みなさんこんにちは。
酒井根走遊会です。
今回は『停滞と後退の要因を考える』 “止まれない” というテーマでお送りします。
なぜ、『停滞と後退の原因』もしくは『停滞と後退の理由』ではなく『要因』であるかというと、今回の記事で紹介・考察する内容はあくまでも一つの要素として受け取っていただきたいからです。
パフォーマンスが停滞したり、後退したりする理由には多くの要因が絡んでいるため、一概に“これがダメだった“という決定をすることは難しいです。
またパフォーマンスが向上したときに、“これが良かった”と要因を一つに絞ることも難しいです。
そのため、コーチとして選手として様々な要因を分析する参考程度に読んでいただけると有難く思います。
今回はパフォーマンスが停滞・後退する一つの大きな要因として
“止まれない”
ということ考えてみたいと思います。
多くの日本の選手が陥りやすい要因ですので、最後まで読んでいただけると有難く思います。
(止まれないとき、止まっても大丈夫と思える心のゆとりを持てる選手を目指しましょう。)
目次
1 “止まれない“とは
2 “止まれない”理由
3 “区切りをつける・見切りをつける”
4 “区切りをつけるために”
5 まとめ
1 “止まれない“とは
陸上競技を行うほとんどの競技者には、年間であったり、半年であったり、3か月であったりのトレーニング期間の中で“ゴール”というものが存在します。
・ 今年の目標
・ トラックシーズンの目標
・ ロードシーズンの目標
といったようにある程度の期間の中で“目標”を設定し、そこから現在の状況・期間を計算してトレーニングを組み立てていくと思います。
特に大きな大会があればそこに向かって計画を進行させ調子を上げていきます。
調子を上げていき、最終的なゴールにたどり着いたとき、そして思い描いたパフォーマンスを発揮できたレースの後で、酒井根走遊会のブログ読者の方々はどのような選択をするでしょうか?
① 力のある状態を継続しつつ、トレーニングをさらに増やして、次の結果を狙う
② 新しい目標を設定して、強い状態から基礎練習に入る
③ 一度休憩をはさんで、心と体をリフレッシュしてから次のことを考える
日本の多くの選手、特に中学生・高校生・大学生は①を選択する選手が多いのではないでしょうか。または①・②を選手に勧めるコーチも多いのではないでしょうか。
レース期にピークを迎えた状態のまま、トレーニング・レースのサイクルを継続することによって、最初に設定した目標の後も少しの間、“良い結果”をレースの規模に関わらず得ることができます。その結果、“自分の実力が上がった”と考え、常にある程度高い結果を出すことが普通と考えるようになります。
そのため、ピーク期に出してきた結果とそのあとに引き続きだせている結果は、“いつでも基本的に出せる結果”と考えるようになります。
その高止まりした結果を常に出し続けた経験から、
・ 新しい目標を設定したするとき
・ 計画よりも継続を選択したとき
今の状態を基本に置く〈ベストが出ている状態を0と考える〉ことによって、さらに強いトレーニングで次の目標に向かおうとします。
こうした“高くなった時が基本”と考えて、レースを繰り返す・強い練習を長い期間継続してしまう状態を、“止まれない”状態と考えます。
2 “止まれない”理由
“止まれない“ことが起こった状態には様々な心理的要素が存在しますが中でも、
『もっとやったらもっと良くなる』
という意識が一番強いように思います。
『いまこの結果が出たならば、これを基礎にしてさらにペースアップして、距離を延ばして、足りない部分を取り入れてトレーニングを続けていけば、もっと良い結果が出る。』
そこに追い打ちをかけるように(もしくは調子のよい時は追い風に感じるかもしれませんが…)、日本では多くのレースが迫ってきます。結果が出て、次のレースを選び、さらに次のレースを選び、といった流れになり止まれなくなります。
もともとは、“最終ゴール”や“ここまでの目標”というものを決めて積み上げてきたものが、目標の大会で結果が出たことによって、次のトレーニング計画よりもすぐ来る“次のレース”を追いかけていくことに固執するようになります。
前項で、『目標の大会の後も ”少しの間も良い結果” をレースの規模に関わらず得ることができます』と書きました。“少しの間”とは、それが1か月~2か月の選手もいれば、1年以上も強い状態を維持する選手もいます。
短い場合には、『調子悪くなってきたな』という自覚があり、早い段階で次に切り替えることが可能です。
しかしそれ(結果が出る・毎回ベストに近いタイムで走れる状態)が、長期にわたる場合には、その中で浮き沈みを繰り返すため、なかなか次に切り替えることができません。
長期にわたって小さいサイクルを繰り返し ”今の自分は調子が悪いがまたすぐ良くなる” と思いこむ傾向が強くなります。そして、際限なく似たようなループ、良かった時のトレーニングを繰り返していきます。こうした長い期間の停滞や不調は、社会人の選手に見られやすいのものです。
自己管理が中心となる社会人選手の場合、“止まれない”状態というのは、内的な心理に起因することが多いと思います。
しかし、中学生・高校生・大学生で“止まれない”状態に陥ったままキャリアを積んでいく基礎となっているのは、内的な要因だけでなく、外的な要因も多く考えられます。
内的な要因
・ 成長期で体の成長と共に筋力などの能力が上がったこと
・ 3年間や4年間といった枠組みの中で、早く成長したいと考えること
・ 大人よりも時間の流れを長く感じること(先月の記録も随分前に出したように感じる)
外的な要因
・ マルチスポーツの概念がなく、年中同じスポーツをしなければならないこと
・ チームスポーツで、自分のレベルを下げてはいけないこと
・ チームスポーツで、自分の流れで休めないこと
・ 年間を通して、年中レースがあること
・ 大人(親・コーチ)からの期待・プレッシャー
こうしたことも“止まれない“要因、もしくは”止まれない“心理・習性を形作っているといえます。
“止まれない“ことから得られた結果、狙っていなかった大会でのパフォーマンス、がトレーニング計画から外れていくにしたがって、少しずつ理想の自分(計画当初に描いた目標)と現実の自分(計画を外れて予想していなかった結果・状態)の間に溝を作っていきます。
“できた事実“を見すぎて、現実の自分とのギャップに混乱し、何をすればいいのかわからない状態に陥ってしまうことが、”止まれない“状態の行き着く先です。この状態から一人で何か(良さそうなもの)を選択し、継続し、復調することは非常に難しいです。
そのため、コーチもしくは選手自身が
・ “止まれない”状態を早めに察知し、レース・トレーニングに“見切りをつける”
・ 理想の自分と現実の自分の違いに悩みだしたら、今の走りに“区切りをつける“
と決断することが必要です。
(調子が良ければ、いつでも、どんなレースでも、常に思い通りに走れると考えてしまうが、、、)
3 “区切りをつける”と“見切りをつける“
パフォーマンスが長く停滞している、もしくは下降している。調子を著しく落としている。
そんな時は一度、現在行っているトレーニングに“区切りをつける”ことが大切です。
これはレース期であれば、今後のレースでの期待に“見切りをつける”早々にシーズンを終えることも必要です。そして休養し回復したのち、次の自分の明確な目標を設定しましょう。
調子が悪いなかで、やめてしまうことは“逃げ”・“我慢が足りない”と考えるかもしれませんが、そんなことは全くありません。むしろ、同じことを続けていれば“努力しているから”と安心してしまうことの方が現実から逃げているかもしれません。
実際、ニュージーランドの選手・オーストラリアの選手は調子が悪ければ
・ シーズンを早めに切り上げる
・ 予定していたレースに出ない
・ コーチとディスカッションしてトレーニングを再構築する
そして、休養期に入ったりします。
個人で進めているトレーニング計画のため、このように決定し実行できるというのが大きくかかわっていると思います。
しかし日本でもこのような決定を早めに下して、“次“にすぐに切り替えてしまうことが”停滞・下降“を引きづってしまう今の現状に終止符を打つ最短距離であることを理解しておく必要があると思います。
(走りをコントロールすること同様に、調子をコントロールすること・ピーク期まで計画を着実に進行させていくこともアスリートとしての実力)
4 “区切りをつける”ために
“区切りをつける“といっても、調子を落としている中で
・ 大切な大会が迫っている
・ まだ試していないことがある
・ 体は動いていると思う
・ 修正できた経験がある
・ もう一度やればうまくいくはず
といったように状況面・体力面・心理面の部分的な面を切り取ると、どうしても続けなければならない状況や、続けたい状況に置かれていることが多々あります。
特に駅伝チームなどで計画が進行している場合は難しい局面が多く訪れるのではないかと思います。
そんな時は、1か月先・2か月先など『まずここまで』という範囲を決めて、そこまでは現在行っていることを継続する方法が良いと思います。その中で、調子が上向いても、下降を続けても、決定した期日になったら一度現在のトレーニングをやめます。これは、『まずここまで』という期間の中でもたまに調子が上がることがあるためです。長い期間を見れば右肩下がりになっていても、今上がっていると考えるとそのままどんどん上げていく期待が強くなります。しかし、明確に“次”の目標を達成するためには、一度現在の流れを止めることを優先します。
短期的な浮き沈みではなく、長期的な結果と現状を確認し、
・ いつごろまで調子が良かったのか
・ 調子が良くなる時期まではどのような期間を経たのか
・ いつから調子が落ちてきたのか
・ 調子が落ちてからどのくらいの期間を経過したのか
・ 下降している中での浮き沈み
などを分析することが必要です。
そしてどうやら今のまま継続していても上がらない、上がりにくい、次のレベルに到達できない、ということを客観的に知ることが重要です。
そして、休養を挟んだ後に新しい目標設定とトレーニング計画の構築を行うとよいでしょう。
(まず計画を決めるときには、休暇を最後に設定しましょう。もし計画が順調に行っていればなおさら、休暇で心身をリフレッシュしましょう。)
5 まとめ
“未来を見通す、過去を見すぎない“
人間は今まで行ってきた、積み重ねてきたことをやめることに対して強い抵抗を覚えます。
調子を落としてから”強度の強い練習を重ねた”・”走りこんだ”、だからもう少し練習を続けてみれば、、、
『どこかでよくなるのではないか。』
『どこかで流れが変わるのではないか。』
と考え、ずるずると続けてしまう習性があります。それは今までの努力を無駄にしたくないという意識・今よりも状態が下がることを恐れる意識が働くためです。
しかし今の状態から抜け出したいなら、気持ちよく全部やめて計画を一から構築して再スタートが最も効果的な方法です。
長距離選手は、“続ける正義“・”耐える強さ“に魅力を感じ
『苦しい中では常にそのようにあるべきだ』と考えがちです。
特に日本の選手は中学校や高校の部活動の教育で種目特性も相まってそのように考える傾向が強いように思います。
しかし『リセットする』ということは精神的にも肉体的にも合理的な選択肢であることを理解しておく必要があります。
いま“止まれない”状態から、停滞と下降という道に迷い込んで、理想の自分と現実の自分に大きな隔たりができてしまった選手がいるならば、勇気をもって“区切り”をつけましょう。
そして新しい計画を考えて心機一転スタートを切ることをお勧めします。
見えなくなった地図をもう一度書こうとするのではなく、新しい白い紙に自分がたどり着きたい目的地と新しい道をコーチと相談しながら書いてみてはいかがでしょうか。
同じように履いていたランニングシューズでも、新鮮な気持ちで新しい一歩を踏み出せると思います。
(『わからなくなったらスタート地点からもう一回』と焦らず確かな一歩を踏み出しましょう)