読んだ本のご紹介。一冊丸まるボディビルのノンフィクションです。2000年刊行のいささか古い本ですけど、古さは全く感じず、むしろひしひしと一流の選手たちの真摯な取り組みや息づかいが伝わってくる、読んでて面白く、ためになる内容でした。
今でも現役ビルダーの谷野義弘さんの活躍を中心に、読み進むに連れて、日本におけるボディビルの歴史も一通り網羅できる構成になっています。
いつもブログを楽しみにしていてこちらが勝手にブロ友だと思っている鈴木さんが、大ファンだと公言している須藤孝三選手の記述もあり。
「彼の身体は海外で『豹のようだ』と絶賛され、日本刀にもたとえられた」と描写されています。
須藤選手も「過剰すぎる筋量など意味がない。筋肉の大きさには美しいと感じられる限度があるはずです」と当時のステロイドビルダーに警鐘を鳴らしています。
ちなみに谷野さんはこの本の刊行後、長く続いた小沼敏雄一強時代に終止符を打ち、2000年(と2006年にも)に、念願のミスター日本の座を獲得しました。
それ以外にも、女子ビルダー、禁止薬物、高齢ビルダーにも、上記男子ボディビルディングと変わらぬ比率で章を割いています。
女子ボディビルディングは90年代から2000年代に掛けて活躍した高橋明美さん、西本朱希さんを通して描かれています。
男子ビルダーと変わらず、女子ビルダーも発達した筋肉を目指しているのですが、時には女性の領域を逸脱するほどに目指し、真摯に求めるほど生物学的な男女差にぶつかり、「女性らしさ」と向き合い、それを拒絶し、あるいは縛られながら筋肉を鍛えることになる。男子ビルダー以上に心理的葛藤や紆余曲折を抱えながら取り組んでいるのだなと、恥ずかしながら今回初めて思い至りました。
(主にアメリカで)薬物によって生理的には獲得できるはずのない筋肉を身につけた女子ボディビルダーに対し、当時の女子ボディビルの行き過ぎを踏まえた身体美を求めているのがフィットネスコンテスト。
日本では83年に女子ボディビルの日本選手権(ミス日本)が始まり、より女性らしさを求めたミス・フィットネス選手権が95年から新たに開始。本編にはありませんが、その後ビキニフィットネス部門やフィットモデル部門(昨年新設)の創設、本丸の「女子ボディビル」も女性らしさを加味した「女子フィジーク」へと名称が変わっていったのも、そういった流れの一環だと考えるとよく理解できます。
「生涯をかけて」という章では高齢ビルダーを取り上げ、刊行時にそのククりで登場している金澤利翼(かなざわとしすけ)さんは、20年経った今でもコンテストに出場している現役ビルダー。すごいです。
元々1960年、1963年にミスター日本に輝き、今も広島ボディビル界の重鎮でいらっしゃるけれども、そんな肩書きがなくても、80歳を過ぎて現役にこだわっている生き方は驚愕に値します。尊敬。
(受賞年は、いつもブログを拝見しているBIGTOEさんの資料を参照いたしました。)
年配トレーニーである私にとって、金澤さんの言葉は示唆に富むものが多く、自分への備忘録として引用しておきます。
「老いていく身にストップをかけようというような傲慢な気持ちではいかんのです。そういうんじゃなくて、この年齢になって、どこまでやれるか、自分という器がどれだけのものかということなんです。もう絶対に昔のような無理はきかないことはわかっていました。そうなると、老いたなりの新たな工夫が必要でしょ。そういう部分に挑んでみたかった。」
「無理をするとすぐに怪我をしてしまう。きついトレーニングをした夜は、身体が疲れとるのに神経が高ぶって眠れんようになる。この年で睡眠時間を確保でけんと、回復の面で致命傷になってしまいますからね。上手に、上手にトレーニングせにゃいけません。」
「敗れて悔いなしですよ。私が戦ったのは、みんな本当に素晴らしい若者ばかりだもの。生活のすべてをトレーニングに注いでがんばっている選手たちと同じステージに立てるなんて、感謝、感謝です。そうして毎年のように若い人たちと戦ったからこそ、今のわたしがあると思います。」
ご興味あれば、ご一読を~。