ランドパワーとシーパワー、日本の戦略、過去と未来 | 真の国益を実現するブログ

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あらゆる面から安倍内閣の政策を厳しく評価し、独自の見解を述べていきます。

1.ランドパワーとシーパワー

 ランドパワーとは、大地からの恵みが豊富で、陸続きに他国と国境を接し、軍隊は陸軍が中心の国です。ロシア・支那・ドイツ・フランスなどが代表例です。シーパワーとは、海上交易から富を得て、海軍が中心の国です。アメリカ・イギリス・日本などが代表例です。

2.江戸時代から大東亜戦争までの日本

 江戸時代の日本は、鎖国していました。長崎の出島を通してオランダとは交易していましたが、全般的に内向きな時代でした。しかし、貨幣や商業、農業が発展し、ほぼ国内で自給できる経済体制を築いていました。200年以上も平和な時代を維持することにも成功しました。自国の大地からの恵みで生きていたという点で、江戸時代の日本はランドパワーでした(他国と陸続きに国境を接していないため、ランドパワーの特質を全て持っていたわけではありません)。普通は、ランドパワーの国は陸続きに国境を接する他国と緊張状態にあり、平和が長続きしない特徴があるのです。独仏関係やタイとミャンマーの関係を思い浮かべればわかります。

 ランドパワーなのに平和・・・そうした日本に訪れた転機は、黒船の来航です。明治維新があり、富国強兵をめざし、列強から様々な技術や物資を輸入します。輸入の原資として、生糸などを輸出して外貨を獲得するようになりました。

 明治期の日本は、帝国憲法がプロイセン憲法を範としたように、内政と陸軍はドイツ(ランドパワー)に学びました。一方で、海軍はイギリス(シーパワー)に学びました。日露戦争後、日本は満洲と朝鮮に利権を得て、ランドパワーとしての性質も強めていきます。土地(南満州鉄道)から得られる利益を評価していたのです。

 列島国家である日本は、本来ならばシーパワーで発展していくべきでした。土地の恵みではなく、海の恵み(海上交易と漁業)で生きていくのです。しかし、当時の日本は産業が生糸など軽工業しかなく、輸入に必要な外貨を十分には獲得できていませんでした。これが、日本が朝鮮や満洲など大陸に活路を見出さざるをえなくなった理由です。当時は農業の生産性も低かったので、膨大な人口を養うには大陸に広大な足場をもって農産物を確保する必要があると考えられたのです。明治以降、日本の人口は増加し、終戦時には内地だけで7000万人の人口がいたのです。

 国家としての戦略も、一枚岩ではありませんでした。日露同盟によって満洲の利益を守ろうとする勢力(ランドパワー重視)もいれば、日英同盟を中心に米英(シーパワー)との関係を第一に考えた勢力もいました。日露戦争後から終戦まで、日本の戦略はランドパワーとシーパワーでまた裂きになって、国論の統一ができていなかったのです。それは、北進と南進で意見が分かれたことにも表れています。

 結果論的にいえば、満洲など大陸にこだわった結果、支那とのイザコザに巻き込まれて支那事変を招き、さらに破滅を招く対米開戦に至ってしまったわけです。しかし、明治以降の日本は人口が増加して、「このままでは膨大な人口を養えない。だから満洲が必要だ」と考えられていたのも事実なのです。今と異なり、産業も不十分だったので外貨が不足し、交易に生きる選択肢もありませんでした。

3.今後の日本の戦略

 今後の日本は、基本的にはシーパワーでいくべきだと筆者は考えています。日本の陸地面積は小さいですし、日本列島には鉱物資源やエネルギー資源に乏しいです。日本の大都市は海に面した都市ばかりであり、内陸の大都市は存在していません。石油を中東に依存しているため、シーレーンが死活問題であることも過去の日記で説明しています。

 海上交易を重視する戦略の場合、重要なことは輸入の原資です。私はよく、「カネなんて日銀が刷ればいい」と言います。しかし、それは「自国通貨」の話です。外国の通貨を刷ることはできません。日本は今まで、輸入の原資を工業に依存してきました。ところが、この戦略を将来も継続できるのか、黄信号となっています。中国や韓国、ASEANなどのライバルが育っているからです。

 日本の工業は資本財がメインであり、資本財は価格よりも品質重視ですから、当面は日本の優位は崩れないとは思います。しかし、すでに貿易赤字になっているとおり、「輸出で」輸入に必要な外貨を得ることは難しいと言わざるをえません。

 今の世界は資本移動が自由化しているため、外貨が足りなければ外国から借りるという選択肢もあります。アメリカやインド、イギリスはサービス業が強く、製造業が弱いために経常収支赤字が長年にわたって続いています。しかし、経常収支が赤字であっても、経済成長は可能なのです。ただし、資本収支の黒字に頼る場合、他国からカネを貸してもらったり、投資してもらう必要があるので、サービス業の収益性が高い必要があります。

 今後の日本は、資本財の輸出で外貨を獲得しつつ、サービス業の繁栄によってGDPを成長させ、資本輸入国になっていくのではないでしょうか?

 なお、シーパワー戦略が正しいとしても、大地の恵みを「完全否定」してはいけません。安倍政権は完全にシーパワーに特化し、農産物を「輸出の商品」にして、競争力が無い農産物は淘汰しても良いと考えているようですが、これは間違いだと思います。食糧の安全保障を考えれば、農業を保護する政策もある程度は維持するべきなのです。国土強靱化についても、ランドパワーっぽい政策ではありますが、結局人間というのは大地で生活するのですから、国土インフラの強靱化も絶対に必要でしょう。サービス業の収益性を高めて資本輸入を増やすには、サービス業を営む上での「安全性」つまり建物やインフラの強靱性が必要でしょう。
※一部の国には、船上で生活する民族もいるようですが、日本人は大地の上で生活しています。

 前にも書きましたが、「完全に」ある戦略や思想に特化して、他の戦略や思想を排除・否定する態度は間違っています。安倍政権はランドパワーとしての日本を完全否定し、シーパワー一本でやっていく態度であるように見えてなりません。

 また、「ランドパワーはインフラの整備や陸続きに国境を接する国との緊張から高コスト(非効率)になりがちだ」という意見がありますが、これも「現代は」間違いです。

 昔であれば、大陸間弾道弾が無かったし、空母や飛行機が無かったので確かにそうでしょう。しかし現代であれば、中国や北朝鮮から核ミサイルが飛んでくるので、シーパワーとして大陸から離れていても、軍備にお金をかける必要があるのです。また、港湾の整備などインフラを強化しないと、港湾の競争力が衰えて、大型タンカーが入港できないでしょう。

 シーレーン防衛のために、そろそろアメリカから「日本も軍を出せ、自国の商船は自国で防衛しろ!」と言われかねず、「シーパワーのほうが低コストで有利だ」とは必ずしも言えないのです。

 ・・・要するに言いたいのは、「何か一つの思想一辺倒」は危険だ、「バランス」が必要だということです。基本的にはシーパワーでいくべきですが、シーパワー一辺倒で完全にランドパワーの要素を捨て去ると、色々な面で脆弱な国家になりますよ・・・ということです。