2019年新作映画レビュー『長いお別れ』。認知症の父との緩やかな別れと家族の物語 | 映画ライターもどきの本音ブログ

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映画ライターをしている20代後半の男です。好き勝手感想を書くために始めました。

 

【公開】
2019年(日本)

【原作】
中島京子

【監督】
中野量太

【キャスト】
蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山崎努、北村有起哉、中村倫也、杉田雷麟、蒲田優惟人、松澤匠、清水くるみ、倉野章子、不破万作、おかやまはじめ、池谷のぶえ、藤原季節、小市慢太郎

【あらすじ】

 

父の70歳の誕生日。久しぶりに帰省した娘たちに母から告げられたのは、厳格な父が認知症になったという事実だった。 それぞれの人生の岐路に立たされている姉妹は、思いもよらない出来事の連続に驚きながらも、変わらない父の愛情に気付き前に進んでいく。 ゆっくり記憶を失っていく父との7年間の末に、家族が選んだ新しい未来とは――。

 

 

 

75点

 

前作、湯を沸かすほどの熱い愛が中々苦手だった身としては、その苦手だった部分がだいぶ中和されていて素直に泣いてしまった部分もある。けど相変わらずなんかここは苦手だなぁという部分もあったり、ここは明らかにおかしくないかという部分もあった。トータルでは好きな映画。

前作で苦手だったのは登場人物がやたら健気に過酷な運命と戦ってます感を出して周りが見えなくなってたり極端な行動をとるところ。

宮沢りえが自分を捨てた母の家に石を投げ込んだり、ウザいくらい娘たちに愛情を向けたり、杉咲花が教室で下着姿になったり、登場人物が全員片親の家庭環境だったり、そして問題のラストの銭湯火葬とか、ちょっとこれは飲み込みづらいなみたいな要素が多かった。倫理的にも納得いかないし。


それに比べ今回は認知症の父とそれを支える妻と娘2人というドラマが描かれて、基本的にありそうなリアリティ範囲に収まっていて見やすい。ラスト、病気の人物が助からないと分かった時に周りの家族が本人に同意を取らずある行動をとるという展開が前作よりはるかに飲み込みやすく常識的で感動できな方法でとられていて、やっぱり湯を沸かす~の時はやり過ぎたと思っていたのかなと感じた。

もちろん竹内結子演じる長女がアメリカに住んでいたり、その夫の仕事が魚類の研究者だったり、その息子がアメリカ娘と付き合って浮気されていたり、次女が意識高い系のカレー屋台始めたり、なんか変な要素は今回も多かったけどまあ許容範囲。

アメリカにいるから両親と物理的な距離が生じるって設定はちゃんと活かしてたしね。

あと最大の違和感ポイントである竹内結子と蒼井優の親が山崎努っていうのは年上すぎないかって問題はまあしょうがないかと。あの演技を任せられるのは彼くらいか。仲代達矢だと重いし、北大路欣也だとボケそうにないし、橋爪功だと主演には弱いし。

さすがレジェンド、見事な演技でした。山崎努本人は死ぬまでボケることはなさそうだな(笑)。まさかのウンコつきのお尻をさらす体当たり演技まで見せてくれる。

もと校長先生までやったインテリで頑固で無愛想だけど優しくて、メリーゴーランド乗っている時の可愛さなんかは山崎努ぴったりだった。

そして前作より笑える場面が増えているのが良かった。蒼井優の早口メニュー説明とか、ハンカチ貰って「これ清潔なの?」って天丼で聞くところとか、ずっとうつぶせになるお母さんとか。そしてあのうつ伏せのままお父さんのところにやってきてうつ伏せになりながら再会を喜ぶところはさっきまで笑っていた分ウルっとくる。

本作のテーマは「家族って何だろう」ってことかな。父の認知症を通して家族が再結集し、娘たちはそれぞれの悩みに向き合っていく。長女は自分の家族との関係に悩み、次女はなかなか家族を持てず、父と違って立派と自分で思える道を選べずに成功しきれない。だからこそ父が素っ気なく言う「屋台の仕事は立派だ」というセリフは思わず泣けた。残された時間は短いけれど自分を受け入れてくれる父の存在が彼女に前を向かせてくれた。中村倫也とうまくいかなかったときにせんべい食いながら縁側で話すシーンも良かったな。まあ中村倫也が一回家族と親しげに遊んでるの見ただけで諦め早すぎる気もしたけど。

竹内結子の悪気はないけどなんか抜けてる旦那を演じた北村有起哉も見事な演技で無神経なセリフを長女にぶつけてくる。

でも彼のいうことも正論な時がある。「君の帰る家はここだろ」というのはまさにそう。長女はもう新しい家族を持っている。でもどこか両親みたいな夫婦になれていない自分に苛立ちを感じてもいる。でも結局完璧な家族なんてどこにもいないんだけどね。

父も自分で家族を作る前には実家の家族がいてボケてしまうとそっちに帰ろうとしてしまう。

ただ山崎努が奥さんに「あなたを家族に紹介したい」って電車内で言うところは愛の変わらなさに感動した。

メリーゴーランドでぐるぐる回る画はかつての家族の良き日だけの記憶を過ごし続けている父の脳内を表してるよう。相対性理論の本をさかさまに読んでる場面も父が過去に戻っていることを表していたのかな。

父はどんどん昔に戻っていくが、家族はそんな父を通して前を進めたというストレートにいい話だった。

不満点

・清水くるみの「人を元気づけたい」って夢がまさかチアリーディングを一人で朝っぱらからオフィス街でやるっていう雑な形で回収されるとは思わなかった。あんなんならもう一度出す必要なかったでしょ。

・蒼井優の元カレの冒頭のジャガイモ送るって伏線の回収の仕方も全然うまくないし感動しない。別に回収しなくていいって。

・ラストでアメリカ人と孫の会話で「長いお別れだね」なんて陳腐なセリフ言わせなくていいと思います。

・そして竹内結子は7年も経ってまだ英語話せないのか(笑)

などなど歪なところはあるけど、中野監督の苦手なところが減っていたので次回作はさらに楽しみです。

 

嫌いな前作。でもレベルは高いと思います。

 

 

原作