これから書くことは、読書感想のようなものになるのでしょうが、先ずその前に、どのような著書であっても万人が賞賛するような著書はないということが大前提です。
人類が様々な価値、観念を抱いて、この地球という物理次元に生かされているわけですから、すべての人から賞賛を受けるということ自体がそもそも有り得ないのです。
従って、この書籍についても、批判する人、無関心な人がいて当然でしょう。
しかし、私はこの著者のような考え方をする経済人が増えれば増えるほど、日本の未来は経済に限らず明るくなると確信しています。
ここから本題に入りますが、巷間では「投資」に関する書籍が山と積まれており、そのどれもが内容には一理ありますので、それぞれ自分に見合った投資の仕方をそうした書の中から学べば良いと思っています。
では、私は何故に「投資家の思考法」を選択したのでしょう?
それに先立ち、著者をごく簡単に紹介しますが、著者は奥野一成氏で、農林中金バリューインベストメントメンツ株式会社の常務取締役兼最高投資責任者(CIO)となっています。
CIOという肩書で最初に思い浮かべたのが、「chief information officer」つまり「最高情報責任者」ですが、ここではもう一つの「chief investment office」即ち「最高投資責任者」なのですね。
さて、選択理由ですが、私のモットーに「本質」とは?「そもそも」…というのがありますが、この書籍が「本質」を突いた「投資本」であるからと判断したからです。
勿論、私とていつも四六時中、本質は?とか、そもそも…、と考えているわけではありませんが、自分でこれは重要事項だと思うものについては、その物事の「本質」を考えることが多いですね。
当然ながら、「本質」を探ったからといって、必ず何か「正解」のようなモノに辿り着く保証はどこにもない訳ですが、脳みそを使ってああでもないこうでもないと思考を巡らせることに意義があると思っています。
さて、投資の「本質」に関連して、奥野氏が述べるような「投機」には私も興味が湧いてきません。同氏も著書の中でいろいろと例を挙げて、それらを一刀両断の下に「投機」行為であると評していますが、私も基本的には氏の考えに同感です。
然しながら、これはこの書籍における中心的話題ではありません。まあ、いわば投資の定義付けに該当するようなものでしょう。
私が、1,500円ほどの対価を支払って、この書籍を購読した結果、その対価を大きく上回る価値を感じたのは、次の言葉に集約されます。
・「お金は『ありがとう』の対価である。
・「利益は顧客、社会が抱えた問題解決の対価である。」
書の中で、著者は「自己責任」という言葉を使いながらも「生きるということは、お互いが迷惑をかけあうと同時に、お互いが助け合うということでもある」と書き記しています。
また、今流行の「FIRE」(Financial Independence, Retire Early(経済的自立と早期リタイア))についても本質論に迫って、手厳しく批判しています。
資産形成の側面では、「あなたの資産形成にとって必要なものは『BS(貸借対照表)的発想』である」と述べて、PL(損益計算書)的発想を戒めています。(蛇足ながら、著者は決してPL(損益計算書)的発想を否定している訳ではありません。)
もう少し専門的な切り口では、「長期投資家の辞書に利確(利益確定)という言葉は存在しない」とまで言い切っており、同氏の投資に対するバックボーンが窺えます。
ここから先は、もし興味を持たれたのであれば、当書を購読していただくとしましょう。
要するに、奥野氏は非常に高い視点から投資を捉えた近年稀に見る投資家と言えるでしょう。