映画ライターもどきの本音ブログ

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映画ライターをしている20代後半の男です。好き勝手感想を書くために始めました。

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【公開】
2019年(アメリカ映画)

【原題】
FREE SOLO

【監督】
エリザベス・チャイ・ヴァサヘルヘリィ、ジミー・チン

【キャスト】
アレックス・オノルド、トミー・コールドウェル、ジミー・チン、チェーン・ランぺ、マイキー・シェイファー、サンニ・マッカンドレス、ディアドラ・ウォロウニック、ピーター・クロフト

 

【あらすじ】

アメリカ・カリフォルニア州にあるヨセミテ国立公園。アレックス・オノルドはそこにある970メートルの高さを誇るエル・キャピタンの岩肌を登るという生涯の夢を実現するため準備を始める。しかも、ロープなし・道具なしのフリーソロだ。他に類を見ない世界で最も偉大な功績と称されるこの挑戦は、究極の選択を突きつけてくる。成功か死か―。幾度の失敗と練習を重ね、2017年6月3日、人類史上最大の挑戦に挑む―。

フィルマークスより

 

 

88点

 

フリーソロリスト、、アレックス・オノルドを追った驚愕のドキュメンタリー。今年最恐&最狂の映画体験だったかもしれない。

逃げ場のない映画館で見るべき。他人が自分にしか迷惑かけずに勝手にやっていることなのに全然目が離せないし心臓がどんどんバクバクなっていく。ある意味暴力的だった。


冒頭からいきなりフリーソロしてるところを高さがしっかりわかる絶妙なアングルから見せてきてマジで股間がフワッてなった(笑)。

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!なんであんな状態で笑っていられるのか。

この映画は技巧がどうとかセンスがどうとかで成り立っているものとは違う。いつ死ぬかわからない超然的な人間を最後まで撮りきると決めた作り手たち、彼にかかわり続けると決めた周囲の人間の覚悟の物語だ。この度胸こそが作品を成り立たせている。

当たり前だけど劇映画って当然ジャッキーチェンやトムクルーズの作品だろうと安全対策してるし、危険な時は一旦やめる。ドキュメンタリーでもヤバい時は中断するだろう。

事故は基本的に万が一のもの。

でも『フリーソロ』はそれがない。アレックスが落ちて死ぬ可能性は万が一どころの騒ぎではない。エルキャピタンの難所ぶりから考えると死亡率80%くらいだったんじゃないか。

もう一回やったら死ぬかも。完成したことが奇跡の企画。

そして中途半端なスリルじゃ反応しなくなっているアレックスはもう病気の域だと思う。何かが欠けないとああはなれない。

しかし彼は人間的な魅力にも溢れている。フリーソロで死んでいった先人たちも写真見るだけで魅力的な人間なのが良くわかる。命がけの生活の人ってなんか変なフェロモン出てんのかな。

常にニコニコ穏やかで、岩を掴む時の手つきのように人間にも優しい。あんな生活でも可愛い彼女いるのも納得。物欲も低いし損得抜きで人と付き合える。直接あったら絶対魅了されるだろう。

でもそこで彼に肩入れすると地獄。会うたびにこれが最後かと思ってしまうんだろうな。まあアレックスだけじゃなくてほんとは皆次に会える保証なんてないんだけどね。そんな当たり前の恐ろしい事実を突き詰めて見せてくる。

撮影クルーだって今この瞬間がラストカットになってしまうことにおびえながら撮っている。こんなドキュメンタリーはそうない。作り手たちの葛藤も丁寧に映される。監督やカメラマンが目を背けてしまうって相当よ(笑)。

アレックスと友人になってしまってるもんな。あんなの耐えられないだろう。

それでもちゃんと岩肌にカメラ置いてドローン飛ばして、横からカメラマンロープでつるして余すところなく撮影している彼らには頭が下がる。そして見事に成功するアレックスにも。大胆であっけらかんとした性格ながら準備に余念がないのがかっこいい。

引きの絵、アップ、下、上からの映像の切り替え使い分けも素晴らしく、本当に息が詰まる。何度も呼吸を忘れ、手汗が止まらない。事後の映像を見せられているのにこれだから現場のクルーたちはいったいどんな気持ちだったのだろうか。絶対に居合わせたくない。


クライマックスには涙が出ていた。恐怖と感動が同時に攻めてくる。

しかしこの映画はあんまり爽やかには終わってくれない。彼が今後もやる気満々なのがラストカットでわかるから。アレックスは死ぬことでしかこの衝動から解放されないだろう。引退はできないと思う。周囲の人間含め、そしてアレックスのことを知ってしまった観客も少し巻き込んで、彼はまた修羅の道に進んでしまっている。

そんな恐怖と感動と狂気に満ちた稀有なドキュメンタリーでした。