【古事記】第二十五回 須勢理毘売の嫉妬 | 真の国益を実現するブログ

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※岩波文庫「古事記」を参考に書いています。


前回は「【古事記】第二十四回 沼河比売への求婚」でした。


●須勢理毘売の嫉妬

□原文


又其神之嫡后、須勢理毘賣命、甚爲嫉妬。故、其日子遲神和備弖、【三字以音】自出雲將上坐倭國而、束裝立時、片御手者、繋御馬之鞍、片御足、蹈入其御鐙而、歌曰、

奴婆多麻能 久路岐美祁斯遠 麻都夫佐爾 登理與曾比 淤岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許禮婆布佐波受 幣都那美 曾邇奴岐宇弖 蘇邇杼理能 阿遠岐美祁斯遠 麻都夫佐邇 登理與曾比 於岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許母布佐波受 幣都那美 曾邇奴棄宇弖 夜麻賀多爾 麻岐斯 阿多尼都岐 曾米紀賀斯流邇 斯米許呂母遠 麻都夫佐邇 登理與曾比 淤岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許斯與呂志 伊刀古夜能 伊毛能美許等 牟良登理能 和賀牟禮伊那 比氣登理能 和賀比氣伊那婆 那迦士登波 那波伊布登母 夜麻登能 比登母登須須岐 宇那加夫斯 那賀那加佐麻久 阿佐阿米能 疑理邇多多牟敍 和加久佐能 都麻能美許登 許登能 加多理碁登母 許遠婆

爾其后、取大御酒坏、立依指擧而、歌曰、

 夜知富許能 加微能美許登夜 阿賀淤富久邇奴斯 那許曾波 遠邇伊麻世婆 宇知微流 斯麻能佐岐耶岐 加岐微流 伊蘇能佐岐淤知受 和加久佐能 都麻母多勢良米 阿波母與 賣邇斯阿礼婆 那遠岐弖 遠波那志 那遠岐弖 都麻波那斯 阿夜加岐能 布波夜賀斯多爾 牟斯夫須麻 爾古夜賀斯多爾 多久夫須麻 佐夜具賀斯多爾 阿和由岐能 和加夜流牟泥遠 多久豆怒能 斯路岐多陀牟岐 曾陀多岐 多多岐麻那賀理 麻多麻傳 多麻傳佐斯麻岐 毛毛那賀邇 伊遠斯那世 登與美岐 多弖麻都良世
 
如此歌、即爲宇伎由比【四字以音】而、宇那賀氣理弖、【六字以音】至今鎭坐也。此謂之神
語也。



◆訓み下し文

又其の神の嫡后(おほきさき)須勢理毘売命、甚(いた)く嫉妬(うはなりねたみ)為(し)たまひき。故(かれ)、其の日子遅(ひこぢ)の神和備弖(わびて)、出雲より倭国(やまとのくに)に上り坐(ま)さむとして、束装(よそひ)し立たす時に、片御手は御馬の鞍に繁(か)け、片御足は其の御鐙(みあぶみ)に蹈み入れて、歌ひたまひけらく、

ぬばたまの 黒く御衣(みけし)を まつぶさに 取り装(よそ)ひ 沖つ鳥 胸(むな)見る時 はたたぎも これは適(ふさ)さず 邊(へ)つ波 そに脱(ぬ)き棄(う)て そに鳥の 青き御衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも 此(こ)適はず 邊つ波 そに脱き棄て 山県(やまがた)に 蒔きし あたね舂(つ)き 染木(そめき)が汁に 染(し)め衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも 此し宜(よろ)し いとこやの 妹(いも)の命(みこと) 群鳥(むらとり)の 我(わ)が群れ往(い)なば 泣かじとは 引け鳥の 我が引け往なば 泣かじとは 汝は言ふとも 山処(やまと)の 一本薄(ひともとすすき) 項傾(うなかぶ)し 汝が泣かさまく 朝雨(あさあめ)の 霧に立たむぞ 若草の 妻の命 事の 語言(かたりごと)も 是(こ)をば

とうたひたまひき。爾に其の后、大御酒坏(おおみさかづき)を取り、立ち依り指挙(ささ)げて歌ひたまひけらく、

八千矛の 神の命や 吾が大国主 汝こそは 男(を)に坐(ま)せば 打ち廻(み)る 島の埼埼(さきざき) かき廻る 磯の埼落ちず 若草の 妻持たせらめ 吾(あ)はもよ 女(め)にしあれば 汝を除(き)て 男は無し 汝を除て 夫は無し 綾垣の ふはやが下に 苧衾(むしぶすま) 柔(にこ)やが下に 栲衾(たくぶすま) さやぐが下に 沫雪(あわゆき)の 若やる胸を 栲綱(たくづの)の 白き腕(ただむき) そだたき たたきまながり 真玉手(またまで) 玉手さし枕(ま)き 股長(ももなが)に 寝(い)をし寝(な)せ 豊御酒(とよみき)奉らせ

とうたひたまき。如此(かく)歌ひて、即ち宇伎由比(うきゆひ)為て、宇那賀気理弖(うながけりて)今に至るまで鎮まり坐す。此れを神語(かむがたり)と謂ふ。



・嫉妬―「うはなり」は後妻のことで、前妻を「こなみ」という。前妻が後妻を妬むところから、嫉妬を「うはなりねたみ」という。
 
・まつぶさに―すっかり、十分に。

・沖つ鳥 胸見る時―水鳥が胸毛をつくろうときのように。
 
・はたたぎも―袖の端をたぐり挙げて見ること。
 
・辺つ波―辺つ波の寄するそこに。
 
・そに鳥の―青の枕詞。
 
・山県に―山の畑。
 
・あたね舂き―茜の根をついてその染め草の汁で染めた衣。

・いとこやの―親愛なる。
 
・項傾し―うなだれて。

・朝雨の―霧の枕詞。
 
・霧に立たむぞ―嘆息が霧のように立つだろう。
 
・若草の―妻の枕詞。

・打ち廻るる―「打ち」は次の「かき」と共に接頭語
 
・磯の埼落ちず―もれずに。
 
・汝を除て―あなたをさしおいて外に。
 
・綾垣の―綾織物の壁代がふわりとしている下で。
 
・苧衾―からむしでつくった寝具のやわらかな下で。
 
・寝をし寝せ―おやすみなさいませ

・神語―歌曲上の名称。

■現代語訳


 これに大国主神の正妻である須勢理毘売命は酷く嫉妬した。これに夫である大国主神は困ってしまい、出雲から大和に上ろうとして、旅装を整えて出発する時に、片手は馬の鞍にかけ、片足はその鐙に踏み入れて、妻に次のお歌をお詠みになった。

ぬばたまのように 黒い御衣をすっかり着飾り 沖の水鳥のように首を曲げ 袖の端をたぐり挙げて 似合うかどうか 自分の姿を見ると これは似合わない 岸辺に寄せる波のように さっと脱ぎ捨てて かわせみのように 青い御衣を すっかり着飾り 水鳥のように首を曲げ 袖の端をたぐり挙げて 似合うかどうか 自分の姿を見ると これは似合わない 岸辺に寄せる波のように さっと脱ぎ捨てて 山の畑に蒔いた 茜の根をついて 染め草の汁として 染めた衣を すっかり着飾り 沖の水鳥のように首を曲げ 袖の端をたぐり挙げて 似合うかどうか 自分の姿を見ると これは良く似合っている 親しき私の妻よ 群鳥のように 私が皆と一緒に行ったなら 泣かないと 引かれ鳥のように 私が皆に引かれて行ったなら 泣かないと お前は言うが 山の一本のすすきのように うなだれて お前は泣き嘆くことが 朝の雨のように 霧となるだろう 若草のような 妻よ これを事を伝えよう

これに后は、大御酒坏を取って、立ち近づいてそれを捧げて、

八千矛神 大国主神よ あなたは男であるので いろいろ巡り 島の先々を巡り 磯の先ももれることなく 若草のような 妻を持っていらっしゃることでしょう 私は女であるので あなたの他に 男はいません あなたの他に 夫はいません 綾絹の帳の ふわふわとしている下で からむしの布団の 柔らかな下で 楮の繊維で作った白い布団のざわざわした下で 泡雪のような若い胸や たくづののような白い腕を そっと触れたりなでたりして 玉のような手を枕にして ゆっくりおやすみなさいませ この御酒を お召し上がり下さい

と歌った。すぐ盃を交わして、互いに首に手をかけあって今に至るまで鎮座なさっている。これも神語という。




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