万博の建設費が、また増額されたようです。建設地の夢洲の軟弱地盤等を鑑みれば、これ以上に膨らむことも予測されますね。
「万博建設費また増額、2350億円に 当初の1.9倍、国民負担重く」
吉村大阪府知事や横山大阪市長なぞは、政府や自民党に責任を押し付けようとしていますが、彼らは万博協会の副会長(理事)です。当事者以外の何者でもないんですけど、もう無茶苦茶です。
で、一月ほど前になりますが、9月24日に開催された「アップデート大阪」主催の『大阪・関西万博、大阪IRカジノをめぐる現状と課題』と題した勉強会に参加してきました。
今は廃刊となっている元大阪日日新聞記者の木下氏と前自民党大阪市議会議員の川嶋氏が講師です。
木下氏の説明や資料を中心にポイントを紹介させていただきます。。
万博については、マスコミ報道にも頻繁にあるように、そもそもパビリオンの建設工事等が開幕に間に合わないのでないかという危惧があります。またパビリオン建設に手を上げる国が数か国に留まるなら、中止を選択すべきという意見も多くあります。
他には、これは後述のIRと共通しますが、場所が大阪湾に浮かぶ人工島の夢洲ですので、ルートは2本しかないという物資や人の輸送上の問題です。ピーク時の来場者は20万人超と試算されているようですので、バス運行や大阪メトロの負荷は相当なものになります。
(あくまで多くの来場者があった場合ですので、閑古鳥が鳴くような来場数であれば杞憂に終わるかもしれませんが・・・・)
また、地震等の災害に際しては、避難はほぼ不可能です。したがって、夢洲での避難場所確保が必要となりますが、どうなんでしょう。避難物資含めて、検討されているのかな?
IR(カジノを含む統合型リゾート施設)については、さらに多様でかつ深刻な問題があります。
・9月5日発表の実施協定骨子案では、初期投資額が1兆800億円から1兆2700億円に膨らんでいますが、約1000億円も増えているのに、収支計画が見直されていません。この点について、木下氏は非常に強調されていました。さらには、この初期投資額の内、5500億円が金融機関からの融資となっているのですが、収支計画の見直しが行われていないような雑な投資計画に対して、本当に実行されるのかと疑問を呈していましたね。
・IR事業者の解除権の行使期間が3年も延期されています。結果、3年延期で2026年9月末となりました。これは何を意味するかというと、大阪市がインフラ開発を続けても、今から約3年後まで、IR事業者は違約金なしで逃げられるということです。
前大阪市長の松井一郎(吉村大阪府知事だったかな?)は、確か「IR事業者も、準備等で既に多額の投資を行っているのだから、そう簡単には撤退しない」というような趣旨の発言をされていたように記憶していますが、既にIR事業者は多額の投資を行っているのでしょうか?
IRのための地盤や交通インフラ等の整備については、IR業者負担ではなく、万博開催にかこつけて万博のための費用で済ませようとしているのが、彼らの策略です。(彼ら維新は嘘ばっかっり)
・当初は外国人観光客が中心とされていたと思うのですが、どうやら対象は日本人が中心のようですね。IR開業により、当然ギャンブル依存症が多発する蓋然性は高まるし、結局、日本人の所得を外資中心のIR事業者が吸い上げることになります。
で、次の指摘は木下氏の推測ではありますが、オンラインギャンブル合法化の圧力が高まるのではないかという懸念です。
つまり、こういうことです。
IR事業者(MGM)はおそらく、開業したとしても、当該IR業務で十分なリターンが望めるとは考えていないのではないか。十分なリターンが得られなかった原因を大阪市等の説明不足だとして、政府や大阪府市に難癖をつけて、オンラインギャンブル合法化への圧力をかけてくるのではないか。
オンラインギャンブルについては、ご存知な方も多いと思いますが、短時間で莫大な金額がベットできるので、これを合法化すれば、身を崩す若者が続出するのは必至です。非常に怖い話ですね。
・話は戻りますが、夢洲の軟弱地盤は、万博同様大きな問題です。液状化と地盤沈下ですね。
軟弱地盤改良のための費用(IR設備建設のためには、万博会場以上に高度な地盤改良が必要)については、今のところ債務負担行為として大阪が788億円の債務負担行為をとる予定です。大阪市が起債して、IR事業者からの賃料収入で返還するそうですが(35年間の契約)、想定以上の費用増加はほぼ確実だと思われますので、追加される地盤改良費用については、大阪市負担になるのではないのでしょうか。いくらかかるか想像もつかないので、公金負担として、夢洲の地盤同様に泥沼状態に陥りそうです。いや泥沼どころか底なしでしょう。さらには、南海トラフ地震の発生を考慮すると、これも非常に恐ろしいリスクです。
以上から、大阪府市の費用負担が青天井で膨らんでいくように考えます。そうなれば、維新が言うように、IRからの税収等で大阪の福祉充実など絵に描いた餅で、むしろ公共サービスの低下は免れないでしょう。また、IR事業者が撤退すれば、夢洲の開発につきこんだ膨大なインフラ整備費用は回収されず、負の遺産だけが残るということにも成りかねません。
海外のIR事情に詳しい静岡大学の鳥畑教授はこう述べています。
「大阪IRの焦点 第1部 経済効果の実現性」
「長期的には、世界はオンラインの方向に大きく流れが変わっている。ヨーロッパはオンラインのギャンブルがどんどん増え、アメリカも2018年にオンラインのスポーツ賭博が合法化されて一気に広がった。イギリスはオンラインカジノが地上型の4倍。地上型が大きく減っている。ギャンブルはスマホを通じたオンラインの世界にどんどん移行していく。ハコモノに巨額の投資を行い、絶えずリノベーションを迫られ地上型カジノはもうからないと事業者が投資家に説明している。(長期化の展望のない)ビジネスに大阪の運命を預けていいのかという話になる。」
政府の認可も下りて、正規の手続き的にはなかなか止めらそうにありませんが、維新の首長が不祥事等で辞職したり、維新人気が急降下すれば、一縷の望みはあるかと思料します。
それに向けて、言論活動を盛り上げていくしかないですね。もちろん、反対の署名も一定の効果はあるかと思います。
最後に、万博の建設工事等の工期の遅れ、また費用の増大、これらぐたぐたは、誰が元凶なのでしょうか。維新は政府等に責任を持っていきたいようですが、これは会場を軟弱地盤の人工島である夢洲に決めたことに尽きるのではないでしょうか。それを提案しねじ込んだのは、おそらく、当時大阪府知事の松井一郎でしょう。このような文書が残っています。
松井一郎の策略としては、IRの場所を夢洲で行うことを前提に、そのためのIR業者や府市の負担を極力小さくさせるために、まず万博を夢洲で開催することにして、地盤改良や交通インフラを整備する。そのためのごり押しだったのでしょう。松井一郎の意見書が出るまでは、大阪の鶴見緑地や服部緑地等6か所が候補でした。当然人工島の夢洲は入っておらず、急に夢洲に決まった経緯からすると、あまりに不自然です。
松井一郎はIRのために税金は一切つぎこまないと宣言してましたからね。結果的には、彼は地盤改良費用については港湾事業会計からの支出で一般会計からの支出ではないと屁理屈を述べていますが、ちゃんちゃらおかしい説明です。このような説明は、明らかに大阪市民を愚弄するものです。(大阪府市民はもっと怒れよ!)
とにかくも、拙ブログで何度も主張しているように、維新による(検証なしの単なる思い付きが多い)公立高校廃止とセットの私学授業料無償化やライドシェア等各種施策が実行されれば、大阪ひいては我が国の衰退をより一層加速させると言っても過言ではないでしょう。
先の大阪市長選挙で勝利した、維新の会の横山市長が大阪市議会の議員定数削減案を提出するとのこと。
「最後は決める、ということは必要」大阪市議会・議員定数の削減案 横山市長
また、武富士スラップ訴訟に手を染めていた弁護士でもある吉村知事は、既に2度も否決されているいわゆる大阪都構想の議論再開に言及しています。
統一地方選挙での維新の躍進により、かなり危険な状況になってきましたね。
これらの維新の政策を評価する〇カも多いです。
東国原英夫氏 大阪都構想は「後10年以内に実現」 維新の議員定数削減を好感
お分かりでしょうが、大阪市議会で議員定数を削減すると、維新議員の占有率が上昇するのは必至です。彼らは経費削減を主張していますが、そんな額は微々たるもので、要は維新による独裁政治を完成させたいだけです。
2015年の1回目のいわゆる大阪都構想が議論された時に上げたブログですが、ナチスの台頭とダブりますので、再度、貼っておきます。
<最悪のシナリオ>
(ブログより抜粋)
「もっと怖いのが、マスコミの姿勢です。現在の関西のマスコミは、何故か、橋下徹及び大阪維新の会に対する批判が少ない。これが日本全体のマスコミの姿勢となれば、それこそ恐怖政治、全体主義の完成です。」
「最後は決める、ということは必要」大阪市議会・議員定数の削減案 横山市長
また、武富士スラップ訴訟に手を染めていた弁護士でもある吉村知事は、既に2度も否決されているいわゆる大阪都構想の議論再開に言及しています。
統一地方選挙での維新の躍進により、かなり危険な状況になってきましたね。
これらの維新の政策を評価する〇カも多いです。
東国原英夫氏 大阪都構想は「後10年以内に実現」 維新の議員定数削減を好感
お分かりでしょうが、大阪市議会で議員定数を削減すると、維新議員の占有率が上昇するのは必至です。彼らは経費削減を主張していますが、そんな額は微々たるもので、要は維新による独裁政治を完成させたいだけです。
2015年の1回目のいわゆる大阪都構想が議論された時に上げたブログですが、ナチスの台頭とダブりますので、再度、貼っておきます。
<最悪のシナリオ>
(ブログより抜粋)
「もっと怖いのが、マスコミの姿勢です。現在の関西のマスコミは、何故か、橋下徹及び大阪維新の会に対する批判が少ない。これが日本全体のマスコミの姿勢となれば、それこそ恐怖政治、全体主義の完成です。」
令和4年6月2日に経団連のシンクタンク「21世紀政策研究所」から、「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」と題する報告書が発出されました。
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2022/0630_09.html
報告書はこちらで読めますので、分量多いですが全文目を通されることをお勧めします。http://www.21ppi.org/pdf/thesis/220602.pdf
ポイントとしては、日本経済の長期低迷の主要因を構造改革の不十分さや遅れとはせず、「需要不足と中間層衰退」にあると分析しているところです。そして、積極財政への転換もうたわれています。
経団連は不況期において財政出動を求めることは普通にあったので、その延長線上とも言えるかもしれませんが、報告書の第6章は特に経済政策として注目に値し、かつ経団連としては異色の論ではないかと思いますので、そこを取り上げます。
第6章は、鈴木章弘研究員による「公共部門の賃上げ・雇用増、競争政策の強化」とする論稿です。何点か抜粋します。
・分配構造を踏まえた政策の方向性
「あるべき政策の方向性として、「完全雇用」の実現にダイレクトな財政政策が考えられる。GDP の総額を増やすのではなく、望む人すべてに良質な雇用が提供されるよう、財政政策を展開する。」
「国家の運営においては、それ以外にも、各種公共インフラ、科学技術開発、社会保障、教育、農林水産業等、様々な重要政策分野がある点には留意する必要がある。それら重要政策分野については、十分な規模で安定的に財政出動を行わなければならず、多少インフレ率が高まろうとも、これらの分野への政府支出は継続して行うべきである。むしろ逆にこれらの分野への投資をおろそかにすれば、特定の財・サービスの生産にボトルネックが生じ、インフレを引き起こすこともあり得る。」
・公共部門の賃上げ・雇用増による効果
「公共部門の賃上げ・雇用増が、マクロの分配構造にどのような影響を与えるかみて
いく。図表 6-2 の左側はその直接効果を図示しており、支出側 GDP では政府消費が拡大し、三面等価であるため、分配側 GDP も増加し、その内訳としては主に雇用者報酬が増加することになる。これは公務員等の一般政府に直接雇用されている場合の給与は、GDPの支出側では政府消費として扱われるためである。また、一般政府による直接雇用でない場合であっても、公共部門においては、給与等の処遇に対して政府が影響を及ぼすことができるため、雇用者報酬の増加につなげやすい7。公共部門の雇用者の多くは中間層に位置すると考えられるため、ここでの賃上げ・雇用増は、直接的な効果だけでも、中間層の底上げに寄与する。」
「さらに、公共部門の賃上げ・雇用増には、間接的な効果もあり、それが「完全雇用」の実現にも寄与する。その効果を図示したものが図表 6-2 の右側である。所得が増えた公共部門の雇用者は消費額を増やすと考えられるため、民間消費も増加する。また、民間消費の増加が持続的なものとみなされれば、民間企業は積極的に投資を行い、事業拡大を目指すようになる。こうした動きは支出側の GDP の拡大としてとらえられる。」
「三面等価であるため、分配側 GDP も増加する必要があるが、ここでも雇用者報酬が最
も増加すると考えられる。というのも、公共部門において賃上げ・雇用増が措置されていれば、民間部門の雇用者にとっては、公共部門に転職するインセンティブが強く働くからである。民間部門の事業主が労働移動を阻止するためには、雇用者の処遇改善が不可欠であり、結果として雇用者報酬の引き上げに迫られるのである。また、公共部門の雇用は多種多様であり、必要とされるスキルや賃金水準も幅が広い。そのため、公共部門において全般的に賃上げ・雇用増を措置すれば、民間部門においても幅広い層で賃上げがなされると期待される。」
・人事院の給与勧告の見直し
「「公務員の給与は民間に合わせる」という従来の発想を大きく変え、「公務員を含めた公共部門の雇用者が、豊かな生活を送るために必要な給与水準を目指す」という考え方に移らなければならない。公共部門雇用者の多くは中間層を構成することが期待され、さらに賃上げの効果は民間部門にも波及する。つまり、公共部門雇用者の生活水準は、広く国全体の中間層の生活水準の基礎となると言える。」
・公共サービスのアウトソースの見直し
「アウトソースに偏重してきたこれまでの傾向を見直し、公務員として直接雇用するとともに、十分な処遇を与えていくべきである。」
・非正規公務員の正規化
「公共部門の賃上げとして、まずは低所得の非正規公務員を正規雇用に転換させていくべきである。2020 年時点で、国・地方の非正規公務員は 83 万人いるが、これだけの人数の処遇が大幅に改善されれば、民間消費も押し上げが期待される。さらに、様々な職種の公務員の処遇が改善することになるため、民間も幅広い分野において、雇用流出を防ぐための処遇改善に迫られることになる。」
・公的価格の引き上げ
「岸田政権は、公的価格の見直しとして、2021 年度補正予算において、看護師・介護士・保育士・幼稚園教諭等の収入引き上げを措置した。これらの職種は公共部門に属するものであり、極めて重要な役割を担っているが、賃金をはじめとする処遇が低いとされてきた。こうした社会的に重要な仕事を担っている人々こそが、中間層として位置付けられ、豊かな国民生活を送れるようにすべきであり、岸田政権の方向性は望ましいと言える。ただしその具体的な内容については、さらに踏み込んだものとすべきである。」
ただし、これら公務員数の増加と給与上昇、非正規公務員の正規化等で危惧されるのが、中小企業から公務員への人材流出です。慢性的な人手不足下においては、人材流出と採用難、それを抑制するための給与上昇で経営が成り立たなくなる企業が続出すると推測されます。
つまるところ、一定の給与水準が確保できない、また休暇取得や社会保険等の福利厚生に関して法令を守れない企業は、従来にも増して存続できなくなるということです。
企業倒産等により失業者が増えることが想定されますが、考えようによっては、多くのブラック企業が存続の危機に立たされることになるため、むしろ社会全体にとっては最適化が進むとも言えます。また、簡単にはいかないでしょうが、失業者は公務員として採用すればよいのです。
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2022/0630_09.html
報告書はこちらで読めますので、分量多いですが全文目を通されることをお勧めします。http://www.21ppi.org/pdf/thesis/220602.pdf
ポイントとしては、日本経済の長期低迷の主要因を構造改革の不十分さや遅れとはせず、「需要不足と中間層衰退」にあると分析しているところです。そして、積極財政への転換もうたわれています。
経団連は不況期において財政出動を求めることは普通にあったので、その延長線上とも言えるかもしれませんが、報告書の第6章は特に経済政策として注目に値し、かつ経団連としては異色の論ではないかと思いますので、そこを取り上げます。
第6章は、鈴木章弘研究員による「公共部門の賃上げ・雇用増、競争政策の強化」とする論稿です。何点か抜粋します。
・分配構造を踏まえた政策の方向性
「あるべき政策の方向性として、「完全雇用」の実現にダイレクトな財政政策が考えられる。GDP の総額を増やすのではなく、望む人すべてに良質な雇用が提供されるよう、財政政策を展開する。」
「国家の運営においては、それ以外にも、各種公共インフラ、科学技術開発、社会保障、教育、農林水産業等、様々な重要政策分野がある点には留意する必要がある。それら重要政策分野については、十分な規模で安定的に財政出動を行わなければならず、多少インフレ率が高まろうとも、これらの分野への政府支出は継続して行うべきである。むしろ逆にこれらの分野への投資をおろそかにすれば、特定の財・サービスの生産にボトルネックが生じ、インフレを引き起こすこともあり得る。」
・公共部門の賃上げ・雇用増による効果
「公共部門の賃上げ・雇用増が、マクロの分配構造にどのような影響を与えるかみて
いく。図表 6-2 の左側はその直接効果を図示しており、支出側 GDP では政府消費が拡大し、三面等価であるため、分配側 GDP も増加し、その内訳としては主に雇用者報酬が増加することになる。これは公務員等の一般政府に直接雇用されている場合の給与は、GDPの支出側では政府消費として扱われるためである。また、一般政府による直接雇用でない場合であっても、公共部門においては、給与等の処遇に対して政府が影響を及ぼすことができるため、雇用者報酬の増加につなげやすい7。公共部門の雇用者の多くは中間層に位置すると考えられるため、ここでの賃上げ・雇用増は、直接的な効果だけでも、中間層の底上げに寄与する。」
「さらに、公共部門の賃上げ・雇用増には、間接的な効果もあり、それが「完全雇用」の実現にも寄与する。その効果を図示したものが図表 6-2 の右側である。所得が増えた公共部門の雇用者は消費額を増やすと考えられるため、民間消費も増加する。また、民間消費の増加が持続的なものとみなされれば、民間企業は積極的に投資を行い、事業拡大を目指すようになる。こうした動きは支出側の GDP の拡大としてとらえられる。」
「三面等価であるため、分配側 GDP も増加する必要があるが、ここでも雇用者報酬が最
も増加すると考えられる。というのも、公共部門において賃上げ・雇用増が措置されていれば、民間部門の雇用者にとっては、公共部門に転職するインセンティブが強く働くからである。民間部門の事業主が労働移動を阻止するためには、雇用者の処遇改善が不可欠であり、結果として雇用者報酬の引き上げに迫られるのである。また、公共部門の雇用は多種多様であり、必要とされるスキルや賃金水準も幅が広い。そのため、公共部門において全般的に賃上げ・雇用増を措置すれば、民間部門においても幅広い層で賃上げがなされると期待される。」
・人事院の給与勧告の見直し
「「公務員の給与は民間に合わせる」という従来の発想を大きく変え、「公務員を含めた公共部門の雇用者が、豊かな生活を送るために必要な給与水準を目指す」という考え方に移らなければならない。公共部門雇用者の多くは中間層を構成することが期待され、さらに賃上げの効果は民間部門にも波及する。つまり、公共部門雇用者の生活水準は、広く国全体の中間層の生活水準の基礎となると言える。」
・公共サービスのアウトソースの見直し
「アウトソースに偏重してきたこれまでの傾向を見直し、公務員として直接雇用するとともに、十分な処遇を与えていくべきである。」
・非正規公務員の正規化
「公共部門の賃上げとして、まずは低所得の非正規公務員を正規雇用に転換させていくべきである。2020 年時点で、国・地方の非正規公務員は 83 万人いるが、これだけの人数の処遇が大幅に改善されれば、民間消費も押し上げが期待される。さらに、様々な職種の公務員の処遇が改善することになるため、民間も幅広い分野において、雇用流出を防ぐための処遇改善に迫られることになる。」
・公的価格の引き上げ
「岸田政権は、公的価格の見直しとして、2021 年度補正予算において、看護師・介護士・保育士・幼稚園教諭等の収入引き上げを措置した。これらの職種は公共部門に属するものであり、極めて重要な役割を担っているが、賃金をはじめとする処遇が低いとされてきた。こうした社会的に重要な仕事を担っている人々こそが、中間層として位置付けられ、豊かな国民生活を送れるようにすべきであり、岸田政権の方向性は望ましいと言える。ただしその具体的な内容については、さらに踏み込んだものとすべきである。」
ただし、これら公務員数の増加と給与上昇、非正規公務員の正規化等で危惧されるのが、中小企業から公務員への人材流出です。慢性的な人手不足下においては、人材流出と採用難、それを抑制するための給与上昇で経営が成り立たなくなる企業が続出すると推測されます。
つまるところ、一定の給与水準が確保できない、また休暇取得や社会保険等の福利厚生に関して法令を守れない企業は、従来にも増して存続できなくなるということです。
企業倒産等により失業者が増えることが想定されますが、考えようによっては、多くのブラック企業が存続の危機に立たされることになるため、むしろ社会全体にとっては最適化が進むとも言えます。また、簡単にはいかないでしょうが、失業者は公務員として採用すればよいのです。