過日取り上げたランドール・レイの『MMT入門』翻訳ブログ前半の重要点である部門別アプローチについて筆者なりのまとめを記します。
部門別アプローチでは、経済を3部門に分けて考えます。国内民間部門(家計と企業)、国内政府部門(地方政府と中央政府)、海外部門(海外の家計、企業政府のすべて)の3つです。
ここでの重要な会計原則は、赤字を計上している部門の赤字を合計すると、黒字を計上している部門の合計と等しくなるという原則です。ウィン・ゴドレイによる先駆的な研究に従い、この原則を次のような単純な等式の形で表すことが出来ます。
国内民間部門バランス+国内政府部門バランス+海外部門バランス=0
この等式においては、すべての部門が黒字にはならないとことがお分かりいただけるかと思います。なお、赤字、黒字のフローが蓄積されて累積債務、累積債権というストックになります。
世間一般においては、政府赤字は回避すべきもの、あるいは黒字に転換すべきものと考えられています。
しかし、政府部門の黒字は、つまり政府支出を税収等歳入が上回っているような状態においては、他部門である民間部門や海外部門が赤字(経常収支が黒字)でないとバランスしないことになるため、貿易等によって大きな経常収支黒字を計上しない限り、民間部門が赤字になることを意味します。
ここで、政府部門の累積赤字よりも、民間部門の累積赤字の方が、経済現象としてはるかに危険性が高いことを認識する必要があります。これは、日本の大きな累積政府債務が、何も問題を引き起こしていないにも関わらず、2007年のサブプライム危機の前においては、米国政府の赤字が縮小し、民間部門、このケースにおいては主に家計ですが、多大な債務超過に陥っていたことを鑑みれば、理解いただけるかと思います。
(下グラフ参照 ランドール・レイの『MMT入門』翻訳ブログ3より転載)
レイは次のように述べています。
<残念なことだが、政策立案者は、ちょうどクリントン政権の財政黒字から誤った教訓を得たように、――本当は民間部門の赤字支出を反映したものにすぎないというのに、この国家予算黒字を素晴らしいものだと思ってしまったのだ――今や2007年以降の世界金融危機からも誤った教訓を得ようとしている。この危機はひとえに政府部門の浪費によって引き起こされたのだと、彼らはなんとか自分に言い聞かせた。そしてこれが世界中の数多くの国々で(特にアメリカ、イギリスで)みられる、財政赤字を減らすための支出削減を(より頻度は低くなるが、増税についても)要求する声につながったのである。
忘れてはならないのは、民間部門が赤字となり民間債務が累積するような局面では、税収等政府部門歳入が増加、一方、政府は景気対策を行う必要がなく、財政は引き締められ政府部門が黒字(あるいは赤字が縮小)となりますが、その直後にしばしば経済ショックが起きているということです。