再会の果て 4
再会の果て 3 からの続きとなります。
母の元を出てから、1年半が経とうとしていた。
「母とはもう逢わない」そんな覚悟の元で家を出た私達だったが
気づけば月に1回の割合で逢っていた。
いや、逢っていたのは「私達」ではなく「私」。
仕事が終わると実家へ向かい、母の様子を伺う。
「お金はきちんと支払ってるの?領収書は?」
「払っているわよ。だから生活が苦しいんじゃない。
そんなに信用がない?」
「そういうわけじゃないけど・・」
「・・・だから食費の方が・・ね・・。」
毎回こんな会話が続き、帰る頃には数万円をおいていく。
「ありがとう。必ず返すから。」
「うん・・私のは最後でいいよ。それより金融会社にね。」
母の「返す」と言う言葉が薄っぺらい気がするのは気のせいだろうか。
離れてはみたものの、結局は何も変わっていないのではないだろうか。
本当に私のお金は生活費として使われているのだろうか。
そんな自問自答を繰り返しながら家に着く。
だからなのだろうか・・・
妹に「実家へ行った、お金を貸した」とは言えなかった。
自分達の生活をしながら母にお金を貸すということは並大抵のことではなく
私の財布はやはり500玉1枚のまま。
いつまで続くのだろうという不安に・・押しつぶされそうになりながらも
いつか苦労は報われるだろうと必死に日々を送っていた。
それは私の2●回目の誕生日だった。
「結婚しよう。」
突然の言葉に驚く私。
「えっ・・。」
「・・・・・・・・。」
「でも・・まだ私・・。」
「分かってる。お母さんのことだろ?借金を完済するまでは心配なんだろ?
だから来年の今頃をめどに結婚しよう。」
「っ・・・ありがとう。」
幸せだった。
苦労が報われた。そう思った。
「でもプロポーズがこんな場所で良かったのかな?」
「・・・・だから何度もここでいいのか?って聞いたの?」
「そうだよ。居酒屋はムードが無いだろうと思って
イタリア料理にしようと思ったのに。
だけどゆず、居酒屋行きたいって言うから。」
「だって焼き鳥食べたかったんだもん。
プロポーズするって分かっていたらそっちに行ったよ~。」
「ま、俺ららしくていいかもな。」
2人で笑う。
居酒屋からの帰り道、これからの未来に希望を語り合いながら
肩を寄せ合って歩いた。
幸せだ・・私は幸せだ・・
きっと母親も喜んでくれるだろう。
けれど母と妹から出てきた言葉は・・祝福の言葉ではなかった。
「結婚って・・そんなに急がなくても・・・。」
「お姉ちゃんが結婚するってことは家出て行くってことだよね?
それじゃ今の家なんて1人で家賃払っていけないからまた引越しか。
あ~~あ。」
「お母さん、結婚って言ってもすぐじゃないよ。
来年をめどにだから・・その頃ならお母さんの借金も完済でしょ?」
「・・・・うん・・まあ・・。」
「だから安心してよ。」
「でも・・やっぱり完済してからそういう話を聞きたかったっていうか・・。」
「えっ・・なにそれ?」
「なんだか落ち着かなくてね。」
「何?どうして自分のことばっかりなの!?
結婚するよって言ったらおめでとう!良かったねって言うのが親じゃないの?
2人とも自分のことしか考えてないじゃん!」
「だって・・お姉ちゃんは幸せかもしれないけど私はこれからが不安だもん。」
「私が結婚するってことは遠い話じゃないっていつも言ってたじゃない!
いつまでも私の後ろをついて歩くつもりなの?
いい加減にしてよ!」
腹立たしくて悔しくて・・泣きながら家を飛び出した。
話を聞いた時のあの2人の曇った顔。
笑顔で話をしていた私の表情が凍りつく。
結局最後まで2人は自分達のことばかりを気にしていた。
おめでとうって言葉を期待しちゃいけなかったの?
私は幸せになっちゃいけないの?
彼に電話で話をする。
電話口の彼は言葉もないといった感じだった。
「私は・・おめでとうって・・その言葉だけを望んでいたのに・・。」
「泣くな、これから幸せになるんだから。」
電話を切った後も私は
路肩に止めた車の中で泣き続けた。
悔しかった。
本当に悔しかった。
つづく。