レスター手稿、プリニウスの温泉 | レオナルド・ダ・ヴィンチのノート

レオナルド・ダ・ヴィンチのノート

万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチの活躍を紹介していきます。

天体や水、地質について書かれた「レスター手稿」には、コモ出身の古代作家、大プリニウスによって記録された温泉についての記述がある。

ボルミオにはいくつかの温泉があり、コモから8マイルほど登ったところにはプリニアーナがある。この温泉は6時間ごとに干満を繰り返しており、泉水が満ちるときには二基の水車に動力を供給し、泉水が引くと干上がってしまう。
私は実際にこの目で見たが、水が引くと水位が非常に下がるため、まるで深い井戸の底の水を見下ろすような具合になる。

レオナルド・ダ・ヴィンチのノート-レスター手稿f.18r
レスター手稿f.18r

このように、レオナルドはしばしばアルプスの山を訪れては、地球についての調査・研究を行っていた。中でも特に興味深いものが化石とノアの洪水についての考察である。

フォリオ8vには「ノアの大洪水と海産貝類について」というタイトルがつけられ、海から遠く離れた北イタリアの高い山に海産貝類の化石があるが、レオナルドはそれがノアの大洪水によるものであるはずがないと結論づけている。
貝類は海に生息し、その歩みは水の外に棲むナメクジよりも遅い生き物であるから、旧約聖書が伝える40日間の出来事の間にアドリア海からモンテフェッラートまでの250マイルを移動することは出来ない。貝類はその重みゆえに海底に沈んでいるのに、今日では各地の山の上やマッジョーレ湖やコモ湖のような山間の湖にも見られるのである。
さらにレオナルドは、貝類の化石が死んだ後に波によって山まで運ばれてきたという説を否定している。というのも、化石層で見つかる貝(二枚貝)は殻が対になったままの完全な状態であるため、生きた状態で地中に埋もれたのであり、死んだ貝が波に運ばれて殻が破損した状態とは明らかに異なると、レオナルドは指摘する。そして、こうした現象についてレオナルドは、河川の濁流が地中海に注ぎ、地中海の水がジブラルタル海峡に阻まれることにより、砂利や土が沈殿して海底が隆起したことが原因であると説明している。(レスター手稿展図録より)

このレスター手稿は1505~1508年(53~56歳頃)に執筆されたもので、ローマの画家G.ゲッツィから、トーマス・コークのちのレスター卿が1717年に入手。1980年アーマンド・ハマーにより米国カリフォルニア・ハマー・コレクションに収蔵。その後、1994年ビル・ゲイツ氏が購入。現在はビル&メリンダ・ゲイツ氏個人所蔵となっている。