みなさんこんにちは。
酒井根走遊会です。
今回は前回の記事で紹介した“閾値の2部練“を一本一本シューズを履き替えて行い、シューズのレビューをしていきます。
基本的に酒井根走遊会のブログでは“シューズレビュー”の記事はほとんどないのですが、現在の陸上競技界はシューズの側から“体をどのように使えばいいのか“という問いがランナーの方に向かって発信されている時代です。
私は2020年からニューバランスのシューズを使用しています。
一つ一つかなり個性があり、走り方を変えたり、はまるシューズで攻めたりといろいろと楽しませてもらっています。
ニューバランスに拘っているわけではないのですが、ニュージーランド国内で試し履きができて、送料・価格・返品などの面でも最も手軽に購入できること。また、自分の足型にもあっていてサイズも選びやすいことから続けて購入しています。
事前情報として、日本では私はアシックスターサーマジック25.5㎝・ナイキルナスパイダー25.5cm・ナイキルナグライド25.5cmなどを愛用していました。
さて今回は以下(上写真)のシューズを考察してきたいと思います。
‐ NB Fuelcell 5280
‐ NB Fuelcell RC elite
- NB Fuelcell RC elite v2
- NB Fuelcell RC elite v3
- NB Fuelcell Rebel 3 (追加でFuelcell Rebel 1)
NB Fuelcell 5280
さてこちらはニューバランスのロードレースシューズの初代になります。
サイズは女性用US8.5 (25.5㎝)ワイドBでやや足幅が狭く感じられます。しかし長さは十分なので靴擦れはしないフィット感です。アッパー素材はニットメッシュとなっており、靴ひもは完全に飾り程度なので、トラックなどのカーブを走る場合には踵がかなり横ずれします。
履いた感じは、接地時にすぐにつま先あたりに重心が移動させられる感覚があります。接地して体が弾むのを待たずして一瞬でつま先の方に力が集まることを感じます。
そのため、空中で接地までを待った後で“接地の瞬間にすぐに脚を引き上げる“という意識が求められます。
接地の瞬間からつま先に力が集まってくるときに、つま先で抜ける時に蹴る動作になってしまうと、このシューズの利点がマイナスに働き、かなりふくらはぎやハムストリングを消耗してしまうと思います。
私の走り方は、踵が接地後の沈み込み時に少しだけ地面に触れるような走り方です。
このシューズを履いて練習をすると、いいポイントにはまらないとうまく弾まないだけでなく、進行方向に対して若干ブレーキを感じます(逆方向に跳ね返ってくるように感じる)。また脚を筋力任せに使うようになります。逆にいいポイントにはまると、スピードが限りなく上がっていくような脚の回転と空中での待ち感、疾走感を得られます。定期的にスピード練習で使用して、フォームのずれを修正していくシューズとして使っています。
また薄い底のわりに、ロードで使用しても足底やふくらはぎへのダメージは少ないです。しかしこれは走り方、体格、筋肉のつき方、腱の強さなどで大きく変わってくるところだと思います。
わたしは10㎞のロードレースで何度か使っていますが、多くの人がはまる距離は1000m~3㎞あたりだと思います。
閾値2部練での結果
Rebel3 のアップ2k‐1k後に履き替えて最初に疾走したシューズです。結果として狙ったペースにはまっていますが、やはりソールの薄さからくる”待ち時間が少ない”感じが如実にストライドの短さに出ているような気がします。
NB Fuelcell RC elite
さてこちらはニューバランスのロードレースシューズの2代目になります。
サイズは女性用US8.5 (25.5㎝)ワイドBでいつも通りの履き感です。アッパー素材は他のFuelcellモデルと比べるとやや厚めにできていますが、マラソンを走っても特に蒸れすぎる、熱く感じる、重く感じるといったことはありません。
ソールには黒い三角形のゴムの滑り止めが付いているためかなりグリップがあります。そのため、ロード・砂利道・トラック・芝生など様々な場所に対応してくれる万能シューズです。
グリップが効きすぎて、トラックなどのカーブを走り続けるようなところでは若干踵が横にずれる感覚はありますが、ある程度状態が新しいものであればそれも気にならないと思います。
このシューズの良いところは、現在各メーカーから販売されているモデルだと、“中厚底“と呼ばれる部類に入る様なソールであるところです。
グリップが強いだけでなく、接地で地面を捉える感覚を強く得られます。また最後の離地の瞬間まで力が伝達している感覚があります。また、5280のように接地ポイント(酒井根走遊会用語のスポット)を外して逆側に跳ね返されるようなこともありません。踵がある程度高いためか、スポットを外してもある程度は前に体を運んでくれます。
そのため、トラックの練習では、ある程度力を抜きつつも、クッションと反発の両立で気持ちよく前に体を運べるだけでなく、自分でペース変化のコントロールもつけやすいと感じます。
欠点としては裏の黒いゴムが硬いのは良いのですが、ゴムのついているプラスチック部分のひび割れはすぐに起こり、見た目は良くなくなります。ただひび割れは起こりますが全く壊れません。
このシューズでの対応距離の目安は1000m‐マラソンまでの範囲をカバーできます。ただしマラソンやハーフマラソンでは膝下・膝上どちらも筋力を強化強化しておく必要があります。
閾値2部練での結果
基本的に私の3分18-20秒/㎞あたりでケイデンスが180/分になります。私の体が快適に感じるリズムと実際のタイムがかみ合ているのではないかと思われます。
NB Fuelcell RC elite v2
さてこちらはニューバランスのロードレースシューズの3代目になります。
サイズは女性用US8 (25.0㎝)ワイドBでいつも通りの履き感です。
ここでは紹介していませんが、NBの初代厚底カーボンシューズ・Fuelcell TCではアッパーとソールの付着部が破れやすいという欠点がありました。しかしこちらはそれを克服し1000㎞以上走っても破れませんでした。
ソールもラバー部分がスポンジ部分を守ってくれるので、シューズ全体の耐久性は非常に高くなっています。
私は5280解説内で前述したとおり踵が削れないような接地になるので、踵から入る人は削れやすいかもしれません。
私は現在持っているシューズの中ではこちらをレース用として使用しています。
このシューズでは、空中から地面を捉えに行く前に少し接地を待ちますが、接地時に脚だけでなく体全体がかなり前に持っていかれる感覚があります。その瞬間の脚と姿勢、重心の乗る位置から止まれなくなるような感覚すら覚えます。
そのため、接地から素早く脚を引き上げる必要があります。これはペースを上げれば上げる分だけ顕著に現れます。空中で待つ時間があることと、接地から離地へ素早く意識する、二つの感覚が交互にあるのである程度速いペースでタイミングを掴んでいく必要があると思います。
また、分厚いソールのわりに接地で乗り込むと瞬時に、ソール(接地面)が硬くなって前に流れていく力を感じるので、薄いソールのシューズの接地感と脚を素早く回してスピードを上げていく感覚に非常に近いものと感じます。
また対応距離も1000m~マラソンまで幅広くレースペースに対応してくれることが魅力だと思います。
しかしマラソンに対する持久力が培われていない場合には、ハーフマラソンあたりまでで使用した方が良いかとも思います。
閾値2部練での結果
180/分のケイデンスでもペースが3分10~15秒/㎞あたりまで上がっていることを考えると、ストライドが思ったよりも伸びているのではないかと思われます。
NB Fuelcell RC elite v3
さてこちらはニューバランスのロードレースシューズの4代目になります。
アッパーは私の嫌いなニットタイプになっていますが、紐を占める位置が甲のかなり高いところまで来ているので、しっかりと占めると踵が浮くような感覚は全くありません。
サイズは女性用US8.5 (25.5㎝)ワイドBでいつも通りの履き感です。
このシューズ、前回よりも接地時に安定する作りになっているのか、RC elite v2と比較するまでもなく体が前に持っていかれる感覚がほとんどありません。上に跳ねるという感覚です。
またクッションも非常に優れている反面、反発が返ってくる時間を接地時にかなり待つ必要があります。
このため“ペースを上げたい“という衝動に駆られて、ピッチを上げてもタイミングがずれてきて逆に遅くなります。
このシューズである程度ペースを上げて走るには、跳ねている時に“接地を待つ”感覚と、接地してから“待って溜めて反発をもらう”感覚の二つの待つ感覚が必要になります。
もしかしたら、“大きいストライド”と“高い高さから体を落とす”という二つの要素でスピードをコントロールしている選手にはかなりはまるのかもしれません。実際に調子のいい時にこちらの靴で、大きい動きで1kを行ったところ低めの努力感で2分40秒で走ることができました。
しかし、この溜め感とやや遅めに感じるピッチで無酸素領域で追い込まれたことを考えると、2分35秒や30秒といったペース領域に対して、ここから先にどのようにスピード練習に繋げてよいのか先があまり見えないといった感想を持ちました。
4~6㎞のテンポでも気持ちよく走れるのですが、スピードが乗ってくるというものではなく、あくまで“待つ走り”です。ここではペースが上がってきたり、切り替えることは難しかったりします。
“一定のペースのはまる位置とタイミングを発見したらそのまま同じように走り続けてくれ“とシューズが訴えているようでした。
そのため“マラソン ~ ハーフマラソン”といった一定のペースを安定して乗せていくレースでは、はまれば良い武器になると思いましたが、私としては物足りなさを感じてしまいます。
シューズに乗る位置も、靴の中足部が最も反発に優れるので、やや体を前傾させつつも接地で待つという不安定な状態になるように思います。
NBの今までのシューズでいうと、NB fuelcell TCの初期版とかなり似ています。そのため、ロングランや仕事終わりの疲れた状態でのJOGでは、“長い接地でペースを上げずにゆったり走ろう“という意識が働くので、クッション・タイミングの遅い反発・上に跳ねる感覚、などの効果でゆっくり気持ちよく走れるような感覚があります。
私の中では、こちらのシューズは疲労時のJOG、ロングラン、ゆったりしたテンポ(マラソンペースか少しLTに入るくらい)がお勧めです。
閾値2部練での結果
沈み込みがややある分、反発した後のストライドがペースが上がると若干伸びているのでは、と思われます。
最後にアップシューズで、Fuelcell Rebel とFuelcell Rebel 1を紹介します。
Fuelcell Rebel 3
まずFuelcell Rebel3は私が最近買ったNBのシューズです。アッパーは前作のRebel2と同様と、シュータンとアッパー素材は分かれており、通気性が良いことは同じですが、前作よりも生地は若干厚めで柔らかくなっています。ソールとの付着部が補強されているのを見る限り、前作の課題であった耐久性を向上させているように思います。サイズは女性用US8.5 25.5cmでいつも通りの履き心地です。
初代・2代目と比較して最も変わったところは、ソールの柔らかさと沈み込み具合だと思います。初代は硬く、2代目は柔らかいが沈み込まず、だったものがRebel3では“柔らかくさらに沈み込む“というものになりました。
この“柔らかくさらに沈み込む”は好みがかなり分かれるポイントだと思います。
私はトレーニングでは足裏で地面を捉えて、自分の腱と筋力が反発を感じ取って体が前方方向にはじかれるような感覚を好みます。Rebel2でソールの柔らかさはありましたが、それと共に地面を捉える・反発するまでの時間が短かったため、スピード練習でも気持ちよくタイミングを合わせられました。
しかしRebel3では“柔らかさ”で地面と足を一度包み込んでから、フワッと跳ね返るような機能になっています。
そのため、1000mなどのスピードを出した時には、接地時の待ち時間がかなり長く感じられるようになります。
かといって待った分大きく反発するのかというとそうでもなく、1000mを全力で走るときは“ゆったりと腿上げを繰り返しながら走っている”感覚になります。
ペースに関しては2分40秒あたりまで上げることは可能ですが、スピードのコントロールという面では、靴のクッションのタイミングに合わせなければならないので、“ここでスプリント!“という気持ちのいい切り替えはかなり難しいと思います。RC elite v3のトレーニング版と考えてまず間違いないと思います。感覚は非常によく似ています。前ではなく上に気持ちよく弾む感覚は、疲労したときのJOG、ロングラン、ロングテンポなどに向いていると思います。また、蹴りすぎてしまう人はこの靴だと全く走れなくなるので、クッションを感じることと弾む感覚を養っていくことにいい結果をもたらすかもしれません。
閾値2部練での結果
”気持ち良く”は走れますが、沈み込みと反発がやはり遅れてくるような結果になっていると思われます。しかし”跳ねている”感覚や走り方になるので、ピッチは上げにくいですが、ストライドは若干伸ばしやすいのではないかと思います。
Fuelcell Rebel 1
まずFuelcell Rebel1は私が最初に買ったNBのシューズです。アッパーは硬めの伸縮しない素材と、伸縮するシュータン部分が一体化しています。サイズは女性用US8.5 25.5cmを履いていましたが、使用しているうちにだんだん固く小さくなっていくような感覚があります。硬い素材で伸縮性もないため靴の中がかなり蒸れます。
踵部のソールはかなりの厚みがありますが、ソールの前半分は薄めになっており、接地感がかなりあります。この接地感がFuelcell5280に似ているために気に入っていました。もちろん踵部が厚い分接地時間が長くなっても、サポートがありアキレス腱やふくらはぎを痛めにくい点が良い点です。
また非常に軽く、1000mのスピード練習でも、スピードのコントロールがしやすくなっています。
カーボンが入っているシューズと違うところは、反発性はあまりなく、自分の筋力で踏んでいくことが求められるポイントです。
体重が乗るポイントを少し押す・押しに行く意識が必要であるとともに、素早い脚の回収も必要です。そのため、私自身は自分のタイミングでのピッチコントロールが非常にしやすく感じていました。
トラックのレースでも見た目以上にグリップが効き、踵もずれないため、3000mや5000mでも使えました。現在は現行のルール上トラックレースでは使えませんが、1000のインターバル~20㎞を越えるテンポ、ロングランまで幅広い練習スピードと距離をカバーしてくれます。
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いかがだったでしょうか?
最近のシューズは、重心位置、シューズの最も反発の出るポイント、乗せておくタイミング、脚を引き上げるタイミングなどをランニング中に考えることが基本的なことになってきました。
私がスポットに気が付いたのが約14年ほど前ですが、当時は自分自身では“スポットにはまっている”・“今日はスポットが見当たらない”という日常を発見をできたことに感動していました。
現在では、シューズの方からスポットの発見をランナーに向かって発信し、促してくれています。
以前は、コーチによる経験の言語化で選手に伝えられ理解できる・理解できないというランニング技術でしたが、今の時代はシューズが技術的にサポートしランナーに走動作の洗練を促しています。
つまりは技術コーチが足元に備わっている時代になったといっても過言ではありません。そうした道具を利用して毎日のトレーニングで変化感じ、発見を洗練させて自分の走りを磨いていきたいですね。
さらには各レースや練習における目的に応じたシューズ選びも練習の効果を最大限に引き出し吸収する、レースで自分のプラン通りの走りができる・相手の作戦にも対応して出し向けるなどに対し非常に重要な要素になってきます。
今回はニューバランスのシューズレビューでした。参考になりましたら非常にうれしく思います。