再会の果て 3 | 脱!マイナス思考。~私の母はパチンコ依存症~

再会の果て 3


「もしもし?」


「あ、お姉ちゃん。お母さんよ。」


「どうしたの?」


「あ、うん・・・久しぶりにうちへ来ないかなって思って。

ご飯、一緒に食べようよ。」


「え?」


「お姉ちゃんの好きなモノ作って待ってるから。ね?」


「お金かかることしなくていいよ。」


「お母さんが大丈夫って言ってるんだから!ねっ?」


「・・・・・うん、わかった。」




電話があったことを妹に告げると

「お姉ちゃん1人でいけば?」と言われた。思ったとおりだ。


前回の入院で少しは母に対して心を開いた妹だが、

自分が元気になってしまえば母のことなどどうでもいいのだ。


休みの前日、仕事先から実家へと向かう。




「よく来たね。今ご飯よそうから座ってな。」


「・・・うん・・・。」




妹が入院した時に迎えに行った時、家の中は荒れ放題だった。

自分の身の回りにまで気がまわらない・・それは生活がギリギリだったことを意味する。


綺麗に整頓されている家の様子に私は胸をなでおろした。




「この前の休みなんかね、暇で暇でうちにあるカーテン全部洗ったんだから!」





母のテンションはどこか異常で、しばらくぶりの来訪者に興奮していると見てとれた。




「あっ、ハンバーグだ!」


「そうよ~お姉ちゃんが久しぶりに来てくれたんだから!

いっぱい作ったからね。」


「お金・・出すよ。無いでしょ?」


「何言ってるの!大丈夫だから。ほら、早く食べなさい。」





母の手作りハンバーグは私の大好物。

久しぶりの母の味を堪能し、私は昔の・・子供の頃に戻ったような気がした。




「やっぱり・・人がいるっていうのはいいねぇ・・。

1人で食べるご飯より2人で食べるご飯の方がずっとずっと美味しく感じるよ。」


「・・・・・・・・・・・。」


「○○(妹)は・・やっぱり来たがらなかったか・・。」


「・・・仕様がないよ。ああいう性格だもん。」


「・・・そうね。元はと言えばお母さんがバカなことをしたからだものね。」


「・・・・・・・・・。」




不思議な感覚だった。

母の問題はまだ何も解決していない。借金だって残っている。

妹の貯金をパチンコに使ってしまった母に対する怒りだってまだ残っているというのに

私は母に同情してしまったのだ。


私達がいなくなって・・母は毎日1人で食事をしている。

私達がいなくなって・・母は毎日話相手もいない。

あんなに狭かった実家がこんなに広く感じるなんて・・




「お母さん、今困ってることはないの?」


「えっ?・・・仕事を2つもやっているからね。体はキツイけど・・・

でも早く借金を返さないといけないから頑張るしかないよ。」


「本当にお金、大丈夫なの?」


「大丈夫だって。」


「どこか延滞してるんじゃない?ガスとか電気とかきちんと払ってる?

家賃だってあるんだし・・・消費者金融からの借金だけ払えばいいってわけじゃないんだよ。」


「ガスや電気は少しくらい待ってくれるから・・・。」


「やっぱり・・・それじゃダメなんだって!

催促がきてから払うようじゃダメなの!口座から引き落としにしてないの?」


「引き落しの口座と給料の口座が別なんだよね。」


「・・・・・・・・・・・・・。」




私はサイフから2万円を抜くと母へと手渡した。




「!お姉ちゃん、ダメ!」


「だって、公共料金延滞してんでしょ?」


「大丈夫だから!」


「大丈夫だからじゃないよ・・いつもそうじゃない。先を見てるの?お母さん。

このお金で延滞している分を払っちゃいな。」


「・・・でも・・。」


「本当は困ってるんでしょ?こんなハンバーグ作ったり妹のパジャマを買ったり・・

そんな余裕が無いことくらい分かるんだよ。」


「・・・・・・・・・・・。」


「お金が無いのに・・大丈夫、大丈夫って。

また金融会社から借りるから大丈夫って意味なの?」


「違うよ!」


「あのね、はっきり言ってその辺は信用できないの。

大丈夫って言って、陰で借金を増やすくらいなら私に言って!

勘違いしないでほしいのは毎回来られても私だって困る。私もお金が無いんだから。

本当に・・どうしようもなくなった時は・・・ね・・?」


「・・・・・お姉ちゃん・・・。」


「このお金、あげたわけじゃないよ。貸したんだよ。

金融会社からの借金も、親戚からの借金も払い終えたら返してちょうだい。

それならいいでしょ?」


「分かった・・必ず返すから。ありがとうお姉ちゃん・・・。」




サイフにお金を多く入れておいて良かった。

いつもなら・・500円しか入っていないのだから。

またしばらくは金欠の日々が続くだろうけれど母に比べればどうってことはない。


あの綺麗に整頓されている家を見た時に、少しの希望が見えた気がしたのだ。


母がまだパチンコを続けているのならカーテンを洗濯したりはしないだろう。

整頓をする時間があるのならパチンコへ行っているだろう。


今回は今までとは違う。

このお金は・・立ち直ろうとしている母へ貸したお金は

いわば「生きたお金」になるだろう。と。



帰宅の際




「今の家はどの辺なの?ここから近いの?」


「それは言えないよ。

お母さんが借金を返し終わるまでは言えない。

早く返して、また一緒に住もう?ね、お母さん。」


「・・・・・・たまには遊びに来てね。」


「分かったから・・じゃあ行くね?」




車のミラー越しに母の姿が見える。

いつまでも見ている母の姿を見ているうちに涙がこみあげてきた。




「泣き顔で家に帰りたくはない・・我慢しなきゃ・・。」







翌朝、お弁当の準備をしていると妹が気づく。




「あれ?このハンバーグ・・・。」


「これ?昨日お母さんが持たせてくれたんだよ。

たくさんあるからお弁当にも入れるね。」


「・・・・ふ~ん・・・・。」




まんざらでもなさそうな妹。


少しずつでいい・・少しずつでいいから昔のような関係に戻っていけたら・・

そう思っていた。




つづく