように画像を連続してみると、もしかして本当に背景が繋がるように計算されて描いたのかも?と思えてくるなぁ。これも再生のサイクルの象徴なのか?

大地と人間の二重の再生サイクルを描いたモナ・リザは、レオナルドが観察を重ねた結果が凝縮された傑作なのである。